第337話:お坊さんズ
1.
奈良ダンジョン第6層。
慎重に進んでいると、遠目でも巨大な建造物が見えた。
多分あれは……巨大な寺かな?
そしてその左右には更に大きな五重塔……もとい七重塔が見える。
「中央に見えているのは金堂かな。距離感から考えて、最低でも高さ100メートル以上はあるように見える」
未菜さんがそう言うと、ローラが首を傾げた。
「コンドー?」
「大仏様が祀られている建物さ。左右の塔は東塔と西塔……正確にその方角を向いているかは定かでないけれど」
ダンジョン内に東西南北の概念はないからなあ。
いや、ないというのも少し語弊はあるか。
階段や入り口から見て真っ直ぐ向こう側が南、階段側が北、そしてそれに準じた東と西という仮の方角はあるにはあるのだ。
本当に何もないと地図を作る時なんかに不便だからな。
ちなみに方位磁石は全くなんの役にも立たない。
「てことは、あそこに行けば奈良のダイブツが見られるってこと!? ボク行きたい!」
目をキラキラさせているローラ。
可愛い。
未菜さんはこちらをちらりと見る。
(大丈夫だと思うかい?)
(ボスっぽい雰囲気はありますね)
そう、あそこが東大寺よろしく奈良の大仏みたいなのがある場所だとして……
そうであれば、先程からちらほらエンカウントしている阿吽よろしく敵モンスターである可能性は十分ある。
しかも、扱いとしては最上級の大仏だ。
ボス……でなくとも他に比べて強いモンスターであることは間違いないだろう。
一応確認を取ってみるか。
(知佳、多分今テレビに映ってると思うんだけど)
(行っていいよ)
(……いいのか?)
(危なくなったらカメラに映らない場所で誰かを転移召喚するって約束できるなら)
(OK、了解)
まあそもそもボスであったところでこの戦力でも負けることはないだろう。
ローラだってあそこが危険である可能性はわかっているはずだ。
それでも行きたいというのは、ボスだとしても勝てる自信があるからと言える。
再び未菜さんへ念話を繋げる。
(知佳からOKが出ました)
(わかった。彼女が大丈夫と言うのなら大丈夫だろう)
「よし、それじゃあ気を引き締めて行こうか」
2.
「でけぇー……」
思わず心の声が漏れ出てしまった。
それくらいに、まず門が大きい。
50メートルくらいはあるんじゃないか?
ダンジョンってのはつくづく不思議だ。
どう見ても人工物なのに、こんなものが自然生成(?)されているのだから。
まあそこに関しては今更の話でもあるけども。
明らかにオリジナルより大きいしなあ。
本当に不思議だ。
ダンジョン製なので神様が通るとかはありえないと分かってはいつつも、門の中央は通らずに中へ入る。
一応事前にテレビクルーたちにもボス格が出てくるかもしれません、というのは伝えてあるので独特の緊張感が走っている。
というか、いくら世界1位から3位まで揃っているパーティとは言え、こんなのについてくるなんて命知らずな人たちだよな。
その分の手当とか出るんだろうけど。
「き、緊張するっすね……」
志穂里が呟く。
「なるべく皆城くんの近くを離れないように。クルーの皆さんも。彼の傍が最も安全だからね」
そう未菜さんが言った、次の瞬間。
紫色のオーラのようなものが俺たちの周りから吹き出し、無数の……
お坊さん? のようなモンスターが出現した。
つるりとした禿頭に黒い袈裟を着たのっぺらぼう。
右手には錫杖のようなものを、そして左手には御札を持っている。
ダンジョンは正確に周りの情報を反映しているわけではなく、その地点に対するイメージを反映している、という話を聞いたことがある。
錫杖はともかく、御札に関しては明らかに後者の解釈と一致しているな。
撮影陣がどよめいて、逃げ出そうとする。
「皆さん、俺から離れないでください。必ず守りますから」
ローラが撃った銃弾を坊さんモンスターが手に持っていた錫杖で弾いた。
それが開戦の合図となる。
今までの戦闘で、未菜さんもローラもスキルは一度も使用していない。
ローラは単に魔力の節約の為に、未菜さんはスキルとテレビの相性が悪すぎるから。
