第338話:瞬殺劇

1.



「あちゃー……あれって『ダイブツサマ』だよね? どうしよう、謝った方がいいかなあ」


 ローラがやっちゃった、みたいな感じでぺろっと舌を出す。


「似て非なるものって感じだから別にいいんじゃないか? それより問題は……」


 あいつがどれくらいの強さかってことだ。

 今のところ、正直大して強くなさそうな感じなんだが。

 感じる魔力としては九十九里浜の――ウェンディを召喚したあのダンジョンのタコ型ボスより若干弱いかな? くらいだ。

 

 当時ならともかく、今の俺なら簡単に勝てるし未菜さんやローラでも十分対応できるだろう。

 

 大仏像は灰色の瞳でこちらをじろりと睨むと、右腕をズズン……と重い音を立てつつ地面についてゆっくり立ち上がろうとする。

 しかしそこへ、いつの間にかスキルで気配を消して忍び寄っていた未菜さんが斬撃を食らわせた。


 ちょうど地面へついた手へ、だ。

 恐らくは付与魔法エンチャントを施してある上での一撃。


 しかし――


「――!」


 刀は僅かに金属(?)でできた腕に食い込んで止まっていた。

 こいつ、半分程の威力とは言えローラの<加速砲>の余波を受けても無傷な上に、未菜さんの刀でさえ通らないのか。

 どんな防御力だよそれ。


 大仏像が動き出す。

 攻撃をしてきた未菜さんに何か思うところがあったのか、まるでハエでも払うかのように腕を動かしたのだ。

 見た目の鈍重さに見合わぬかなり速い動きだったが――

 

「ミナ!!」

 

 ローラが心配から叫び、恐らく先程の腕の動きに合わせて跳躍してきたのだと思われる未菜さんが半分吹き飛ばされてきたみたいなスピードでこちらへ戻ってきた。



「うーん……思ったよりかなり硬いな」

「ボクの最大威力の<加速砲アクセルバースト>でもダメージが通るかどうか……」


 そんなことを言っている間に、大仏像は今度こそ立ち上がってしまった。

 座っている状態で100メートルあったのだから、単純計算で立ち上がれば200メートル弱はあるということになる。

 はずなのだが……


 いや、これは……


「……ちょっと大きすぎないかい?」


 未菜さんが呟く。

 そう、どう低く見積もっても東京タワーくらいはあるように見える。

 200メートルなんて騒ぎじゃないぞ。


 座っていた時のサイズ感に比べてあまりにも大きすぎる。

 


「さ、さっき伊敷さんの攻撃を受けてから大きくなってたっす!」


 志穂里が答えを出してくれた。

 俺とローラは未菜さんの方へ注目していたから気づけなかったのか。

 

「攻撃を受けて大きく……?」


 つまり攻撃すればする程でかくなるのか?

 しかも魔力量も馬鹿みたいに増えている。

 先程までは九十九里浜のボスより若干弱いかな、程度が今やその1.5倍くらいはあるように感じるぞ。

 

 大仏像が足をこちらへ踏み出してくる。

 踏み潰す気だ。


「避け――」「う、うわあああ!?」


 テレビクルーの中の誰かの叫び声が響いた。


 避けるのは間に合わない。

 俺たちだけならともかく、テレビクルーもいるのだ。


 仕方ない。


「みんな伏せて!!」


 俺は叫び、ぐっと両手を天に突き上げる。

 テレビクルー陣たちが慌てて頭を下げる――あるいは腰を抜かして地べたに這いつくばっている中、ずっしりとした重さが強く俺にのしかかる。

 

 重い。

 だが、どうしようもないという程ではない。


 見た目通りの重さならともかく、どうやらそこまでの重量はないようだ。

 とは言え、人間くらいなら軽くぺしゃんこにしてしまえる重さであることには変わりないが。


「ふん!!」


 そのままぐっと突っ張って、大仏像の体勢を崩させた。

 足を跳ね上げられるような形になった大仏像はそのまま後ろへ転倒する。


 その勢いで金堂が完全に潰れてしまったが……

 まあいいか。

 ダンジョンの施設だし。


 もうもうと立ち込める砂煙。


「さて……どうなる?」


 更に大きくなるのか?

