第306話:皇帝
1.
セフゾナズ帝国、首都パーム。
耐衝撃性の高い、魔力を含む煉瓦で作られた町。
この帝国はその保有領土や名前を変えつつも、なんと6000年以上前から存在するんだそうだ。
帝国というだけあって、今まで関わりを持ってきたハイロンやセーナル、ラントバウ、メカニカとは規模も国力も比べ物にならない程大きい。
シエル、ガルゴさん、親父の三人がこの国に現れたという巨大なドラゴンを討伐したという話は既に聞いている。
それでしばらくは国賓扱いされていたそうだ。
本当は親父とガルゴさんも連れてきたかったのだが、親父はなんと一週間程前から母さんと海外旅行へ行っている。
そしてガルゴさんは地元を長い間離れるわけにはいかないとのこと。
なのでここへ来たのはシエルと俺、そして知佳、ウェンディの四人である。
宮殿……皇居、とでも言うべきなのだろうか。
シエルがやってきたということで、顔パスで皇帝が住む住居まで通された俺たちはまず客間へ通された。
この客間がまたとんでもなくでかい。
どれくらいでかいかと言うと、客間のくせに多分東京ドームが丸っと2つは入るくらい大きい。
しかしそれもさもありなん。
この皇居がある首都パームなのだが、その大きさが北海道の倍はある。
で、そこにある皇居はなんと長野県ぐらいのサイズがある。
ちなみに知佳いわく日本における都道府県別の面積ランキングで、長野は4位らしい。
2位は岩手とのこと。
もちろん俺はどちらの順位も知らなかった。
むしろそう考えると客間、小さくね? と思ってしまうくらいだ。
いや、大きさの感覚がバグってるからそう思うだけで、やっぱりどう考えてもでかいのだが。
「そもそも皇居と言っても、その中に使用人や重要ポストに就く者たちが住む『町』が幾つかあるようなものじゃからな」
「……とんでもない権力だな」
「魔法のある、地球よりも大きな惑星で覇権を握るほどの帝国だと考えると、むしろ控えめかも」
知佳がそんなことを言う。
うーむ、そう言われてみるとそんな気もするので不思議なものだ。
どう考えても大きなことには違いないんだよ。
「それだけ大きいと国防も大変そうですが……」
話を聞いていたウェンディが客間を見渡しながら言う。
「帝国もセーナル程のものではないが結界を張っている上に、対魔煉瓦もあるからの。この国が国防の為に一日で消費するエネルギー量は、帝国以外の全ての国が一日で消費する全エネルギーよりも多いと言われておるんじゃ」
「……よくそんなエネルギーを毎日捻出できるもんだな」
「帝国はダンジョンが多いからのう。国土の広さもあるとは言え、ここ数百年はダンジョンが多い国を積極的に傘下へ置いておる」
なるほど。
ダンジョンの魔石ってそう考えると本当にとんでも資源だな。
「わしとしては帝国のやり方はあまり好きにはなれんものじゃがな」
「……おい、大丈夫なのか? そんなこと言って」
俺はちらりとこの部屋で控えているメイドさん達の方を見る。
東京ドームくらい大きい部屋の四隅で無言でじっと控えているメイドさんたち。
全員が黒髪黒目で、容姿もそこそこ整っている……というところまでは良いのだが。
全員そっくりなんだよな。
四つ子か何かだろうか。
うちにも四姉妹がいるが、ここまで似てはいないぞ。
「アレは命令しない限り起動せん。そういうモノじゃからな」
「……どういうことだ?」
「マスター、アレは限りなく人間に近くなるように魔力や見た目を偽装してありますが、恐らく人形……機械人形の類かと」
「はあ!? てことはあれか、メイドさんロボってことか!? マジで!? マジかよ!」
技術大国と言われているメカニカにもそんなものはなかったぞ。
美少女メイドロボとか全男の夢と言っても過言ではないだろう。
二次元好きの友人だって流石にこれは泣いて喜ぶんじゃないか?
