第382話:アイアンクロー

1.



「……しかし神獣たる我よりも高い戦闘力を持つ人間がここまで多いとはな」


 珍獣もとい『ぬいちゃん』と名付けられたぬいぐるみサイズの犬っぽい馬っぽい何かは俺たちを見渡してしみじみと呟く。


 スノウ、フレア、ウェンディ、シトリー、シエル。

 そして俺。

 

 明確に上回っているのはこの6人だ。

 たったの6人。

 されど6人。

 神の遣いというくらいだから6人もいるというのが驚きなのだろう。


「そう聞くとそもそも神ってのが大したことないんじゃないかとか思っちゃうけど……」

「神とは力ではない。存在そのものが神なのだ。貴様程度の物差しで測ろうということ自体が愚か極まりないとしか言えな――うおっ!?」


「燃やしますか?」

「燃やすな燃やすな」


 フレアがぬいちゃんの頭をひっつかんで笑顔で聞いてくる。

 あ、圧が凄い。


「ぬいちゃん? お兄さまは神様よりも尊い御方なのですから、あまり馬鹿にしちゃいけませんよ?」

「き、肝に銘じておこう」


 神獣なのにパワーバランスでわからされてるの可哀想だなあ。

 フレアアイアンクローから開放されたぬいちゃんはそっとそこから離れる。

 

「……あの、神様が僕の妹を助けてくれた、という認識で良いのですか?」

「お前の妹だから助けたわけではない。とりわけ強い運命力を持っている者が落ちてきたので、保護したまで」

「そういやなんでぬいちゃんはダンジョンの中にいたんだ?」

「そのぬいちゃんという呼び方はよせ。威厳を失っていくように感じる」

「威厳なんてあってないようなもんだろ」


 綾乃と1、2を争うゆるい見た目のフレアにアイアンクローかまされてる時点で。

 

「……あの空間にいたのは偶然だ。神によって送られてきた先があそこだった。そういう意味では、まず――」


 ミンシヤの方をくるりと向く。

 動作だけ見ているとマジで動くぬいぐるみだな。


「お前の妹を助けるのは定め付けられていたのかもしれない」

「ありがとうございます……!」


「ま、そこはとりあえず置いといて。妹――ミンリンを保存していた魔法は誰にでも使えるのか?」

「当然使える。あの状態ならば外界の影響は一切受けぬ」

「魔法も防げるのか? 例えばフレアの魔法とかも」

「……そこまでは無理だ」


 なるほど、完全に万能というわけではないのか。

 しかしあの状態を見るに、魔石だったりモンスターの攻撃程度だったりは防げるし、ミンリンを見ていたウェンディ曰く代謝反応自体も止まっていた様子だったとのこと。


「……ぬいちゃんならミンリンを連れて外に出れたんじゃないか?」

「6つ7つ程度の幼子を連れて未知の領域を歩けると思うほど我は己に自惚れていない」


 なるほど、どうやら慎重派なようだ。


「魔石粒子とぬいちゃんは関係あるのか?」

「あれはあのダンジョンのボスが生んでいるものだろう。我は関係ない」

 

 ボスが生んでいる、か。

 まあぬいちゃんの周りで特に粒子魔石が濃かったわけでもないし、むしろあの空間は無かったくらいだからな。

 

 多分あの場所の粒子はぬいちゃんが除けていたのだろう。


「ぬいちゃんの力を見ておきたいし、またこの後ダンジョンに向かうからちょっと戦ってもらうか」



2.



「ほー……」


 光球みたいなものでばったばったとモンスターをなぎ倒していくぬいちゃん。

 今回のメンバーは俺、シトリー、フレア、シエル、ティナに加えて鈴鈴の六人――と、ぬいちゃんだ。

 

 スノウとウェンディは留守番。

 ぬいちゃんが粒子を退ける力を持っているというのもあるし、フレアが「順番です!」と言い張ったというのも理由の一つでもある。


 まあそこはどうでもいいとして。

 ミンシヤは妹――ミンリンの病院で付きっきりになっているので不在だ。


 鈴鈴のスキルはダンジョン攻略にかなり役立つのでついてきてもらった感じ。

 個人の戦闘力も決して低いわけではないしな。


「中々やるのう。これなら確かに拠点の防衛くらいなら任せられそうじゃ」

「だな。レイさんが基本いてくれるとは言え、それでも手が足りてるわけじゃないし……なあぬいちゃん、お前って何か食べたりするのか?」

「……基本食事は必要ない。貴様、我のことをペットか何かと勘違いしているのではないだろうな?」

「流石にそこまではいかないけど……」


 まあでもペット……ペットなのか?

 案外ティナのとこの愛猫であるチャチャと気があったりするかもしれない。


 ていうかそうだったらかなり面白い。

 元野良と神の遣いが友達になるって。


 多分ルルとは気が合う。

 そんな感じがする。


「……ん」


 

 更に進んでいくと下へ続く階段を見つけた。

 

「進むのか?」


 ぬいちゃんの確認に頷く。


「もちろん」


 ――で。


 下へ降りると、それまでの雰囲気とはガラリと変わっていた。

 いや、変わっていたなんてもんじゃない。

 

「……おいおい嘘だろ」

「や、やばいネこれは……」


 鈴鈴が生唾を飲み込む。

 その層の床や壁、天井に至るまで。


 全てに魔石がゴロゴロと埋め込まれているような状況なのだ。

 そして――


「粒子がかなり濃いな」


 ぬいちゃんがぽつりと呟く。

 ウェンディは風で物理的に押しのけて擬似的な結界を張っていたような感じなのだが、ぬいちゃんは恐らく魔法的な結界を張っている。


 お陰で濃かろうがそうじゃなかろうがあまり関係はないのだが、結界外部の情報を知ることもできるのだろう。


「そりゃ壁や床にまで影響を及ぼすほどだからなあ……」


 ここまで来るともはや吸ったら即死するんじゃないかって程だな。

 シトリーが首を傾げる。


「そろそろボスなのかしら?」

「かもな。気を引き締めて行こう」



-----------

最近短めが続いてすみません。

区切りが……区切りが……

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