第285話:動物測定
1.
『動物に魔力があるか?』
「はい。ダンジョン管理局には潜在魔力も測れる魔力計測器が以前からあったじゃないですか。あれで感知したことはあるのかなと」
未菜さん……はマネージャーさんを通さないと連絡がつかないので、柳枝さんへ聞く。
ある程度のスケジュールは把握しているので転移石で飛んでいっても良いのだが、着替え中だったりお風呂中だったりというハプニングは避けられないからな。
別にそれで今更困るような間柄でもないのだが、その後天鳥さんのところへ向かうわけなので時間を浪費してしまうわけにはいかない。
『ふむ……年に一度くらいは盲導犬がビルに入ることはあるが、潜在魔力を感知したという話は聞かないな』
「あー……てことは少なくとも犬には魔力がない、と?」
『君と同じくError表示ではあるが、魔力が多すぎて……ということはないだろう。今まで犬がダンジョン内に一度も入ったことがないかと問われれば確実に答えはノーだ。しかし、それで魔力がないと決めつけるわけにもいかない。特に我々はな』
「……別に根に持ったりしてないですよ?」
俺はダンジョン管理局の試験に何度も落ちている。
その落ちていた原因というのが、魔力計測器のError表示にあった。
魔力が全く無い人間は計測時にErrorが表示されるのだが、それとは逆に計測限界値を超えていてもError表示が出るのだ。
例えば、シエルの許容量ギリギリまで俺の魔力を注いだ後にシエルの魔力を計測するとやはりError表示になる。
ちなみにその直後に俺自身を測ってもErrorが出るので、どれだけ少なくとも計測限界値の倍以上はあるということだ。
スノウたちに普段から供給している魔力の分も含めれば、更にその数倍か。
ともかく。
俺は測定器のError表示のせいで試験を落ちていたのだ。
未菜さんからちらっと聞いた話だが、少なくとも過去2回は筆記も実技も合格ラインを満たしていたらしい。
しかし管理局では潜在魔力量も重視していた。
俺たちはほいほいモンスターを倒せるし、別の手段でも魔力が増えていくからあまり意識はしないが普通はそんな簡単に魔力は増えていかない。
なので最初からある程度素質のある者のみを選抜していたというわけだ。
『君がそうでも、我々は気にするべきだからな。ところで、もし動物が魔力を持っていたらどうするんだ?』
「うーん……どうでしょうね。とりあえずは興味本位ってところですけど、ぶっちゃけ戦力になりそうなら戦力になってもらうのはありかなと思ってます。動物に戦わせるのは確かに良くはないんでしょうけど、世界の危機が関わってる現状、綺麗事ばかりも言っていられない。なんか大昔にゾウとかを戦争に使ってたところとかあるらしいじゃないですか」
『戦象というやつか。確かに、素で人より強い動物が魔力も手に入れれば強力な戦力になる可能性は十分にあるな……が、仮にそうだったとして世間を納得させるのは難しいぞ?』
「そこは……あー、とりあえず動物の魔力がどうかってところを確かめてから考えます」
というわけで、とりあえず事前情報として魔力計測器では犬の潜在魔力を測れないということがわかった。
多すぎるからか少なすぎるからか、それとも別の要因があるかは色々調べていくことになるだろう。
2.
