第356話:使者
1.
「――
手元に召喚した
しかし相手も真意層のモンスター。
俺の使い方が悪いのもあるが、
なので大体次のモンスターへ向かう度に一本ずつ召喚していって、5体程の赤鬼たちを3本の犠牲によって倒しきった。
もちろんあちらからの攻撃は一度も当たっていない。
「……ふぅ、どんなもんだ」
「100点満点中5点です」
ドヤ顔で振り向いた俺に、ステラは指で小さくバッテンを作りながら冷静に言った。
「……被弾はなかったし、無機物召喚も使いこなしてただろ?」
「あれでは元々頑丈な武器を一本持っていた方が良いことに変わりないでしょう。相手がユーマさんより格下なので問題なく戦えていますが、そうでなければ全く通用しない戦い方です」
「そうは言ってもなあ……簡単な命令付与ならできるって言ってたけど、戦ってる最中にそこまで考えることなんてできるか?」
「慣れです。幼少期のあなたは最初から足し算や引き算をマスターしていたのですか?」
なるほど、そう言われてしまえばぐうの音も出ない。
練習でできないことは本番でもできない。
よく聞く言葉ではあるが、格下相手にできないことが格上相手にできるわけもないのだ。
「よーぉしィ……いっちょやったるか!」
2.
「随分と気が抜けた顔をしていますね、ユーマさん」
「そりゃ昨日、あんだけダメ出しされまくったらなあ」
結局、あの後数時間に渡ってモンスター相手に色々試していたのだが、最終的な評価は100点満点中12点だった。
倍になったと見るべきか、7点しか伸びていないと見るべきか。
「悠真が駄目なのは今に始まったことじゃない」
「うぐっ」
「まあまあ」
隣を歩く知佳にまでダメだしされる。
綾乃が知佳たちを窘めるが、焼け石に水である。
しかし……あれだな。
この面子、マジで俺はそのうち警察に声をかけられてもおかしくないな。
綾乃は身長こそ低めではあるがこう……大人だということが一目で分かるので除外するにしても、知佳もステラもどう見たって中学生とか高校生だ。
ティナの方が大人びて見えるくらい。
「ところで、今はどこに向かっているのですか? 今後の勉強になるからついてこいとのことでしたが……」
「テレビ局だよ」
「テレビ局? ユーマさんは芸能人だったのですか?」
「まあ、当たらずとも遠からず……みたいな感じなのかなあ」
ちなみにアスカロン――つまりステラの世界のテレビはホログラムな感じになっているらしい。
なんと匂いまで再現できる機能があるのだとか。
料理特番とかだと味も再現されるのか? と聞いたら、普通に呆れた顔で「そんなわけないじゃないですか。再現されてどうするんです。画面を舐めるんですか?」と言われてしまったが。
まあそうだよな。
「今回はシエル……昨日の夜見た、ちっちゃいエルフいたろ? あと猫獣人のあいつとかの世界からゲストが来てるから、その人とテレビで対談するんだよ。異世界と現世界の公的な交流としては初だな」
「ええと……そんな重要な場面に私が同席して良いのですか?」
「そっちの世界も俺たちから見れば異世界だからな。今後交流して行く上で、こっちの世界の価値観がどんなものなのかもある程度は分かった方がいいだろ?」
「なるほど……意外と考えてるのですね」
「おいこら意外とは余計だ」
アスカロンがこの子を送り込んできた理由について、昨晩はステラの部屋を用意したり色々こちらの世界のことを教えたりとで忙しく、普段と違って夜の運動がなかったので少し考えたのだが。
同じスキルを持っているから――というのが一番大きな理由だとしても、もう一つの理由としてはこの子自身の成長の為ではないか、という結論に達した。
もちろん、ステラは今年で23になる俺なんかよりずっと大人びていると言える。
流石はアスカロンの娘だ。
あいつの教育も良いのだろう。
だが、15年で得られるものはどう足掻いても15年分にしかならないのだ。
より広い知見を得る為。
より柔軟な思考ができるように、俺の元へ送り込んできたのではないだろうか。
というのが、俺の考え。
聞いた話によると、ステラには500人以上の兄と姉がいるらしい。
彼女はその末っ子だそうだ。
末の子に社会勉強をさせてあげよう、という計らいってわけだな。
となれば色々なことを経験させてあげることが俺の役目にもなる。
的外れだとしても完全に無駄ってわけじゃないだろうし。
……というか。
アスカロン、500人も子供いるのかよ。
エルフってのはかなり子供ができにくいという話を聞いていたのだが、それでも単純計算で10年に一人ペースだろ?
