第369話:所有者の割合

「<空間圧縮テレポート>……」

「簡単に言えばある地点とある地点とを、ショートカットできるアル」


 短い内に3回も「ある」と言った鈴鈴のスキルは空間圧縮テレポートと言うらしい。

 名前からして明らかに強そうだが……


 俺の隣に陣取っている知佳が聞く。

 

「移動可能距離は?」

「難易度によるネ」

「難易度?」

「例えばなんの障害物もない直線なら3kmくらい繋げることができるアル」


 3kmか。

 テレポートって名前からして、ほぼ瞬間移動みたいなもんだろう。

 かなり強いな、このスキル。

 戦闘に活かすには多少の慣れは必要そうだが、シンプルで強力だ。


 空間系のスキルとしてはローラの空間袋ポーチみたいに火力へ直結するものでないという分、直接の戦闘力には差が出そうだが……幅は広いよな。


「でも複雑だと距離もうんと短くなるネ。理屈では1ミリでも隙間があればそこを繋げることができるアルけど、そうなると数十メートルから数メートルくらいまでしかできないヨ」

「そしてその繋げた空間は自分以外にも使える」


 知佳の言葉に鈴鈴は頷く。


「なんというか、このスキルはそこを通ったという結果だけは一応残るネ。だから例えば繋げたところに向かってボールを投げると3km吹っ飛ぶボールでもない限りはその場で落ちることになるヨ」


 これはローラの空間袋とは大きく異る点だな。

 あれは慣性ごと保存するというかなり特殊な性質を持っている。

 なので出口と入口を限りなく密着させることによって空気抵抗をなくし、重力加速度によって魔力のキャパを超えない限りは加速させ続けることができる。


 しかし鈴鈴の空間圧縮は、空気抵抗か他の要因によってむしろ慣性を失うわけだ。

 使いようによっては強力な防御手段になりそうだな。


 綾乃がぽんと手を打つ。


「なるほど、つまり本来は着陸に長い滑走路が必要な飛行機でも、そのスキルを使えば短い距離で止めることができるというわけですね?」

「そういうことネ」


 と、いう話を既に空の上でしているのだから俺たちも随分と図太くなったものだ。

 まあ万が一やばそうだったらウェンディを呼べば全て解決することだしな。


 ちなみに、昨日の時点で皆を召喚しておこうと思って念話を入れたのだがまさかの全員が用事があるとのことで断られてしまった。

 最近あの五人、何かこそこそしてるんだよな。

 とは言えもちろんダンジョンに突入するという段階では応じてくれるそうなので、それまではあちらはあちらでやりたいことをやってもらおうということになったのだ。


「……で、ミンシヤのスキルについてもそろそろ詳しく聞いておこうか」


 ここには身内しかいないのでぱっと見で女性とわかるようになっているミンシヤは、俺の言葉に頷く。


「僕のスキルは<虚構フィクション>。言葉の通り、周囲の生物に虚構を見せることができる。発動条件は――」


 ミンシヤの右の瞳が青みがかる。

 

「この右目に魔力を込めること。これで、カメラや映像を通してでも誰かの視界に入っている間は虚構が発動します。性別を誤魔化す程度なら一日中使っていられますが、戦闘に転用しようと思うと長時間での使用は難しいです」

