第334話:青い実
1.
休憩後は張り切った面々によって更にペースアップし、1時間後には親父たちを見つけた真意層12層目に到達した。
「ダンジョンってのはこんな簡単に進んでいくもんじゃないニャ。もっと慎重に進んでいくもんニャ」
呆れたように呟くルル。
「……俺はもう慣れたぞ」
最初こそビクビクおどおどやっていたが、流石にもう勝手知ったるものだ。
それこそ階層ぶち抜きでショートカットとかやりださないだけマシだと思う。
「探索者というのは未知の地を恐る恐る進んで行くことに楽しみを見出しているような連中じゃからな。わしらのように最短経路を進んでいくのは邪道と捉えられることもあるやもしれん」
まあ俺はどちらかと言えばそっちよりの考え方なのだが。
今回みたいにサクッと進めたい場合なんかは別としても、普段の攻略はゆっくりやりたい。
今まではダンジョンを落ち着いて探索するとかってこと、ほとんどなかったからなあ。
また今度にでも柳枝さんと親父のパーティに混ぜてもらおうかな。
そんなこんなで、二つの世界を合わせても……いや、恐らくは他の世界を見ても類を見ないほど強力なパーティ故に特に何事もなく進めてしまい、真意層20層目。
明らかにそれまでの層と雰囲気が変わった。
「お兄さま、フレアからあまり離れないでくださいね」
「あ、ああ」
鬱蒼とした森……どころか陰鬱とした森、というべきか。
真っ黒い木々で空も大地も覆い尽くされ、光が全く差していない。
そんな状況だ。
フレアが明るい炎で光を出してくれているが、それでも一つの炎ではカバーしきれないので幾つも出して浮かせているような状況だ。
人魂みたいなイメージ。
「不自然な程に暗いのう……光も本来もっと遠くまで届いても良いはずじゃが」
「何か不思議な力に阻害されているような感じですね。多分この黒い木になにかあるのだと思うのですが……もう全て焼き払ってしまいましょうか?」
「ぶっちゃけ有りね。よく分からない状況だし、人がいるとも思えないし」
フレアの物騒な提案にスノウが同調する。
「ダンジョンとは言え森を焼き払うのはちょっとのう……」
シエルがちょっと嫌そうな顔をする。
「森の妖精だもんな」
「そういうわけじゃな。別にずっと森にいるわけでもないが」
「じゃ、森を焼くのは最終手段ってことで」
というか、これほどの規模のダンジョンを焼くというのが当然のように選択肢に上がるのがまた凄い話だよな。
そもそもダンジョンにある全てのオブジェクトはダンジョン外にある同じものよりも頑丈にできている。
例えば何気ない木でも、燃えにくいし切りにくい。
そして奥まで潜れば潜るほどにその頑丈性は増す。
恐らくだが、ここまで深くまで来れば普通に燃やそうとしてもまず燃えないだろう。
火炎放射器を持ってきても怪しいラインかもしれない。
大型の火器を持ち込むことができない上に魔法も普及していない地球ではダンジョンのオブジェクトを破壊しようなんて選択肢がまず浮かんでこないのだ。
「にしても……本当になんだろうね、これ」
黒いトレントを一撃で葬ったシトリーが、奴の落とした青い実を拾い上げて眺めている。
うーん、確かになんだろうな。
「エリクシードみたいなとんでも効果は流石にないだろうけど……」
それでも真意層でのドロップ品だ。
それなりに良い効果を見込めるのではないだろうか。
――と。
「ニャ?」
ルルが後ろを振り向いた。
「どうした?」
「いや……ニャんか視線を感じたような気がしたニャ」
「視線?」
少なくとも周りにモンスターっぽい気配は感じないが。
「あんた薄着だから、
「やっぱりケダモノニャ」
「いやいや、別に今は見てなかったって!」
「ふーん、今は、なんだ」
「…………」
否定はできない。
だって仕方ないだろう。
ルルだとわかっていても、おっぱいはそこそこ大きいし薄着だし。
男はどうしても目線がそちらへ行ってしまうのだ。
本能で。
「気配は感じませんが……」
ウェンディが辺りを見回す。
「でもルルちゃんが言うなら何かあるのかもねえ」
「ルルの勘は案外当てになるからな……
足に激痛が走った。
さっと視線を下ろすと、何かが――
木の根みたいなものが足の甲を貫通しているのが見えた。
「ぐっ……!」
咄嗟に足を強化して引いて、引きちぎるが……
「っ……」
なんだ……?
体に力が……
「お兄さま!」
「悠真!」
フレアとスノウが駆け寄ってくるのが見えたが、脱力感が凄まじい。
これは……
魔力が一気に持っていかれたんだ。
次の瞬間。
目の前の景色が切り替わり、見覚えのある洞窟のような場所にいた。
地球と異世界の間を繋いでいるダンジョンの最奥。
転移石が隠し置いてある場所だ。
「……危なかったのう。大丈夫か? 魔力を随分吸われたようじゃが」
「……今の一瞬で半分以上は持ってかれたぞ……」
ちなみに足の甲は既に治癒魔法で治されている。
「魔力を持っていかれるのはまずいわね」
「だな……」
今の一瞬で半分だ。
もしもう少し反応が遅れていれば全て吸われていた可能性もあるし、そうなったらこの面子ではシエルとルルくらいしか戦えなくなってしまう。
「一旦対策を練るべきでしょう」
というウェンディの言葉によって、今回のダンジョンアタックは中断となったのだった。
2.
「ふむ……どう見ても木の枝だね」
「ええ、木の枝です」
「で、こっちはどう見ても木の実だね……ブルーベリーかな?」
「の、ように見えますね」
対策を練ると言ってもすぐに解決するわけではないので拾ったものを天鳥さんのところへ持ってきたのだが、今回は特に目新しいものがあったわけでもない。
強いていえば、エリクシードと似たようなものと言えなくもないこの偽ブルーベリーが結構良さげかもしれないが……
「よし、食べてみるか……むぐっ」
平気で口の中へ放り込もうとしたのを、手で天鳥さんの口を抑えて止める。
「駄目です。動物実験かなにかを挟んでください」
――と。
「ぱく」
そのすぐ隣でぱくりとミナホが青い実を口に放り込んでいた。
「ミナホさん!?」
思わず敬語が出てしまった。
「大丈夫、平気。わたし、毒とか効かないから」
「いやそういう問題じゃなくて……」
「…………」
ミナホは実をもぐもぐして、しばらく黙り込んで。
「……魔力が吸われるから厄介って話だったよね?」
「あ、ああ……」
「なら、これだけで解決できるかも」
「どういうことだ?」
青い実をこちらに差し出してくる。
「これ、食べたら魔力が回復するみたい」
……超お誂え向きじゃん。
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