第370話:粒子ダンジョン

1.



 ミンシヤの地元。

 少しは挨拶なんかもした方が良いかと思ったが、なるべく早くダンジョンを攻略してしまう方が良いだろうということで俺たちはほぼ直行でダンジョンへ来ていた。


 そこで改めて5人を召喚する。

 考え方を変えれば密入国みたいなものだが……

 まあ事態が事態なので多目に見てもらおう。


 ダンジョンの入口付近には部外者が立ち入らないように人が配置されている。

 彼らへミンシヤが事情を説明しに行っている間、シエルが物質魔法で外の拠点を作っていた。


「とりあえず、ダンジョン内部へはスノウとウェンディに同行してもらおうと思ってる。フレア、シトリー、シエルは外で知佳と綾乃を守ってくれ」

「中へついていくのは二人だけで良いのですか? マスター」

「転移召喚もあるからな。何かあればそっちで呼ぶ。俺が離れてる分、外を多めに配置しておきたいんだ」


 むしろそれでも中の方が戦力としては過剰なくらい。

 俺もいるわけだしな。


 スノウもウェンディも、もちろん他の三人も単体で十分以上の力を発揮する。

 ティナもいるので今回は念には念を入れて二人、というわけだ。

 

 連れていく面子の中に入っていないので若干拗ね気味なフレアの頭を撫でて宥めつつ、俺は作戦を伝える。


「ティナの感知範囲はかなり広いけど、流石にダンジョン内を全てカバーするってことは無理だと思う。少なくとも、現状では」

「うん」


 ティナが頷く。

 

「だからまずは一層の粒子魔石を俺が吸って、人体に影響がないことを確かめる。それが確認できたら、二層の粒子魔石をティナに吸ってもらおうと思ってる」

「……どうやって吸うの?」

「普通に魔石に触れて念じるだけだ。……シトリー、持ってきてるか?」

「うん、あるよ。はいどうぞ、ティナちゃん」

「あ、ありがとう」


 何故か過剰にティナの手を握る……というかさすりさすりしているシトリーにティナは若干引きつつ、手渡された魔石を見る。

 

 そう大きなものではない。 

 新宿ダンジョン3層のモンスターが落とすものと同程度だ。


「やってみな」

「……あ」


 ティナの手元から魔石が消えた。


「スキルの強化はそうやってやるんだ。わかったか?」

「うん、感覚は掴めたと思う」

「よし」


「……えっと」


 それを傍で見ていたミンシヤが声を出す。


「これって僕たちが見て良かったんですか……?」

「別に問題はない。今後なにかで役立ててくれても構わないけど、一応国には言わないでおいてもらえるか? 魔石の価格が高騰したりすると大変だし」


 魔石による強化が可能という情報はほとんど公開していない。

 どのみち現在WSR10位以内に入っているミンシヤにはそのうち伝えるつもりだったし、それが今でも問題はないだろう。

 鈴鈴も言いふらしたりはしないだろうしな。


「それじゃ準備も整ったし、アタックするか。目標は3時間以内。ミンシヤの妹を探し出すぞ」



2.



 このダンジョンは特にこれと言った呼称があるわけではないようなので、便宜的に粒子ダンジョンと呼ぼう。

 入ると、確かに何か粉塵のようなものが舞っている。


 中の様子は炭鉱みたいな感じか。

 ウェンディの風でとりあえず粒子を散らしてもらいつつ、辺りの状況を把握する。


「迷路型のダンジョンね。厄介だわ」

「何か目印でも付けてくか?」

「一度通った道なら覚えてるでしょ」


 当然のようにそう言うが、こんな何の代わり映えもない通路……

 いや、そういや俺とスノウが初めて出会ったダンジョンもこんな感じのダンジョンだったが目印を付けていた様子はなかったな。

 つまり本当に覚えていられるのか。


 ……学力というか頭の回転では俺とスノウで大差ないはずなのだが、こういう肝心なところの能力はやっぱり高いんだよな。


「マスター、どうですか? 吸収できそうですか?」


 俺の少し前だけは粒子が散らされていない器用な風魔法の使い方をしているウェンディが問うてくる。

 確かめる為に、そちらへ手を伸ばして――

 念じる。


 

 次の瞬間。

 ぐおっ、と風がうねって粒子化した魔石が一気に俺の方へ押し寄せた。

 まるで手元から伸びて行く光を逆再生したが如く勢いよく大量の粒子魔石が掌に吸い込まれていき、やがて。

 辺りを漂う魔石がほとんどすべて消失した。



「――すげえな」


 魔石は大きければ大きいほど、指数関数的に内蔵エネルギーが増える。

 なので極小の粒子魔石は逆に言えばほとんどエネルギーがないのだ。

 それでも、あれだけの量。


 感覚的にはダンジョンのボスを倒したのと同量程度のエネルギーにはなるな、これ。

 

「す、凄まじい光景アルな……」

「3層とか4層まで続いてるようだったらお前もやってみるといいぞ、鈴鈴。ミンシヤも」


 そんなことを言っていると。

 通路の向こう側に気配を感じた。


 まだ1層だということを再確認する。


「……おいおい嘘だろ」


 4匹程のゴブリンが姿を現す。

 体の各所が魔石化していて、怪しい光を放っている。


 7層相当ってところか。

 一体一体の強さが、7層に出てくるモンスターと同じ程度の強さ。


 最近は俺たち――未菜さんやローラ、親父や柳枝さんも含めて――の戦闘力が突き抜けていたのでわかりにくい話ではあるが、ぶっちゃけ一級探索者レベルでも複数体相手だと厳しいだろう。

 俺たちが新宿ダンジョンを踏破するまで、6層だったか7層だったかまでしか攻略されていないことからも分かる通り。


 この階層でこの強さのモンスターが出てくるとなれば、捜索どころか攻略が進まないのも頷ける話だ。


 早速俺が一歩前に出て処理しようとすると、スノウがぽつりと喋る。


「とりあえずその二人の実力を見ておきたいわね」

「……やれるのか?」


 二人に聞くと、鈴鈴もミンシヤも頷いた。

 お手並拝見だな。

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