閑話:時を経て
sideアスカロン
「英雄王、もう何度もその話は聞きました。そもそも本当にそのような人間が存在したのですか?」
雑務を終えて休憩中のアスカロンへ話しかけるのは、銀髪で青年風の男性エルフだ。
これでも彼に秘書として仕えるようになって400年程経つので、青年という歳でもないのだが。
「ああ、もちろん。俺を疑うのかい?」
「そのようなことはないのですが……しかし貴方を負かした事があるというのは、あまりにも……」
「もう5000年近く前の話になるからね。今やったら負ける気はしないさ」
「……未来から来たと言っていたんでしたっけ? そもそも時魔法なんてものが実在するのかどうか、というところからなのですが」
「特殊なスキルを用いたんだろうね。あれから俺も何度か時間を超越しようとしたけれど、やっぱり無理だった」
胡散臭そうな目で秘書がアスカロンを見る。
「貴方に出来ないことがただの人間にできるとでも?」
「ただの人間じゃないよ。精霊王だの英雄王だの言われてる俺にとっての、唯一の英雄だ」
「語尾にニャと付ける、道場の上位衆よりも強い猫獣人に5000年前とは言え貴方と同じ程の力を持っていた女エルフ、更に一対一の勝負で泥を付ける程の実力を持った人間の三人組」
「ああ、その通り」
「言っているのが貴方以外だったら、笑い話にすらなりませんよ?」
「俺なんだから問題ないだろう?」
「そういう問題でもないような気もしますが……」
アスカロンは微笑みを浮かべる。
「いずれ君も会えるよ」
「……何年先の人間かもわからないのでしょう? 貴方たち家族とは根本から造りが違うのですから、何千年も生きられるわけじゃない」
「子供たちはともかく、妻の魔力が大きくなったのは、ダンジョン攻略へ向かう俺に毎回ついてきていたからだよ。エルフは魔力が多ければ多いほど長生きする。君もダンジョン攻略へ定期的に行っていれば……」
「生きて1000年くらいですよ、普通。王も最近はダンジョンへ行っていないではないですか」
「新しく出現する度には赴いているよ。けれど、今までどのダンジョンを攻略してもあの莫大な魔力を感じることはなかった。だから、少し考えを変えたんだ」
「……というと?」
「いずれあちらから来ることになる、とね。あれ程の魔力だ。世界中のどこに繋がろうとも、一瞬で察知することができる。今の俺よりも更に数倍は多いだろうからね」
「5000年間ダンジョンを攻略し続けてきたエルフより数十年生きただけの人間の魔力が多い、と?」
今までで一番信じられないことを聞いた、という顔で肩をすくめる秘書。
それを見てアスカロンは苦笑する。
「俺も最初はびっくりしたよ。けれど、本当のことなんだ。悠真は、きっと今もどこかで――」
途中で、アスカロンは言葉を区切ってとある方向を見た。
血相を変えて立ち上がり、
「地図を!」
「は、はい!」
秘書へ指示して辺りの地図を持ってこさせる。
「この感じからして……距離は……このあたりにあるダンジョンと言えば……100年くらい前に攻略した、あれか……!」
「ど、どうしたんです?」
「思ったより早くお目にかかれるかもしれないぞ」
「何にです」
怪訝な表情を浮かべる秘書に向かって、アスカロンはニヤッと笑ってウインクする。
「この世界を救った、真の英雄にさ」
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