第340話:てへぺろ
1.
キュムロスダンジョン真意層20層目。
以前ここへ到達した時は魔力を奪う根っこ(?)のようなものに邪魔されてそれ以上進めなかったが、今回はその対策として未菜さんとローラを面子に加えた上、魔力を即時割合回復できるフルーツポーションも持ってきている。
以前来た時にウェンディが置いていってくれていた転移石で再び来ると、やはり前回と同じく真っ黒い木々に囲まれた暗い空間に出た。
いつ来ても不気味な森だ。
「オバケとかが出てもおかしくない雰囲気だねー」
ローラは能天気だな。
ちょっと楽しそうにしているのは気のせいだろうか。
「オバケはともかく、厄介なモンスター……一瞬で俺の魔力を半分も吸い取った奴はいるからな。注意するように」
「とは言え、ここでドロップするアイテムが魔力の割合回復ならばその吸い取りも割合な気もするな」
未菜さんが思案げに言う。
「……やっぱりそういう可能性もあるんですか?」
「当てずっぽうだよ。アイテムがドロップするダンジョンの経験は浅いからね」
あっけらかんと言い放つ。
しかしそこへシエルが、
「いや、未菜の言っていることはあながち間違いでもないじゃろうな。ダンジョンでドロップするアイテムはある程度の必然性を持って選ばれておるような気がするのじゃ」
「確かに、お姉ちゃんもそういうのはちょっと感じたことがあるかも」
シトリーも同調する。
柳枝さんも言っていた、ダンジョンの意思ってやつだろうか。
「てことは、ボクたちがユーマの食らった攻撃を同じように食らっても半分しか取られないってこと?」
「……てことになるのかな? どっちにしろ、足元には気をつけて。普通に足の甲ぶち抜かれて痛いし」
あの瞬間は痛みよりも魔力を持っていかれたことにびっくりしていたが、普通に考えてかなりの重傷だからなあ、足貫通するの。
「……ん」
ウェンディが遠くの方を見るように視線を移した。
「どうした?」
「離れた位置にモンスターの気配を感じたので攻撃しましたが、弾かれました」
「……ボスか?」
「いえ、恐らく違うと思います。感覚としては、落ち武者に近いかと」
「ユニークか……!」
やはりこちらの世界の真意層にもいるのか、ユニークモンスター。
過去にダンジョンで死んだ亡霊たちの魂を宿したモンスター。
――と。
何かがこちらに向かって飛んできた。
それにスノウが反応して氷で防ぐ。
バシュッ、と音を立てて氷が少し削れるが、そこには何も残っていなかった。
「衝撃波……みたいなものね、今の」
そしてザクザクと落ち葉を踏む音と共に、そいつは現れた。
黒くのっぺりした人型のモンスター……としか言いようがない。
顔部分はつるりとしたヘルメットみたいなものに覆われており、体も全て金属質かつ滑らかな何かで構成されている。
「
ルルが叫んだ。
「……知ってるのか?」
「わ、悪いことをした子供を連れ去る化け物ニャ」
ルルがかなりビビった様子なのだが、なまはげとかブラックサンタみたいなものだろうか。
「という、伝承じゃよ。わしですら実物は見たことがない」
「なるほど」
つまりこいつは悪いことをした子供を連れ去る化け物を模したユニークモンスターってなわけか。
「悪いけど、瞬殺するわよ」
スノウがそう宣言して氷でシャドールを囲う。
だが――
その氷の中に、シャドールがいない。
「確かに捉えたはずなんだけど……?」
「シャドールは影の中を移動するのニャ!」
ルルが叫ぶ。
「影の中って――」
怪訝な表情をするスノウの真後ろに、シャドールが現れる。
長く伸ばした爪を振りかぶって。
「――つまり
流石の反応速度で真後ろのシャドールを凍らせるが、やはりその中にも既にいない。
「では、こうしたらどうでしょう? 皆さん、直視はしないでくださいね」
フレアが真上に火球を放り投げる。
頭上5メートルほどの位置でそれが太陽のように眩く光る。
炎であることには間違いないのだが、何故か熱さは全く感じない。
影がかき消えてしまう程の眩い光の中、シャドールが空中に放り出されるようにして姿を現す。
そして――
ジュッ、と音を立ててそのまま消え去ってしまった。
どうやら光がかなりの弱点だったようだ。
ユニークにしてはかなりあっさりやられたが、相手が俺たち……というかフレアじゃなあ……
後には魔石と……
「……おいおい」
未菜さんが苦笑いと共に俺の方を見る。
その反応も頷けるものだ。
なにせ、スキルブックがドロップしていたのだから。
2.
スキルブックをどうするかは少し考えたが、俺たちはこのまま21層を目指すことにした。
一応現状最も戦力的に不安のないシエル(スノウたちは俺の魔力が吸われると戦えなくなってしまう)に持ってもらい、先へ進む。
「む」
道中、未菜さんが何かに気付いたようにして後ろへ飛び退いた。
するとその足元からニョキッと勢いよく根っこが生えてくる。
その根っこをスノウが即座に凍らせる。
ローラがそれをしげしげと眺めながら聞いてくる。
「もしかしてこれが……?」
「ああ、俺の魔力を吸い取った根っこだ」
「足元に気を張っていなければ気付けなかったな」
未菜さんが戻ってくる。
スノウがくいっと下を指差す。
「悠真、穴掘ってこいつの本体見つけてきなさい」
「んな無茶な。ダンジョンの地面だぞ」
「でも本体を見つけないと一生こいつにチクチクやられるわよ」
それもそうなんだよなあ。
なんて言っていると、シトリーが前へ進み出てくる。
「こういう時はお姉ちゃんに任せて?」
そう言いながら凍りついている根っこに触れるとシトリーの体の表面からパチパチと電気が迸り――次の瞬間。
バチンッ、と激しく静電気が弾けたような音がして、木の根っこから煙が上がった。
そして……
ふわっ、と光の粒となって消滅した。
「…………何が起きたんだ?」
俺がそう聞くと、シトリーは可愛らしく舌をぺろっと出した。
「ごめん、倒しちゃった」
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