「……マジでずるいよなぁ、そのスキル」

「えっ?」


 ミンシヤが俺の言葉に驚く。


「だって、目に魔力を込めて見た目が変化するとかってそういうのどう考えてもかっこよすぎるだろ。あーあ、スキルを二つ使えたらなあ」

「スキルブックの中身を先に見ることはできないんだから、どのみち狙い撃ちはできないでしょ」


 知佳の冷静な突っ込み。

 その通りである。

 アスカロンの世界にすら未だにその技術は無いらしいからな。


 というか、スキルブック関連は俺たちの世界の方が進んでいるとすら言える。

 スキル強化の方法は偶然見つけたらしいしな。


 まあ天鳥さんというかなり特殊な頭脳の持ち主がいたお陰なのだが……


虚構フィクションは相手が無機物系のモンスターでも効果があるのか? ゴーレムとかさ」

「今まではありました。効かない相手がいないとも限らないですが……少なくとも僕は遭遇したことがないです」


 なるほど。

 まあスキルだしそれくらい無法でもおかしくない。

 未菜さんの<気配遮断>なんて今やほぼ完璧なステルス機能だしな。

 俺はもちろん、ウェンディの風ですら感知ができないのだ。


 体が透過してでもいないと説明がつかない状況だが、そうなっていれば地面だって突き抜けていってしまうわけで。

 なんでそうなるのかと聞かれればスキルだから、としか答えようがないのだ。


「じゃあこっちの戦力だ。俺のスキルは召喚術サモン。ほぼ人間にしか見えない精霊を召喚できる。今のところ召喚できる精霊は4人で、それぞれ氷、炎、風、雷を司ってる。あと二人ほど精霊ではないんだけど召喚できるのがいて、片方は物質を操るエルフでもう片方は体術がとんでもなく強いメイド」

「…………え、ゆうまってスキル持ちアルか?」

「……何かしらのスキルはあるんだろうと思ってましたが、それを聞く限りだと貴方が強い理由はスキルとは関係ないのですか……?」

 

 そう、俺はスキル所有者ってことは明かしてないのだ。

 明かすにしても召喚術って言うわけにもいかないからな。

 

 まあこの二人ならとりあえず大丈夫だろう、という判断である。

 もちろん事前に知佳と綾乃には相談してある。


 鈴鈴とミンシヤの疑問にそれぞれ答える。


「スキルの有無については言った通りだ。もう1年以上前からスキルは持ってる。俺が強い理由は……まあ直接の関係はないな。全くの無関係ってわけでもないけど」


 精霊――スノウたちとの接触で魔力が増えるわけだからな。

 それ以外の戦闘でも普通に増えているので、それが全てではないというくらい。


「あと――」


 手元にアスカロンの剣を呼び出す。

 これはもうになっているので、この呼び方もおかしいな。

 何かちゃんとした名前を今度考えておこう。

 アスカロンという銘らしいが、流石にややこしいからな。


「召喚術はこういうこともできる。自分のものだと認識した無機物を手元に召喚できるんだ」

「……なんでもありネ」

「…………これ、他の探索者が知ったら垂涎ものですよ。重い荷物を持つ必要がなくなる」

「ま、癖はあるし使いこなせてるわけでもないけどな」

 

 剣を元の場所に戻す。

 こういう時に呼び出す為の武器やあれこれを一纏めに置いてある倉庫をちゃんと用意したのだ。

 

 一応元々あったが、全く利用していない家の地下である。


「で、こっちの女の子が――」

「わたしは<気配感知>ができます。生きてるものなら、モンスターでも人でも探せるの」


 俺の台詞を途中で奪って、ティナが自分で紹介する。

 

「感知の範囲も精度も、俺たちが自力でやろうとするのより遥かに高度だ。魔力を隠してる程度じゃ簡単に見つけられる」

「身をもって体感してるネ」


 鈴鈴がちょっと気まずそうに言う。


「で……」

「ちょと待つアル」


 知佳と綾乃のスキルについても一応軽く説明しておこうとすると、鈴鈴が待ったをかける。


「なんだ?」

「……全員スキル持ちとは言わないネ?」

「そのまさかだ」

「まさかスキルブックを買ってるアルか?」

「いや、買ったことはない。全部自力で見つけてる」

「信じられないヨ……」


 まあその反応も正常だ。

 なにせ、普通はダンジョン攻略を仕事にしている会社に一人いるかいないか――圧倒的にいない方が多いくらい、という割合なのがスキル所有者ホルダーだ。


 俺の周りは上澄みばかりなのであまりそういうのを感じさせなかったが、鈴鈴の目から見て非戦闘員に当たるティナがスキルを持っているだけならともかく、知佳や綾乃まで持っているとなれば驚くに決まっている。


「魔力を増やす方法と言い、スキルブックの発見率と言い、なにかズルしてないアルか?」

「いや、してないって」


 まあ世の男性陣にはある意味ずるいと言われそうだが。

 知佳と綾乃のスキルを説明する時にもうひと悶着あったのは、まあ言わずもがなだろう。


 そんなこんなで、空の旅を数時間。

 俺たちは目的地へ到着するのだった。

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