 それとも――


 見えはしないが、大仏像の魔力が更に膨れ上がる。

 俺たちが警戒を解かないでいるとしばらくしてから砂煙が風に吹き飛ばされるようにして消し飛んだ。


「……これは」


 そこにいたのは、俺とそう変わらないくらいのサイズの大仏像……もとい、仏像。

 しかし明らかに先程までよりも魔力量は大きい。


 新宿ダンジョン基準で言えば、真意層2層目くらいの番人ガーディアンレベルはあるぞ。

 つまり、未菜さんやローラでも一対一では厳しいクラスだ。

 ルルなら相性次第ではいけそうってくらい。


 

「……仕方ない」


 転移召喚を使おう。

 これはあくまでもプロモーション。


 俺があまり目立つわけにはいかない。


 そう思って知佳に許可を取ろうとすると――



(――いいよ。それ倒して)


 

 その前に念話が入った。

 もちろん知佳からだ。

 

 それとほぼ当時に、スノウからも念話が来る。



(その程度の奴あんた一人でぶっ倒して――)

 

 しかもかなり強い念話。

 いや、強弱の概念を言語化するのはちょっと難しいのだが……



(――あんたを侮ってる馬鹿共を黙らせてやりなさい!!)


 

 ふと、初めてダンジョン管理局へスノウと行った時のことを思い出した。

 なるほど、そういうことならやらせてもらうか。



「来いよ」


 ちょい、と手招きするとやはりこちらの意図をある程度読めるのか、小型化した大仏像……小仏像? が突っ込んできた。

 凄まじい速度。

 テレビカメラで追うことは無理だろう。


 しかしそれにカウンターで顔面に前蹴りを食らわせる。


 完璧なタイミングだ。

 そりゃそうだろう。

 今の俺には新幹線ですら止まって見えるのだから。


 勢いよくもんどりうって後ろへ吹っ飛んでいく小仏像へ――


 

「久しぶりに世話になるぞ――」



 腰に提げていて、今まで使っていなかったアスカロンから預かった剣を抜く。

 これは借り物だ。

 だからあまり使いたくない――というのが今までの考えだったが、スノウと……言葉に出していないが、恐らく知佳からのお達しだ。


 舐められるんじゃねえ、とのな。



 体勢を立て直す前の少仏像に追いつき、一太刀で首と胴体とを切断した。

 勢い余って背後の空間まで一気にざっくりと斬ってしまったが、まあしょうがない。

 ダンジョン内だからな、大丈夫だ。


 

「じゃあな」



 剣を持っていない方の掌に魔弾を作り出し、放る。

 凄まじい爆発と轟音。


 後には、扇状の破壊の痕が残るのみだった。




2.side視聴者





14:見ている視聴者

あれボスじゃないか?


45:見ている視聴者

奈良ダンジョンのボスが大仏とかいうお約束展開キター


82:見ている視聴者

ていうか皆城悠真なにもしてなくて草


101:見ている視聴者

ちらほら映ってる時は結構頑張ってると思う


121:見ている視聴者

ローラちゃんのさっきの攻撃なに?やばない?


132:見ている視聴者

ローラちゃんのスキルツヨスギ


174:見ている視聴者

志穂里ちゃんの腕についてるやつほしいわー


183:見ている視聴者

未菜さんかっこ良すぎワロタ


201:見ている視聴者

立ち上がろうとしてるぞあいつ


232:見ている視聴者

未菜さんキター!


267:見ている視聴者

未菜さん逃げてー!


309:見ている視聴者

でかくね?


323:見ている視聴者

明らかに座ってた時よりでかくて笑う…いや笑えん


356:見ている視聴者

これやばくね?


378:見ている視聴者

グロ映像流れるぞ


401:見ている視聴者

やばい


432:見ている視聴者

受け止めた!?


456:見ている視聴者

皆城悠真まじ?


478:見ている視聴者

化け物で草


501:見ている視聴者

どう見ても数千トンとかあるだろあれ


513:見ている視聴者

実は風船みたいに軽いとか?


601:見ている視聴者

皆城悠真のこと馬鹿にしてたやついるってマジ?


671:見ている視聴者

おいちっちゃくなったぞ大仏



710:見ている視聴者

大仏ちっちゃww

皆城パイセンやっちゃってくださいよwww



781:見ている視聴者

でかいやつが小さくなったら強化フラグ

これ豆な


795:見ている視聴者

大仏が殴られたのは三度

小さくなったのは三度目

そして仏の顔は…


805:見ている視聴者

つっよ


832:見ている視聴者

瞬殺じゃん


899:見ている視聴者

強すぎだろ皆城悠真



932:見ている視聴者

最後のこれか○はめ……



965:見ている視聴者

これは一位の貫禄



980:見ている視聴者

こんなのどう考えてもぶっちぎりで人類最強だろ



999:見ている視聴者

これ生放送だろ?

奈良いったら悠真のサインもらえるかな



1000:見ている視聴者

みんな掌くるっくるで草

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