シエル曰くエルフは大抵、生涯で二人の子を成すそうだ。
しかもその兄妹間で数百年という年の差があることも珍しくはないとのことだったので、10年に一人というのはかなりペース的には早いことになる。
あいつも優男みたいな顔して、ヤることヤってんだなあ。
「……ところで、ユーマさん。昨日から気になっていることがあるのですが」
「なんだ?」
「この国では重婚が認められているのですか? 随分多くの女性と同居しているようですが……」
「……………………」
知佳にアイコンタクトを送る。
どうにかしてくれ。
俺の知能じゃこの局面を乗り切ることができない。
やれやれ、と言わんばかりに知佳はため息をつくとステラの方を向く。
「ステラ」
「はい」
「この国では認められてない。だからそのうち悠真は国外逃亡……下手すればこの世界からも逃げ出すことになる」
「ええ……」
ステラの目が!
ステラの目が冷たい!
パパの友達に向ける目じゃない!
「乗り切ってくれっていうアイコンタクトだったのに傷口広げてどうするんだよ!」
「幼気な少女に嘘をつくのはポリシーに反する」
「嘘をつけ」
二重の意味で。
そんなことをしている内に、テレビ局に到着した。
3.
テレビ局の広めに取られている楽屋。
そこで――
「やあ、会えて嬉しいよ」
そう言って爽やかイケメンスマイルを浮かべるのは、青髪でポニーテールの女性――
リーゼロッテ=アインハルトさんだ。
変声機能付きの鎧を纏っている時は完全に男だと思っていたのだが、最近ではその鎧を着ることもすっかりなくなったようだ。
まあ、元々あの聖王から姿を隠す為だったらしいしいなくなればそんなものなのだろう。
「お久しぶりです、リーゼロッテさん。……でも本当に良かったんですか? 最初に対談するのが俺で」
「私たちが協力するのはこの世界や国ではない。あくまでも、君たちのいるこの世界だからね」
「心強い限りです」
握手を交わす。
異世界からの使者……とでも言うべきか。
それがまずハイロン国の代表者、リーゼロッテさんだ。
俺としてはまず西山首相とか、アメリカ大統領辺りと話すのがベターなんじゃないかと思ったが彼女の強い要望によってこの対談が実現した感じだな。
一応知佳や綾乃にも確認したが、異世界人というものが堅苦しく受け止められるよりは良い感じに知名度が高く、強さが知れ渡っていて尚且つそれなりに侮られている俺くらいのと対談するのがちょうど良いかもしれない、とのことだった。
侮られてるて。
やかましいわ。
まあ、俺も自分が素直に慕われるタイプじゃないのは分かってるけどさ。
ちなみに彼女をこの世界のこの場所まで案内してきたのは――
「悪いな、シエル。案内役を任せちゃって」
「別にこれくらいは構わん。おぬしに任せる方がよっぽど心配じゃ。色んな意味での」
あちらの世界にもこちらの世界にもある程度精通している上に、要人を完璧に警護できる人選ということでシエルに案内役を務めてもらったのだ。
顔も広いしな。
「……まさかこの人も……」
「違うぞステラ。リーゼロッテさんとの間にはやましいことは一つもない。本当にない」
「ははは、私としては構わないのだがな。どうやら彼の好みではなかったらしい」
「いや、そんなことはないんですけど……いてっ」
知佳に無言で足を踏まれた。
どうしろってんだ。
「――しかし、こちらの世界は面白いな。目に映るもの全てが新鮮だ。特に……自動車と言ったかな? 魔石のエネルギーや魔力も使わないであんな大きなものを動かすとは」
「最近はそっちも魔石に置き換わりつつありますけどね」
それでもガソリン車の根強い人気というのもやはりあるのだが。
そんな俺たちに知佳がツッコミを入れる。
「そういう異文化交流はカメラの前でして」
「ごもっとも」
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