第364話:キーダンジョン
「俺のスキルは
アスカロンが人差し指を立てると、その先に糸のようなものがしゅるしゅると蠢いている。
「これは応用のほんの一例さ。見えない程細くしてもそれなりの強度はある。相手の動きをある程度誘導したり、制限したりできる程度にはね」
「へえ……自分の魔力を糸状にしてるってわけか」
奥さんやシエルたちがリビングで眠ってしまったので毛布だけかけて、俺たちは別室――俺の部屋に移動して飲みの続きをしていた。
どうやら俺と再び会うまでの5000年の間にも色々あったはあったそうだ。
魔王ほどではないが邪悪な思想と強い力を持った奴が暴れたりするのは1000年に一度くらいの周期であったようだし。
ちなみに現在アスカロンの世界にあるダンジョンは全て攻略済みだそうだ。
ということは、だ。
「なあアスカロン。キーダンジョンは見つけたのか?」
「見つけたよ」
即答だった。
そして期待通りの答えでもある。
「とは言っても状況からしてそこがキーダンジョンなのだろうというくらいの推測しかできないんだけどね。あと、実のところキーダンジョンは攻略できてない」
「そうなのか? なんでまた」
「難易度が高すぎるんだよ。既に500回ほどアタックしているけれど、どれも一層の半ばまでも行けてないだろうね」
「……嘘だろ?」
「残念ながら本当さ。もしかしたらそのダンジョンの奥が悠真のいる世界に繋がっているのかもしれないと思っていたけれど、そうじゃなくて本当に良かったよ」
アスカロンはイケメン顔で肩をすくめる。
「それ以外のダンジョンは全て攻略した。だから消去法でそこがキーダンジョンということになるんだろう、というのが俺の結論さ」
「今のお前でも無理なのか? 見つけたのはそれなりに昔なんだろ?」
「無理だね。難易度が難易度だし、魔力の問題もあるから1年に一度だけトライしているんだけど。それでも全く歯が立たないんだ」
「……どんなダンジョンなんだ?」
「ダンジョンはボスを倒した後、新しく解放される何層かのフロアを攻略して初めて完全攻略といえる。それはわかるだろう?」
「ああ」
通常層のボスを倒した後に真意層が現れるわけだ。
「完全攻略後、そのダンジョンは別の世界へと繋がる。本来はね」
「……本来は?」
「とあるダンジョンを攻略した後、別世界へと繋がるのではなく大きな両開きの扉が何もない空間に現れたんだ。巨人用でもそこまで大きくは作らないだろう、という程の大きさだね」
「その向こう側がまたダンジョンだったってことか」
「そういうこと。そしてそこから先のモンスターは、異常に強い。はっきり言って、一体一体が今の君とさほど変わらない」
「……とんでもねえな」
そりゃ流石のアスカロンでも厳しいわけだ。
俺と一対一で勝てるとしても、流石に囲まれれば厳しいだろう。
アスカロンが厳しいってことは、当然スノウたちでもそう簡単に突破はできないな。
アスカロン含めたフルメンバーで行けば或いは……
「そして何より厳しいのは、そのダンジョンは一人でしか入れないということ。複数人で入ろうとすると、最初の一人が入った時点で扉が閉まる。同時に入れば誰かがランダムで置き去りにされる。幸い、帰ってくるだけならもう一度扉を開けるだけだから大丈夫なんだけど……」
「いくらなんでも難易度が高すぎないか? それ。どう考えても攻略させようとしてないだろ」
スノウたちは一人で世界を滅ぼせる程の力を持っている。
そしてアスカロンも当然そうだ。
そんな奴が挑んでも一層の半分も進めないダンジョンなんて、はなから攻略させる気がないとしか思えない。
「俺もそう思ってた。正直、自分が個の力としては頂点に近い位置にいると思っていたからね」
「実際そうだろ」
近いどころか、間違いなく頂点だ。
5000年前の時点でスノウたちとほぼ互角。
そうなれば今は当然……
