第293話:あの時の感情
宇宙服もどきが燃えてしまう前までのデータをミナホに出してもらった。
どうやら、俺の身体能力強化にはかなり大きな出力のムラがあるらしい。
一番低い時でも
ちなみにその時ギリギリ測れた数値上では、最低値の更に5倍程の力になっていたらしい。
そこから更に倍まで高めることができる限界突破が乗ると考えると、最大で金級冒険者の500倍以上のパワーが出ることになるが……
ちなみに最上位の白金級はルルと同レベル、金級は大体一級探索者くらいと考えるのがわかりやすい。
基本的に地球基準の体力測定じゃほとんど何もわからなかったからな。
なんとなくの指標がわかるだけでも有り難いもんだ。
「…………」
しかしミナホはその結果に納得がいっていないようだった。
結果が出力されたモニターをじっと見て黙っている。
「どうした?」
「……数値が低すぎる」
「……そうなのか?」
限界突破抜きでも一級探索者レベルの50倍から250倍。
まあ、差が大きいのは良くないのだろうがそれでもとても低いとは思えない。
というか、自分で言うのもなんだがむしろこんなに強かったのかと驚いているくらいだ。
「わ、私は十分強いと思いますけど……」
綾乃がおずおず切り出す。
俺に助け舟を出してくれたのだろう。
ミナホは続けて、
「ウェンディの魔力を仮に考えられる最低値の51200エルドに設定したとして、金級の魔力は200エルド前後と言われているから256倍あることになる。そのウェンディが悠真の魔力は10倍以上あると言っているということは、少なめに見積もっても悠真は金級冒険者の2560倍強くないといけない」
10倍以上足りてないじゃん。
というか饒舌だな。
天鳥さんや知佳もそうだが、自分の好きなジャンルになると多弁になるんだよな。
何かを極めている人あるあるなのだろうか。
「ミナホさん、数値上ではそうでも人体には限界がありますから。限界を超えると肉体が崩壊します」
ウェンディがフォローを入れた。
「魔力で肉体が崩壊?」
「ええ、私はそれを実際に見ています」
ロサンゼルスのビル型ダンジョンでの事か。
あの時は確かに腕が炭化したみたいにぼろぼろ崩れていたな。
「なるほど。ということは、この数値はそもそも貴方の限界ではない」
「まあ、アレが全力全開の限界点だとするなら確かにそうなるな。でも魔力の多さがそのまま『強さ』に直結するわけではないだろ?」
「いいえ、マスター。その考えは正しいのと同時に、間違ってもいます」
「どういうことだ?」
「確かに、魔力が比較的少なくともレイのように実力が高い者はいます。しかしそのような場合は魔力量における到達点に至っている場合が多いのです。わかりやすく言えば、レベルの上限が魔力量によって決まる、と言ったところでしょうか」
なるほど、なんとなくわかったぞ。
レイさんの魔力量はさほど多くはない。
しかし下手すればルルよりも強い。
極端な話、ルルのレベルの上限が150まであって、レイさんは100までだったとしてもルルのレベルが90という発展途上だった場合、100でカンストしているレイさんの方が強いわけだ。
恐らくこれは身体能力強化だけの話ではなく、魔法でもそうなのだろう。
この場合は俺で例えた方がわかりやすいか。
俺はウェンディの10倍魔力があるらしいが、魔法で戦えば俺が10人いてもウェンディには勝てない。
俺の魔法レベルが現在50だとすれば、ウェンディの魔法レベルは余裕で500以上あるからだ。
しかしステータス的な限界だけで言えば俺の魔法レベルは5000まで上がる可能性がある、ということだ。
でも多分この上限って、人間の寿命で辿り着けるものじゃないよな。
実際はこんな単純な掛け算で表せる話ではないとは思うが、理解としてはあっているだろう。
「てことは、あれか。出てきた数値が低いのは俺が未熟だからってことだな……」
「マスターの場合は魔力を手に入れてまだ1年ですし、十分すぎる程の成長率ですよ」
ウェンディからママみを感じる。
やはり姉。
時代は姉である。
