第372話:感知レベルアップ

1.



 引き続き1層探索中。

 ウェンディが俺の袖を引く。

 なにその動作、可愛い。


「マスター、また粒子が濃くなってきています」

「さっきので全部吸い尽くしたと思ったけど、時間経過で元に戻るのか……? 要検証だな」

 

 ウェンディの報告で幾つかの可能性が上がってきたな。


 一、単に先程のスキルレベルアップ時に全てを吸いきれなかった。

 二、時間経過で元に戻る。(ダンジョンの性質)

 三、時間経過で元に戻る。(そういうモンスターがいる)


 ぱっと思いつくのはこれくらいか。

 あり得るのは1と2だろうか。

 3のような特殊な性質を持つモンスターは、大抵の場合1層から出現することはないのだ。


 新宿ダンジョンでも6層からしか妖怪系は出ないしな。

 そこまではゴブリンだのオークだのスライムだの、出現率は低いが強いのでもオーガというレベルだ。


「とりあえず、今度はティナのスキルレベルを上げてみるか」

「うん、わかった」

  

 教えた通りにティナが手を突き出して、大量の粒子状な魔石が物凄い勢いで吸い込まれていく。

 しばらくして全てを吸い込み終わり、ティナがほうっと溜息をつく。


「どうだ?」

「ええと……凄いかも」


 お。

 どうやら目に見える変化があったようだ。


「まず、何かユーマとスノウとウェンディさんの周りに青いオーラ? みたいなのが見える」

「……青いオーラ?」

「うん、青いオーラ。それでミンシヤさんと鈴鈴さんは黄色い感じのオーラみたいなので……」


 ティナが通路の前と後ろをそれぞれ指さして、


「あっちには赤いオーラを纏ったモンスターが透けてるみたいに何体か見えるかな」

「……強さを示してるのかしら」


 まずスノウが推測を口に出す。

 確かに、区分けとしてはあり得るな。

 

 俺とスノウ、ウェンディが青でミンシヤと鈴鈴が黄。

 で、モンスターが赤。


 俺とスノウやウェンディ、ミンシヤと鈴鈴の間にある程度の実力差があるのが気になるところか。


「色に濃淡はあったりしますか?」

「うーん、悠真とスノウがちょっと濃い青……かな? 黄色もミンシヤさんの方が少し濃くて、赤色はみんな同じ感じ」

「……敵対度か?」


 ぱっと思いついたものを口に出してみた。

 

「敵対度?」

「友好度って言い換えた方がいいかもな」


 そうだとしたらしっくり来る。

 青、黄、赤。

 その順番で友好度が徐々に下がっていくと考えるのだ。


 同じ色の中でも濃淡で友好度が変わる。

 そう考えれば俺とスノウがちょっと濃いのは当然だし、ミンシヤと鈴鈴は単にまだ仲良くなってないから警戒が抜けきっていない、あるいは中立状態と言ったところか。


 赤に関しては、モンスターはどう考えても敵対的だからな。

 友好度はほぼ地の底だ。


「今まではなんとなくしかわからなかったんだけど、そうだとしたら結構便利かも」

「だな。人とモンスターとかの差は元々わかるんだよな?」

「うん、それもなんとなくだけど……ダンジョン内だったら赤いオーラは基本モンスターって判断になるのかな」


 後はこの間ダンジョン内で声をかけてきたような奴らが赤く表示されるのか青く表示されるのか、くらいだな。

 友好的と言えば友好的だし敵対的と言えば敵対的、みたいな。


「それって腹心のある人なんかもちゃんとオーラに反映されるの?」

「それは……どうだろう」


 スノウの問いにティナも首を傾げる。

 まあ今のところは敵か味方かが一発でわかるように強調表示が追加された、くらいに思っておいた方が良さそうだな。


 しかし便利なもんだ、そのスキル。

 実際、モンスターはともかく敵対的な探索者もいないでもない。


 最近では流石にめっきり減ったが、10年くらい前には探索者狩りってのもいたからな。

 モンスターを狩って魔石を集めた探索者を複数人で襲撃し、魔石含めた金品を奪い取るという強盗集団。


 これが中々タチの悪いもので、ダンジョン内での出来事は法整備があまり進んでおらず、最初期はダンジョン内の犯罪はグレーゾーンだったのだ。

 なにせモンスターに襲われて死んだのか、人に襲われて死んだのかの判断がつきづらい。


 死体が残っていれば話は別だが、基本的に人間の死体はダンジョン内で残ることがないからだ。

 モンスターが食い散らかすこともあるし、なんらかの要因でそもそも分解されるのが早かったりもする。

 大抵の場合はモンスターが食い散らかすか持ち去るかだな。


 そういうこともあって、ミンシヤも最初は妹の捜索と言わず遺留品を探すと言っていたわけなのだが。

 