「いいや、実際はそうじゃなかった。ベリアル……だったっけ? 彼が魔王を取り込んだ時の力は俺を大きく上回っていたし――悠真。君も鍛え方次第ではあのレベル……それ以上にまで高めることができる。それに、あの子たちもまだまだ上がある」
あの子たち、というのはスノウたちを指しているのだろう。
確かにまだ伸びしろはあるのだとは思うが、流石に生きている間にアスカロンレベルに達する、あるいは上回るというのは想像しづらい。
スノウたちはともかくとして、特に俺は。
「それにベリアルはズルしてるようなもんだろ。あんなの反則だ」
「そうでなくとも、セイランという少女はあれより強いかもしれないんだろう?」
「それは……」
確かにそうだ。
「つまり、単純な話なのさ。攻略させる気がないのではなく、まだ攻略できるレベルに達していない。そして俺は恐らく、今後達することもできない」
「弱気だな」
「寿命だよ」
フッ、と少し寂しそうな笑みを浮かべるアスカロン。
「……元気そうに見えるけど」
「まだまだ体は元気さ。でも、やっぱり若い時のような成長曲線は描けない。もうしばらくしたら衰え始めるだろうね」
「もうしばらくって……」
「300年か、200年か……あるいはもっと短いか。それでも悠真よりは長生きするだろうから、そんな心配しなくていいよ」
「まあ流石に俺もそんな長生きはできねえけどよ……」
そうか、寿命か。
7000年も生きてるんだもんな。
そりゃいくらアスカロンでも永遠には生きられないだろう。
それでもあと数百年生きると言われると、どんな感情を抱けばいいのかわからないが。
エルフってやつはつくづくスケールのでかいやつらだ。
「……他に聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「なんだい?」
「人間が数百年とか数千年単位で生きるにはどうしたらいいと思う?」
アスカロンは俺の方を見る。
真意を探るような目だ。
「……別にただ長生きしたいわけじゃない。けど、俺にはやらなきゃいけないことがあるんだよ。精霊たちを人間に戻して、シエルの病気を治して。そうしなきゃ俺は死んでも死にきれねえ」
「…………」
俺の言葉を聞いたアスカロンは少し黙り込む。
そして。
「……寿命を延ばす、となるとなんとも言えないけれど――君のその二つの望みはなんとかなるかもしれない」
「……本当か?」
「ああ。さっき言いそびれたことがあるんだけど、俺が見つけたキーダンジョンの手前にとある宝玉があったんだ。その宝玉は、伝説上では『なんでも願いを叶えてくれる宝玉』となっていてね。けれど、実際にそれを手に入れても何も起こらなかった」
「へえ……」
「最初はただの与太話かと思った。けれど、キーダンジョンを攻略することで条件が満たされ、宝玉によって願いが叶うんじゃないかと今は考えているんだ。あの異常な難易度を考えれば、ありえない話ではないと思う」
「確かに、そんだけ難しいんだからそれくらいのご褒美があってもいいよな」
なるほど、キーダンジョンを攻略したら願いが叶う、か。
そうだとしたら、叶う願いの規模や数によっては……
「ま、あまり考えすぎても駄目だよ悠真」
ぽん、とアスカロンに肩を叩かれる。
「目の前にある問題を一つ一つ解決していけばいい。君が今やるべきことは、粒子化した魔石の漂うダンジョンを攻略することだろう?」
「……だな」
別に俺は要領よく生きてるわけじゃない。
アスカロンの言う通り、やれることを一つずつやっていくだけだ。
にしても、なんでも叶うダンジョンか。
……待てよ?
願いを叶える宝玉のあるダンジョン?
それってもしかして、ナディアやライラ、フゥにジョアンと出会ったあの<龍の巣>にあったあれと同じなのか?
そうだとしたら、あの世界のキーダンジョンを、俺は知っていることになる。
……とりあえず当面の問題が片付いたら、確かめる価値はありそうだな。
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