「手加減してたのかと思った」
ミナホはさらりと言うが、手加減して負けていたんじゃかっこつかなすぎる。
少なくとも俺の中では完全に全力だった。
天鳥さんもミナホの横からグラフを覗き込んで、ふーむと唸る。
「このグラフを見るに、ある程度は感情に左右されるのだろうね。時間と照らし合わせて見るに、先程の組み手を楽しんでいたと見える」
「まあ、気持ちは全然わからないってわけでもないニャ。実力の拮抗したバトルは割と楽しいニャ」
「命の奪い合いってわけでもないしな。言っちゃえばスポーツ感覚みたいなもんだし」
ランナーズハイが一番近い言葉だろうか。
「……限界を超えた時の状況はどうだったの? 感情的な話で。喜怒哀楽」
「ん……何がなんだかわからずガムシャラだったけど……一番はやっぱり『怒』だろうな。俺が死んだら皆も死ぬかもって状況で、ぷっつんきて……」
まあそんな雑な覚醒では勝てずに、結局ウェンディに助けられたのだが。
漫画の主人公ならあそこで圧倒していたのだろう。
「…………他人が死ぬかもしれなくて、一番怒った?」
「いや、流石に他人って関係でもないぞ。ウェンディだったりスノウだったり、ティナって女の子もいた。全員俺の大切な人たちだ」
「僕が似たような状況になったらキミは怒ってくれるのかい?」
「そりゃそうでしょ……言われて照れるなら振らないでくれます?」
「いや、まさか即答されるとはね」
天鳥さんが珍しく顔を赤らめている。
かわいい。
「もちろん綾乃もな」
「へぇっ!? あ、ありがとうございます……?」
綾乃も真っ赤になった。
ウェンディは……当時の当事者だし言わなくてもわかっているだろう。
「まあルルもあれだな。それなりにな」
「ひどくないかニャ!?」
「冗談だって」
俺を失えば弱体化するウェンディや、そもそも戦闘力がさほど高くない天鳥さんや綾乃と違って、常に強いルルが死にかけるような状況はちょっと想像しづらいが。
「なら、わたしは?」
「ミナホか? まあ、正直なところ綾乃やウェンディや天鳥さん程とまではいかないけど、やっぱり目の前で見知った人が死にかけるような状況になったら大なり小なり感情の動きは出るよな」
その上シエルの旧知で、(知佳が勝手に決めたとは言え)俺と今後深い関係性になるらしいし。
地球の技術を発展させる為にも必要な人材だ。
それになによりミナホは、どこか放っておけない雰囲気なんだよな。
危なっかしいというか、なんというか……
「なるほど」
ミナホはこくりと頷いた後。
右手を手刀の形にして――
ヒュッ、と。
「お、おま――なにしてんだ! 馬鹿野郎!!」
自らの首に手刀を突き刺そうとしたのだ。
寸でのところで手首を掴んで止めたから良かったものの、指先に込められた魔力からしてそのまま突き刺さっていれば重傷を負っていたに違いない。
「…………? わたしは野郎じゃない」
「いや、そういうことじゃ……ないだろ……?」
ルルやウェンディすら、突然すぎて反応できずに目を丸くしている。
俺が反応できたのは、一瞬何かが引っかかったからだ。
もしかしたらやるかもしれない、という直感。
「今お前、自分がなにしようとしてたかわかってるのか……?」
「四人は関係が深すぎる。炭化するほど感情が昂ぶる危険性があった。だから、わたしで試そうとした。強化の度合いくらいなら、目視でも確認できる」
「試そうとって……」
そんな理由で自分で自分を傷つけようとしたのか?
「大丈夫。死ぬ程の傷はつけないつもりだった」
じっと俺の目を不思議そうに見つめる。
「そういう問題じゃないだろ……」
ぞっとした。
自分を省みない奴ってのはこんな目をしているのか。
なるほど、あの時の知佳はこんな気持ちだったのか。
こりゃ帰ったら改めて土下座だな。
「決めたぞ、ミナホ」
「?」
「お前は俺に惚れてもらう」
「……何故?」
実体験だよ。
人は誰かを好きになった時、生まれ変わるんだ。
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