しかし普通に放った銃弾が弾かれるのであれば、少なくとも温存しておく理由はなくなる。
今度はローラの放った銃弾が虚空から飛び、お坊さんモンスターの頭を吹き飛ばす。
見た目が人型なので若干スプラッターだが、放送コードとか大丈夫かな。
まあ血とか臓物とかが出るわけではなく、そのまま光の粒になって消えるのできっと大丈夫だろう。
と信じたい。
グロ映画よりはよっぽど見れるはずだ。
そうこうしている間に、別のお坊さんモンスターが手に持っていた御札を投げつけてきた。
テレビクルーへ向かっていったそれを俺がキャッチすると、ぼぼう、と音を立てて御札が燃え上がる。
なるほど、そういう感じね。
魔法攻撃ってわけだ。
「なら――」
魔法になる前の魔力は、カメラに映らない。
これは事前に動画を撮る際に確かめたことだ。
辺りに自分の魔力を充満させる。
それを感じ取ることのできる志穂里がぎょっとした顔でこちらを振り向いた。
未菜さんとローラは慣れっこな様子だが。
「ゆ、悠真先輩!? そ、それ大丈夫なんすか!?」
「平気だ。あと、呼び方呼び方」
「あっ……」
後半を小声で指摘すると、志穂里がしまった、という顔をする。
まあごちゃっとしているところだしスルーされると信じよう。
魔力を周りに充満させるとなれば、その分消費は激しくなるに決まっている。
それに対しての心配だったのだろう。
しかし安心してほしい。
これでも全体の100分の1……いや、1000分の1も使っていないくらいだから。
これだけ魔力を充満させておけば、あの程度の魔法による攻撃はまず通らない。
そもそも御札を全て叩き落とす自信はあるが、念には念をというやつである。
「あ、熱くないのか……?」
という呟きがクルー側から聞こえたが、こんなん熱くもなんともない。
フレアの炎に比べれば冷たささえ感じるくらいだ。
要は、こいつらの強さ自体はちゃんと対処すればぶっちゃけ大したことない。
つまりこいつらがボスということは有り得ない。
あまりにも弱すぎる。
志穂里もガントレットを使って対応できているくらいだしな。
――と。
魔力での感知に引っかかるものがあった。
「上だ!!」
ヒュンッ、と音を立てて上から何かが飛来する。
それは呆然と空を見上げる志穂里に直撃しそうになり――
「わっ!?」
その寸前で、彼女の体を抱え上げて躱すことに成功した。
もうもうと立ち込める砂煙の中から、3つの顔と6本の腕を持つ人間――いや、阿修羅のモンスターが現れた。
上半身は裸で、肌は赤い。
腕にはそれぞれ一本ずつ、青く鈍い光を放つ剣を持っている。
そして――
「……強いな、こいつ」
今までの奴よりも感じる圧が強い。
阿修羅は特に溜めもなく剣を6本の腕全てで振るう。
真意層のモンスターだったり、悪魔だったり魔人だったりと戦ってきた俺からすれば正直雑魚だ。
そしてそれは、人間の限界を超えつつある彼女たちにとっても変わりない。
そこから6本の衝撃波……飛ぶ斬撃とでも呼ぶべきようなものが飛んできた。
しかし、それを未菜さんが全て叩き落とす。
「まだMAXを2発分は無理だから、こっちは半分くらいの威力だけど――」
ローラが指で銃の形を作る。
「BANG」
恐らくはこの場で俺しか確認できない程の刹那の間。
一瞬だけ
奴の体は跡形もなく吹き飛び――
――それだけでは済まずにその背後の金堂(というらしい建物)まで一挙に吹き飛ばしてしまう。
「あっ」
と零したのは誰だろうか。
それは誰でも良いのだが、問題は金堂が吹き飛んだということ。
その中に何がいるのかという話だが。
100メートル以上はあろうかという大きな金堂の中に、100メートル以上はあろうかという大きな仏様……
つまり大仏が、鎮座している状態でそこにいた。
先程の衝撃で傷一つついてないその大仏が……
「……やっぱりな」
目を開いて、こちらを睨んでいる。
奈良ダンジョンのボスは、案の定大仏でした。
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