「悠真、キモい……」
「うぐっ」
興奮する俺にドン引きする知佳。
シエルは呆れたような目を向けているし、ウェンディは特に表に出していないがフォローしてくれないということは内心引いているのだろう。
うーむ、この場に俺以外の男がいれば間違いなく同調してくれるはずなのだが……
「……メカニカがこの世界で一番技術発達してるんじゃないのか? なんでこんなものが作れるんだ?」
「わしに聞かれたところで、なんとも、と言ったところじゃな。しかし帝国がメカニカより優れているのはおぬしの言うところの、『ろぼ』を作る技術だけじゃよ」
「もしかして合体ロボみたいなのもいんのかな……」
「がったいろぼ?」
シエルは首を傾げる。
「複数体のロボットが合体してできる、大型のロボットのことだと思います」
「そういうのは聞いたことがないのう。あくまでも人型じゃ」
ウェンディの補足で理解したようで、シエルはさらりと答えた。
そうか、ないのか……
合体ロボ……
――と。
この部屋には扉が存在しないのだが、幾つかある入り口の中でも一際大きなもの(俺たちが入ってきた入り口とは真反対に位置している)から、今度は流石に人間だと思われる、それぞれ容姿も髪の色も異なるメイドさんたちが20人ほどぞろぞろ入ってきた。
そのまま入り口の脇に10人ずつ並んで頭を下げる。
そして。
その中央を、40代くらいに見える男性が歩いてきた。
短い金髪に、碧眼。
ハリウッド俳優みたいに彫りが深く、顔立ちも整っている。
身長は俺より頭半分ほど高い。
180くらいか。
体つきは筋肉質というわけでもなく太っているわけでもなく、平均的、と言った感じ。
感じる魔力は……知佳と同程度か、若干劣る程度だろうか。
皇帝という立場にいる人間としては破格の大きさのように感じる。
とは言え、俺は隠している魔力まではちゃんと読み取れないので、正確な力量はここではシエルかウェンディしかわからないのだが。
そしてなにより。
威厳とでも呼ぶべきような圧を強く感じる。
間違いない。
この人が『皇帝』だ。
めちゃくちゃ尊大な態度を取られたりしても、ウェンディ辺りが怒らないように気を配らなければ。
なんて構えていると、俺たちの前までやってきた彼は流麗な動作で頭を下げた。
「お久しぶりです、
……あれ?
全然尊大じゃないな?
「それらしいことは全くしておらんし、そもそもその名は特に意味を為さん。メイドの前でそう軽々しく頭を下げるでない」
「私が生まれた時からシエル様にはお世話になっておりますから。それに、先のドラゴンの騒動も――」
「堅苦しい挨拶は良い。話は部下から聞いておると思うが、これが和真の息子、悠真。そしてこの二人は……まあ悠真の妻みたいなものじゃな」
「おお、貴殿が和真殿のご子息という……! 一目お会いしたいと思っていた。私はこの国の長をやらせて貰っている、クラウス=セフゾナズ。この国はなんでもある。ゆっくりしていってくれると嬉しい」
「和真の息子、皆城悠真です。よろしくお願いします」
あまりボロが出ないように手短に挨拶をしておく。
流石に俺に対しては敬語ではないが、軽んじられているとは感じない。
帝国という字面や、皇帝というなかなか聞く機会のないお偉いさんということでなんとなく堅苦しさを感じて緊張していたが、本人は全然そんなことないじゃないか。
「奥方様お二人も大変美しい。羨ましい限りだ」
「それ程でもあります」
「お、奥方など、私は、その……」
全然動じてない知佳と、対照的に意外と狼狽しているウェンディ。
どっちも可愛い。
にしても、知佳が敬語を使っているのは珍しい。
基本的にタメだからな。
とりあえず様子見、と言った具合だろうか。
「で、本題じゃ。クラウス」
「はい、例の塔についてですね。シエル様の仰る通り、世界の危機というわけであればもちろんアレの破壊について異論はありません。しかし、何も無しに破壊させるとなると……こちらにも立場というものがありまして」
「それはそうじゃろうな」
にこにことした笑みを浮かべているクラウス皇帝。
良い人そうだし、あまり大した対価は求められそうにないな。
そう思っていると、皇帝はにこにこした笑顔のまま、俺の方を見た。
「端的に言いますと、シエル様と和真殿のご子息――悠真殿の力を1年ほど借りたいのです」
「わしらの力を?」
「はい」
「それはどういう風に、じゃ?」
「世界を真なる平和へと導く為」
クラウス皇帝は笑顔のまま、続ける。
「聖王を失い、国家としての在り方を変えたハイロン国。雨が降り止み、大きな転機を迎えたラントバウ。この二つの国を我が帝国へ迎え入れようと考えているのです」
……帝国へ迎え入れる?
それはつまり、どういうことだ?
「……その是非はともかくとして、それにわしらの力が必要になるとはどういうことじゃ? 交流がある故、説得に協力しろ、と?」
「いえ、まさか。もっと話は単純でしょう」
ぐっと拳を握る。
「この二つの国は現在、大きく力を落としています。交渉に応じないのであれば、力で支配する。その為に、あなた方のお力を借りたいのですよ」
……まさか。
この皇帝は、侵略戦争をすると言っているのか?
それも、笑みを浮かべたまま。
「もちろん協力してくださいますよね」
----------------------
作者です。
今回のエピソードですが、昨今のご時世の事があるので変更を加えるかでかなり悩みました。
しかし面白さや流れからして、どうしても無理があるということでそのままやらせていただこうと思っています。
賛否あるかと存じますが、物語を守る為の必要な措置だということでご理解頂ければ幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます