第344話:ダークエルフ王

1.



「里には」「入れられない」

「長には」「合わせない」

「即刻」「立ち去れ」


 状況が状況でなければ笑ってしまうほど息の合った男性ダークエルフの門番二人が交互に立ち去るよう勧告してきた。

 長い銀髪に整った瓜二つの容姿。

 ダークエルフは流石、イケメンだな。

 イケメンの双子とか好きな人はとことん好きそうな属性だ。

 

 美女の双子スノウとフレアなら身内にもいるが。


 エルフに妖精女王ティターニア妖精王オーベロンの概念が存在するように、ダークエルフにも王族に値するような男がいるらしい。

 

 そいつもかなりの長生きで、シエルとほとんど変わらない程だとか。

 そしてアンジェさんたちが住んでいた隠れ里の長の100倍は人間嫌いかつエルフ嫌いなのだとか。


 当然俺たちも門前払いされることになる。


「事前に送った手紙は読んでるんじゃろうな」


 シエルの言った手紙とは、四天王や魔王――そしてセイランやベリアルのことだ。

 当然、<滅びの塔>の危険性や世界の危機についても触れている。

 しかし――


「当然」「長も目を通している」

「エルフや人間の」「力を借りるつもりはない」

「これは我々の」「ダークエルフの問題だ」


(悠真ちゃん、これは厳しいんじゃない?)

(だな……)


 今回、ダークエルフの王がいる――そして<滅びの塔>があるダークエルフたち最大の拠点に来ているのは俺とシエル、そしてシトリーの三人だ。


 あまり大勢で来ても下手に刺激してしまうことが懸念されるし、スノウやフレア、ウェンディは少々喧嘩っぱやい。

 ウェンディは比較的冷静に物事を進められるとは言え、身内が関わるとその限りじゃないからな……


「……世界の危機だぞ。わかってるのか、本当に」

「わかっている」「だが、世界の危機は」


 門番の二人が同時に言う。


「我々の危機ではない」

「……どういう意味だよ」



「貴様らに教える必要はない」



 ――低く、そして圧のある声。

 里と外とを隔てる分厚い門が内側から開き、そこには男が立っていた。



 さらりとした金髪のイケメン。

 20代前半くらいだろうか。

 ただ、目つきがかなり剣呑だ。

 そして明らかな敵意……下手すりゃ殺気すら感じるレベルだ。


 フレアかウェンディだったら即座に攻撃態勢に入っていたかもしれない。

 誰だ……?



「久しいのう、ダークエルフの王よ」


 シエルがそう話しかけた。

 ダークエルフの王?

 こいつが?

 シエルと同い年だって言ってたから、もっと歳食った見た目なのかと……


 いや、そのシエルが知佳並に幼く見えるのだからそれもおかしな話なのだが。

 ……いやそもそももはや大学を卒業したはずの知佳が下手すりゃ中学生に見えるくらいなのがおかしな話なのだが、まあそこは置いといて。


「とうにくたばったと思っていたが、まだ生きていたか。妖精女王」

「おぬしこそ、随分と長生きしているようじゃな」


 ちらりとダークエルフ王は俺のことを見る。

 冷たい目だ。

 まるで人のことをなんとも思っていない。


「失せろ。人間やエルフと話すことなど無い」


(悠真、ここで話してもこじれるだけじゃ。退くぞ)

(……わかった)


 念話でシエルからの指示が入り、俺たちはすごすごと退散することになったのだった。




2.




「ダークエルフ達の説得……か。もちろん力になれるのであれば我としても助力を惜しまぬ」


 ジョアンは俺の依頼に対して二つ返事で頷いた。

 ほとんどの稼ぎを自らが過去にとしているダークエルフの里へ何かしらの形で還元しているようで、常にみすぼらしい格好をしていたジョアンだが今は割りかしまともな格好をしている。


 というのも、以前会った時にあまりにも……ということで俺からジョアンへ幾らかの支援をしたのだ。

 その分までダークエルフたちに貢ぎ始めたら流石に何がなんでも止めるつもりだったが、他人から貰ったものを更に他人へ……ということはしない正常な思考の持ち主ではあったらしい。