天鳥さんがトラに計測器を向け、手元にあるスマホで数値を確認する。
「うん、Error表示だね」
そう言うと、スノウが「はいはい、虎もErrorね」と言ってメモを取った。
俺、天鳥さん、スノウというちょっと異質な組み合わせで現在、俺たちは動物園を回っている。
「まさかこんなすぐにまた動物園に来るとはなあ」
「おや、悠真クンは動物は苦手かい?」
「苦手ってわけじゃないですけど、別にさほど興味もないっていうのが本音ですかね」
「ちなみに僕は苦手だ。動物は何を考えているかわからないからね」
「へえ……」
事前に動物園側には許可を取って、魔力計測器を色々な動物に向けながら歩く。
スノウが強力な認識阻害魔法をかけてくれているので、周りの人が俺たちを気にすることはない。
「これで大体回ったかな?」
「そうね。ざっと見たのはこんなものよ」
スノウがぺらりとメモ帳を見せてきた。
何故か英語で書かれているが、俺に対する嫌がらせだろうか。
細かく言うとかなり種類がいるので大まかに、
ゾウ、ライオン、トラ、サル、ゴリラ、ワニ、ヘビ、ホッキョクグマ、ウマ、ヤギ、パンダ、キリン、サイ、カバ、シマウマ、ダチョウ、キツネ、カンガルー。
大体なんとなく強そうな動物も、この中には列挙していない動物も全て表示はErrorだった。
簡単に調べられる鳥や犬猫も同じくError。
本来ならば種類ごとに詳しく調べていく必要があるが、計測器の機密性から考えて人海戦術は使えないのでとりあえずそれは後回しにして、次の段階へ進むことになった。
「ダンジョン内へ動物を直に連れていこうか。それが一番手っ取り早い。スノウさんがいれば、計測器では感知できなかった魔力を感じることができるかもしれないからね」
「ま、善処はするわよ。けど、その肝心の動物はどうするわけ? 保健所でも行って引き取ってくる?」
「そのまま飼う覚悟があるのなら別だけれど、僕たちは基本的にみんな忙しいからね。元々飼っている人に協力してもらうのが手っ取り早い」
元々動物を飼っている人か。
一瞬ルルが頭を過ぎったが、このことはあいつには黙っておこう。
「できれば魔力のことや……悠真クンやスノウさんのことを知っている人が良いね。つまり大抵のびっくりには耐えられて、秘密を守れるという確約ができる人だ」
「うーん……」
意外と動物飼ってる人っていないんだよな。
実際、天鳥さんの言う通り俺の周りにいる人は大抵みんな忙しい。
それぞれやることがあるのだ。
俺が異世界で何かやっていたり、今のような動けない期間でもスノウたちはこの世界の『キーダンジョン』を探すべくダンジョン攻略へ向かったりしているし、ナディアやライラたちもそうだ。
綾乃は特に最近忙しそうにしている。
会社単位で色々やるようになってきているからだ。
知佳もいるとは言え、あいつがやるのはどちらかと言えばパソコン関係の仕事だしな。
そのバックアップでレイさんと母さんが手伝ったりしてくれているらしいが、更にそれに加えてフゥのこともあったりするのでやはり動物を飼うような暇はない。
となると……
「ティナはたしか猫飼ってるわよ」
「え、そうなの?」
「日本へ来て一ヶ月くらいだったかしら。子猫を拾ったとか言ってたわ」
「……ま、マジか。知らなかった」
ティナとは時折連絡を取っているが、大体魔法のことやダンジョンのこと、俺から話題を振るにしても学校のことや勉強のことだったりするのでちょうどその話題に触れなかった、ということなのだろう。
ということでそのティナへ連絡をしてみることに。
電話をかけると、ワンコール……というかプルルルル、のプル、くらいですぐに出た。
『も、もしもしっ!?』
「どうした、声裏返ってるぞ。大丈夫か?」
『な、なんでもないから! 平気!』
遠くの方で「ほんとにかかってきたぁ!」「これが運命ってやつだったりして~」とJK二人の声が微かに聞こえる。
内容から察するに、ちょうど俺のことを話題に出していたのだろうか。
『そ、それでどうしたの?』
「猫飼ってるって本当か?」
『え? あ、うん。そういえば言ってなかったっけ。可愛いんだよ、チャチャって言うの』
「とりあえず……」
雰囲気的にスピーカーにして喋ってるぽいんだよな。
「今日はこの後暇か?」
『暇……というか』『暇っていいなよ!』『遊びになんていつでもいけるよね~』
何やら話し合っている声が聞こえる。
どうやら三人で遊びに行く予定があったらしい。
「別に後日でもいいんだけど……」
『ううん、大丈夫! 暇になったから!』
暇になったて。
「秘密の話がある。後で迎えに行くから、その時に話そう」
きゃー! という悲鳴なのか歓声なのかよくわからない声と、ずるーい! という何がずるいのかよくわからない声が聞こえてきたが『わわわ、わかった!』とティナのテンパった声を最後に電話が切られた。
やけにテンションが高かったな。
別に通話くらいたまにしてるだろうに。
ティナが俺に好意……というか憧れのような感情を向けているのはもちろん気付いている……が、普段は普通に喋っているんだよな。
なので最後のテンパりようは不思議だ。
……ああ、俺今なんだかんだで有名人だから、他の二人が興奮していたのだろうか。
それで釣られてティナも興奮していたと。
俺も未菜さんや柳枝さんを初めて見た時は普通にテンションあがったからなあ。
あまり表に出さないようにはしていたが。
「君って男は罪づくりだねえ、悠真クン」
「えっ」
「やっぱあたしが連絡すべきだったかしら」
「えっ」
天鳥さんとスノウが呆れたような目で俺を見ていた。
な、何故だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます