第371話:できること
ミンシヤと鈴鈴の実力を見るということで、俺たちは少し離れたところで二人の様子を見守ることにした。
WSRで10位という実力を持つミンシヤの方は心配いらないだろう。
問題は鈴鈴だな。
それなりに戦えるであろうというのは身のこなしを見ていればなんとなく分かるが、果たして……
ダンジョンに入る際、当然手荷物として大きめの旅行鞄を二人共それぞれ持ち込んでいる。
俺たちだって水や食糧その他は持ち込むのだ。
今でこそ召喚できるとは言え、ちょっと前まではそれにプラスして真剣を持ち込んでたわけだしな。
それはともかく。
接敵して俺たちが二人に戦闘を振った時点で、それぞれが既に武器を手にしていた。
ミンシヤが持っているのは、片刃で反り返るように湾曲した40cmから50cm程の刃を持つ片手刀。
刃部分の幅がかなり広く取られていて、俺が知っている中で最も近いのは俗にいう青龍刀というやつだろうか。
刃部分は重厚な黒塗りでできていて、それが見た目だけでなく実際の重量にも反映されているのは未菜さんが普段使う刀も数十kgある、という事実からも推測することができる。
で、鈴鈴は……
あれは鉄扇……か?
それを両手に1つずつで2つ。
隠し持っておく暗器なんかならともかく、普通に武器を準備して戦うという点ではデメリットしかなさそうだが。
未だにチャイナドレス(昨日のものとは違い、今度は黄色いというか金色。何色分持っているのだろうか)を着ているところと言い、やはりなんかあざといというか……狙ってやってる感が凄いな。
別に強ければ問題ないのだが、鉄扇をまともな戦闘に使うとなるとやや心配が勝つな。
「
「わかった」
俺たちにも分かるようにだろう、日本語でコミュニケーションを取った二人が同時に駆け出す。
――のと同時に。
何故か右の2匹が、あらぬ方向を向いて威嚇するように手に持っていた粗雑な棍棒を振り回し始めた。
その隙にミンシヤの青龍刀がざっくりとゴブリン2匹の首を刎ねる。
今のは、スキルか。
その名の通り相手に虚構を見せるというスキル。
言ってしまえば写○眼だ。
赤目に黒模様だったら完璧にそうだったな。
俺的にはその特徴が片目にしか現れていないというのがもう本当に羨ましい。
「にしても、発動条件が完全に自分に依存してるのは強いな」
「使い勝手はかなり良さそうね」
スノウも同意する。
「使い手本人の動きも悪くない。魔力量が伴えば、一気に化けるでしょうね」
というウェンディの評価。
いや、魔力量に関してはこの世界の人間の中では10番目という評価なので別に少なくはない……というかむしろ多い方なのだが。
まあこの二人にとっての基準は基本俺になってしまうので致し方ない話か。
で、右2匹は瞬殺されたのだが。
左2匹も既に1匹は魔石と化している。
ワープみたいな瞬間移動をした鈴鈴がさくっと首を刎ねていたのだ。
やっぱり不意を突くこともできる移動手段は強いな。
転移召喚で擬似的に似たことはできるし、今はスノウたちが俺を召喚するようなこともできるので積極的に使わなきゃな。
もう1匹はどうするのかなと眺めていると、鈴鈴は何故か鉄扇を閉じて後ろへ放り投げ、拳を構えた。
徒手空拳もいけるのか。
なんて思っていると――
「ハッ!!」
突っ込んできたゴブリンにカウンター気味で腹に掌底を叩き込み、背後の壁とサンドイッチしてその衝撃がダンジョンの壁にヒビを入れた。
「うわ、すごい」
ティナが思わずと言った具合に呟く。
確かにすごい。
あの魔力量でダンジョンの壁に亀裂を入れる程の威力。
それもモンスター1匹を挟んで、だ。
当然壁と掌底にサンドイッチされたゴブリンは魔石になって消えた。
その魔石のサイズもやはり新宿ダンジョン第7層のザコ敵程度の大きさはある。
今の一連の流れを見て確信したことがある。
ミンシヤは当然強い。
スキルも含めて――いや、スキル無しでも人類の頂点に近い実力を誇っている。
だが、鈴鈴もそれにかなり近い。
下手したら親父や柳枝さんにも食い下がることができるかもしれない程に。
……食い下がるだけで、流石に勝ちはしないだろうが。
やっぱり見るべきはランキングだけじゃないってことだな。
「どうネ、鈴鈴もそこそこやるヨ!」
「ど、どうでしょうか? 僕たちは足を引っ張らない程度には動けるように見えましたか?」
自信たっぷりの鈴鈴と、どちらかと言えば謙虚な姿勢を崩さないミンシヤ。
対照的だな。
実力的には逆の反応でも良いはずなんだが。
「足を引っ張るどころか、二人とも普通に戦力になるレベルだよ」
魔力無しでやりあったら当然のように俺が負けるだろうな。
スキルが有りなら結構良い勝負ができる自信はあるが。
もちろんスノウたちを召喚して、という意味ではなく物質召喚を駆使して。
まああれは天鳥さんに作ってもらったあれこれが便利だというのもあるのだが。
「……わたしも戦えるようになりたいなあ」
ティナがぽつりと呟く。
ミンシヤと鈴鈴の二人を見てよりダンジョンで活躍するということに対しての渇望が強まったのだろう。
それを見かねてか、ウェンディが提案する。
「よろしければ、私が指導いたしましょうか?」
「えっ!? いいの!?」
「途中で音を上げたりしない、と誓うのであれば。私はスノウほど優しくありませんよ」
「大丈夫! ぜひお願いします!」
……あらま。
ティナがウェンディに弟子入りしてしまった。
ウェンディの格闘術もかなりのものだからな。
そうなればレイさんも絡んでくるだろうし、うかうかしてると魔力なしの戦闘で俺がティナにボコられるという悲惨な現場がお届けされることに……
まじで嫌過ぎる。
頑張ろ。
「なあミンシヤ、さっきのスキルはどういう風に使ったんだ?」
「今のは一番簡単な使い方です。貴方たちが戦闘に参加してくる
なるほど、それであのゴブリンの反応か。
そこの隙を逃さずに突っ込んでひと息に2匹分の首を狩るのは本人の努力の賜物ってわけだな。
「その気になればもっと強い虚構を使うこともできますが……強ければ強いほど、周りを不可避的に巻き込んでしまうんです」
「男女を逆転させて見せてたのとはまた別で、意識しなくてもってことか」
「はい。なので使い所は結構難しくて……」
「だから明霞はソロでこのダンジョンへ潜ってたアル。そのせいであんなことにもなって」
あんなことってのは、魔石化のことか。
エリクシードで何事もなく治ったからまだしも、そうでなければ自分が死んでたかもしれないわけだからな。
しかし両親が自分や妹のことを認識できなくなっている状況下で、更に妹を失ってしまうかもしれないとなれば焦る気持ちもわかる。
……あ、そうだ。
「言い忘れてたけど、俺の知り合いに呪いのエキスパートがいるんだ。そいつも今色々あって大変だからすぐには来れないんだけど、何か分かることはあると思う」
エストール。
ダークエルフの王。
あいつは現在、ジョアンと共に贖罪の旅をしているらしいからな。
魔王の器になったことを公開しているわけではないのだからそんなことをする必要はない――と俺は思うのだが、そこはあの生真面目親子。
何かはしないと気が済まないらしい。
まあ好きなようにやってもらえばいいが。
シエルにさえ呪いをかけることのできる男だ。
こちらの世界で発動した謎の呪いに関してもなんとかできるかもしれない。
「呪いのエキスパート……」
「信じられないか?」
「いえ、そこまでしていただいても、僕は……何も返すことができないので」
「別に見返りが欲しくてやってるわけじゃない。ただ、何かが起きた時、周りにいる人だけでも守ってくれればそれでいい」
「いっそ体目当てとか言ってくれた方が手っ取り早いアル。ぺたんこの明霞より鈴鈴の方が魅力的ネ。だからこっちするよろし」
「ぼ、僕は男装するから大きくなったら困るし……」
「女の子らしいおしゃれなんかも全然知らないネ」
「知る必要がないし……」
「じゃあ男装しなくて良くなったらどうするのよ」
二人のやり取りを見ていたスノウが首を突っ込む。
「え? それは……」
「そろそろ真剣に考えておいた方がいいわ」
スノウはちらりと俺の方を見る。
「こいつはやると言ったらやる。あんたの問題もきっと解決するわよ」
そ、そんな過剰な期待を寄せられても俺ができるのはエストールを紹介して、妹をなんとか探し出すことくらいなんですけど……
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