「しかし……我はかの里はともかく、妻子まで裏切った身である。果たして彼らが受け入れてくれるのかどうか……」

「エルフは全体的に排他的ではある。そして長命であるが故に、過去の過ちも引きずりやすい。じゃが、それと同じくらい恩に厚い種族でもある。しっかり誤解を解いた上で、里への支援の件も明かせばむしろ有利に働くじゃろ」

「と、いうことだ」


 シエルの言葉にジョアンは難しい顔をする。


「……シエル殿の言うことが本当だとして、それでも我が彼らを失望させたのは事実。それに恩着せがましいというか……」

「頼む、ジョアン。あんたの気持ちもわからないでもない。けど、今回ばかりは恩着せがましかろうがなんだろうが、少しでもダークエルフとの縁がほしいんだ」


 今のままじゃ対話で解決するのはまず不可能だ。

 世界の危機だということを認識している上で無視されているのだから。


「うぬぅ……そこまで言うのなら……我としても、世界を救うことこそが悲願なのだ。その代わり、度々言ってはいるが魔王と対峙する際は我も同行させてもらいたい」

「わかってるって。けど、自爆特攻は絶対無しだからな」

「無論。しかし、ダークエルフたちは何故そこまで頑ななのだろうか。世界の危機だというのに……」


 ジョアンはううむ、と唸る。


「考えられる可能性としては、あやつらが自身で滅びの塔を破壊できる、という線じゃな」

「……そんなことできるか?」

 

 一度だけ、バラムと戦っていた時に物理的な破壊ができたとは言えあの時ほどの力をそう簡単に出せるとは思えない。

 自惚れではなく、俺以外に消滅魔法ホワイト・ゼロが使えるともやはり思えない。


「わしの見解では『不可能』じゃ。しかしあちらにもダークエルフの王がいる。わしの知らん知識を持っていたとしても不思議ではない」

「……なるほど」


 それもそうなのか。

 ともなれば、確かに自力で破壊できたとしてもおかしくはない……のか?

 いやそれでも……


「シトリーはどう思う?」

「うーん……少なくとも、お姉ちゃんとフレアが本気で攻撃しても壊れない塔だからねえ」


 ダークエルフの里を追い出されてからそのままの足で来ているのでシトリーにも聞いてみたが、やはりシエルと同じく破壊方法は思いつかないらしい。

 

 一点突破の破壊力はシトリーが、範囲規模の破壊力はフレアが俺たちの中ではトップなわけだが、その二人が力を合わせても無理な時点でやっぱり正攻法じゃ無理だと思うんだよな。

 バラムを倒した時の力は俺の意思で自由に出せるもんじゃないし、そもそも存在自体が例外っぽい消滅魔法ホワイト・ゼロは別として。


 ダークエルフ王と直接対峙してわかったことがある。

 彼はそれなりに強いのだろう。

 恐らく、今のルルよりも若干強い。

 

 が、シエルには遠く及ばないし――俺よりも弱い。

 そんな彼にあの塔をどうにかできるとは……少し考えづらい。


「……ま、あやつらが本当に破壊できるかどうかはどうでも良いことじゃ。どうせこれでも応じられぬのなら、無理やり破壊しに行くしかないんじゃからな」

「世界の危機との天秤ならば……それも致し方ないのだろうな」


 ジョアンも思うところはあるようだが、頷く。

 破壊する術があったとしても、俺たちからすれば不確定要素には違いない。

 そこまでの信頼関係をダークエルフとの間で築けていないのも悪いのだが……


 そもそも相手に全く歩み寄る気配が今までもなかったのだから仕方がない、としか言いようもない。


 一応強硬突破……の前に未菜さんのスキルを利用してこっそり破壊するというのを試しはするが。

 どのみち魔法を使えばバレてしまうので、そこからはどうしてもダークエルフたちとの戦闘になってしまう。


 普通ならば全く問題がない戦力差があると自負しているが、こちら側が相手側を怪我させるようなことだけは避けたいし――俺以外の誰かが怪我をするところも見たくはない。

 難しい戦いになるだろう。

 

「……ジョアンが加わったことで少しは心を開いてくれれば良いんだけどな」




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作者です。

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可愛い可愛いヒロインたちに興味が湧いたら、コミカライズ版もぜひ!

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