第374話:コツ

「……うん。が見えるようになった……かも」


 2層も難なく突破し、3層。

 2層の途中で2回、3層へ入って1回と、途中でもう1回。


 粒子化した魔石をティナに取り込んでもらい続けた結果、感知の範囲がなんとダンジョンの1層分を全てカバーするレベルになったようだ。

 とんでもない話だな。

 1層や2層を見るに、少なくともこのダンジョンの1層辺りの広さは千代田区くらいはありそうなのだが。


 ちなみに新宿ダンジョンは正確に測ったわけではないが恐らく1層辺り東京全域分くらいの広さがある。

 難易度もそれなりということもあるが、いつまで経っても攻略が進まないわけだ。


 広すぎる、でかすぎる、美味すぎる。

 海外の探索者も新宿ダンジョンへ出稼ぎに来ることはそう珍しくないのである。


 まあボスは倒しちゃってるからそのうち真意層まで行かないといけなくはなるのだが……


 そういう意味では単独で踏破してきたステラは流石アスカロンの娘としか言いようがない。

 とんでもないポテンシャルである。


「どうだ? 黄色い反応はあるか?」

「ううん、全部赤いし……全部モンスターだと思う」


 てことは3層も特にめぼしいものは無しか。

 ちなみに既にモンスターの強さはかなりのもので、鈴鈴はタイマンでも結構厳しそう。

 スキルがなければもう無理だっただろうな。

 ミンシヤはスキル無しでも対応できているが、囲まれてしまえば難しいだろう。

 それでもスキル込みなら切り抜けられそうだが。


 なので基本的にはモンスターへの対処は俺とスノウ、そしてウェンディで行っている。

 大体は俺だな。


 ミンシヤに硬気功とやらの気功術? のちょっとしたコツみたいなものを教えてもらって、それを実践しながらモンスターを素手で殴っている。

 

 そのイメージ法というのが――


「イメージを先行させて――」


 それに合わせて殴る。

 なんと言うのが近いのだろうか。

 自分の半透明な霊体がそこに存在していて、そいつが自分よりちょっとだけ先に動くのだ。


 その霊体は自分の魔力でできているような感じ。

 そうなるとむしろぴったり合わせないといけないのにズレてるじゃん、と思うかもしれないがここからがちょっと難しいのだ。


 自分はその霊体の動きよりちょっとだけ速く動いて、を合わせるのだ。

 それも、完璧に。


 もちろんそう簡単に行くわけではない。

 しかしその感覚が掴めれば、そのうち自分の魔力と自分の動きが追随するようなイメージを持てるようになるのだとか。


 もちろんこれは小手先に過ぎず、ガチでやるなら呼吸法とか座禅とかからやらなければいけないようだが……

 ダンジョン内でそこまでやるわけにも当然いかないので、まずはこれからやってる感じだな。


 というわけで実験台になったオークが吹き飛び、空中に出現した魔石をキャッチする。

 打撃の威力は若干上がっているような気がしないでもないが、先行させたイメージに追いつかせる為に速く動いているからそうなっているだけな気もする。

 

 やはり一朝一夕で身につくものではないのだろう。


 ……


「……そう簡単には行きませんね」


 そう呟いたのは、ウェンディ。

 彼女の魔力は完全に『凪いで』いる。


 膨大な魔力を俺から借り受けているはずなのに、全くそれを感じさせない。

 抑えているわけではないのだ。

 完璧に満たされている。

 そんな感覚。


「そう簡単にはって……もう完成してるようなものじゃないのか、それ」

「まだ歩きながらこの状態を保つ程度が限界です。走ったり、戦闘したりすると乱れてしまう」

「……コツをちょっと教えたくらいでそこまでできる人は初めてですよ?」


 ミンシヤの言葉に鈴鈴もうんうんと頷いている。

 

「普通じゃないアル。鈴鈴がそこに到達するまで何年かかった思ってるネ」

「あたしにもまだ無理ね。止まってたらある程度はできるけど」

「それも普通じゃないヨ!!」


 鈴鈴が突っ込みを入れる。

 まあ実際その通りだ。

 だって少なくとも俺は無理だもの。


 いいんだよ。

 スノウやウェンディが最初からある程度できるのは当然だ。

 

 別に悔しくないもん。

 ほんとだもん。


「……ゆうまさんも、筋はいいですよ?」

「…………どうも……」


 明らかに気を遣われたようなタイミングで褒められ、俺は更にちょっとしょんぼりするのだった。



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ちょっと区切り悪かったので短めです。

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