 ぶっちゃけ俺たちは探索者狩りなんて気にしなくても良い。

 法整備もなされているし、そもそも俺たちを狩ることのできる探索者なんて世界中のどこを探してもいない。


 だが、ティナが将来的に探索者になるとして誰かとダンジョンへ潜るようなことがある時に役に立つことはあるかもしれないな。


「……範囲とか精度はどうだ?」

「精度は元々ほぼ完璧だったからあまり変わってないと思うけど、範囲は……広くなってるような気がする」

「どうだ? 何か特殊な反応はあるか?」

「……ううん、無いかな。途中でモンスターの反応がなくなってるところがあるから、そこが行き止まりかも」


 なるほど、当然だがそういうのも分かるのか。

 とりあえずミンシヤと鈴鈴の力も分かったことだし、ティナのスキルも強化できたことだしここからはスノウとウェンディの無双が始まるな。



2.



 2層へ続く階段は1層の一番奥にあった。

 新宿ダンジョンのようにその階層のどこかにランダムにあるのではなく、このように一番奥にあるパターンは探索漏れがなくて楽だな。

 

「凄い……こんな短時間で……」


 自分が何度アタックしても突破できなかった1層を難なく潜り抜けたことにミンシヤが驚いている。

 そして2層。


 2層も雰囲気が変わったような感じは特にない。

 とりあえず入口付近の粒子魔石は再びティナがスキルレベルアップに使って、掃除し。

 炭鉱のように奥へと続く道で、ちらほらモンスターが出てきてはそれを倒しているようなイメージ。


 魔石の大きさから推測するに、新宿ダンジョンの8層~9層相当だろうか。


「ほら、そろそろあんたも動いときなさい」

「あいあい」


 あまり動いていないといざという時に動けなくなってしまうので、定期的に体を温める必要があるのだ。

 オーク2匹。


 8層~9層相当となると、一級探索者でもそう簡単には倒せない相手になる。

 3人で囲んで1匹をやるようなイメージ。


 一級探索者と一口に言ってもピンからキリまであるけどな。

 なにせ知佳と柳枝さんと未菜さんがみんな一級なのだ。


 本来はもう少し細かく区分けしても良いと思うのだが、一級以上になるとそもそも人数が少ないからな。

 周りが一級以上だらけのこの状況がおかしいのだ。


 ……あ、でもそういえばこの間、未菜さんも特級探索者にランクアップされるかもみたいな話はしてたな。


「お手並拝見ネ」

「見るまでもないとは思いますけどね」


 鈴鈴とミンシヤがワクワクしているような目でこちらを見ている。

 ティナも特に何かを言うことはないが、期待しているようだ。

 あまり過度な期待はしないでほしい。


 というわけで、特に特筆すべきこともなく順当にオーク2匹に殴り勝つ。

 まあこの程度の敵に今更苦戦することはない。


 普通に1匹目を殴って倒して、2匹目を蹴り飛ばして倒す。

 その魔石を拾い上げて戻ってくると、鈴鈴とミンシヤがぽかんと口を開けていた。


「どうした?」

「いや……そんな喧嘩みたいな戦い方でよく勝てるアルな」

「ゆうまさんは格闘技等は習っていないのですか?」

「格闘技なあ。一応、師匠的な人は何人かいるけど。色々混じってるから結局喧嘩殺法っぽくなってる部分はあるかも」


 ウェンディ、未菜さん、レイさん、柳枝さん、アスカロン。

 というか俺の周りにいる人は大抵魔力なしの俺よりも強い。

 誰の戦いを見ていても勉強になるのだ。

「なら太極拳おすすめヨ!」

「なんで?」

「かっこいいからネ」


 うーむ。

 却下。


 けど太極拳がどうかはともかく、アスカロン辺りから身体能力の高い人用の拳法なんかは教わっても良いだろうな。

 理屈だけで言えば俺はアスカロンより遥かに強くなれるはずなのだ。

 せめて、ベリアルとか魔王くらいなら一人でぶちのめせるくらいにならないとな。

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