第257話:よわっちいくせに
1.
司会進行は元芸人の人……らしい。
俺はもう芸人時代の彼を知らないが、情報番組なんかで司会をしているのはちょくちょく見かけるような人だ。
ゲストは俺、新進気鋭の探索者こと
それにプラスでテレビでよく見る芸人や芸能人が4名程、彼らはこの番組のレギュラーだ。
スタジオ入りして、金のかかってそうなセットのところで軽いリハを受けていると綾乃に抱きかかえられたフゥがこちらをキラキラした目で見ているのに気付いた。
どうやらテレビに出るのだということに対して実感が湧いてきたらしい。
綾乃にも結構懐いているので無理を言ってこちらに乱入してくるようなことはないだろうが、万が一があったらシトリーかウェンディあたりを転移召喚して大人しくしてもらうしかないな。
「これが<強化外装>っすか! スタイリッシュな感じでかっこいいっすね!!」
樫村さんのテンションが上がっている。
リハの最中、最近ようやく開発されたという強化外装なるものを見せてもらった。
見た目は全身を覆うアーマープレートみたいな感じ、とでも言うべきか。
ダンジョンの中で手に入る金属(ドロップ品ではない)を利用した特殊な設計になっているらしく、強度的にはダンジョン管理局で汎用的に利用されているプロテクターをも上回るそうだ。
更にこの強化外装、もちろんそれだけではない。
なんと身にまとうだけで上位の探索者のようなパワーが出せるようになるらしい。
ダンジョン研究家、宮野英二がこれを開発した研究施設に全面協力、金と時間を惜しみなく投資して作り上げた至高の逸品なのだとか。
上位の探索者の身体能力に色んな人が追いつけるかもしれない、なんてものを開発した時に魔法を使える可能性が出てきたら、そりゃその広めた張本人である俺たちのアンチになってもおかしくない……ということだろうか。
……これ、コンセプトさえ天鳥さんに伝えたら似たようなものを作れたりしないだろうか。
ちょっと今度相談してみるか。
アメリカで手に入れたドロップ品の金属や、ベヒモスの飛び散った外殻なんかも利用すればめちゃくちゃ高性能なものができるかもしれない。
大陸を救った見返りとして魔導兵器の仕組みも教えてもらっていたし、魔法なんかも使えるようになったりして……と流石にそこまでいったら宮野さんが少し可哀想な気もするが。
まあでも異世界で危険な目に遭っている俺たちが技術面で一番美味しい思いをするのは別にいいだろう。
まずはこの強化外装とやらがどれほど強いか、だな。
台本にはまず樫村さんが挑み、その後俺が挑むという形になっている。
勝ち負けはどちらでも良いらしく、そのどちらのパターンの台本も用意してあるが……
今は流石にないようだが、盗聴器を仕掛けるようなカツラ頭が本番でも何かを仕掛けてこないとは限らない。
とは言え、俺に危害を加えられるだけの技術力だとも思えないが……
正直、防御だけに徹するのなら快速特急の電車と正面衝突しても無傷でいられるくらいの自信はある。
いや、実際にやりたいとは思わないけど。
まあ、モンスター相手ともなると防御だけに徹するわけにもいかないのでそう簡単にはいかないのだが。
一応、先の件は既に知佳には報告してある。
しばらくしてとある指示と共にこちらで処理しておく、という返事が返ってきたので、まあ何をどう処理するのかは細かく聞かずによろしく、とだけ送っておいた。
で、リハも終わり結構ぬるっとした感じでそのまま本番が始まった。
進行していく中、ちょこちょこアドリブが混じりつつ芸人からいじられたりいじり返したりしていると、台本にあった質問タイムのようなタイミングに差し掛かった。
一般人代表として芸人や芸能人からの質問がいくつか。
そして探索者やダンジョン関係者としての目線代表として、宮野さんからの質問がいくつか。
それぞれに俺と樫村さんが答える。
と言った具合である。
既に質問内容と答えはフリップになっているので、それに沿った回答をするだけだ。
「ずばり、探索者になろうと思ったきっかけってなんです?」
芸人からの質問に、まず樫村さんが答える。
「はっきり言ってお金の為っす! たくさん稼ぎたいっすからね!」
健康的に少し焼けている彼女がいい笑顔でそう言い切ると、誰もそれに対してマイナスのイメージは抱かないだろう。
「お金を稼いで何するんですか?」
「うーん、特に決めてないっすねー。資産うんよーとかしようかなって思ってるっすけど!」
「資産運用! 志穂里ちゃんからそんな言葉聞くとは思いませんでしたわ!」
なんてやり取りをした後、今度は質問が俺の方に向いた。
「皆城さんはどうなんでしょ?」
「俺はもう柳枝さんとか、INVISIBLE……伊敷未菜さんに憧れてって感じですね。あの二人を見てるとやっぱり強い=かっこいいってイメージがあります」
「柳枝さんと言えば、最近出来たパートナーの皆城和真さんは……」
「僕の父です。テレビではかっこつけてますけど、家では足の臭いただのオヤジですよ」
「えええーっ!? それこんなところで言っていいんですか!?」
「まあ、隠す理由もないですしね。父も若々しく見えてますけどあれでもう40超えてるんですよ」
と、まあ驚きのリアクションまで台本通りなのだが。
流石は芸能人、知っていることでも新鮮な反応をしてくれる。
樫村さんが若干わざとらしい感じで目を見開いて口元を抑えているのがちょっと笑えるが。
「探索者になって一番苦労したことはなんでしょ?」
これもまた樫村さんが先に答える。
「やっぱり慣れてくるまではモンスターとの戦いが一番大変だったすね! ゴブリンとかも群れると初心者には結構辛いんで、1層へお試し気分で行く時も複数人で行くのをおすすめするっす!」
「志穂里ちゃんはもうゴブリンくらいなら楽勝?」
「そうっすねー。無双ゲーみたいにばったばったやれると思うっす!」
まあ、樫村さんから感じる魔力量ならばそれは事実だろう。
彼女の戦闘スタイルは俺の覚えている限りでは空手主体だ。
俺のようななんちゃって素手バトルじゃなく、ちゃんとした武術としての空手である。
新宿ダンジョンに出てくるような赤鬼相手でも恐らく戦えるのではないだろうか。
「皆城さんは……苦労なんてないんじゃないです?」
「いやいや、そんな。やっぱりモンスターとの戦闘って本能的な恐怖を感じる部分がありますからね。師匠……というか、探索者になりたての時は色々教えてくれる人とずっと一緒に潜ってたんですけど、その人もかなりのスパルタだったんで……」
どこの四姉妹の末っ子なのかとまでは言わないが。
新宿ダンジョンのボスとタイマンさせられた件は未だに覚えているからな。
「皆城さんの師匠! そんな人がいるんですか! ちなみに誰なんです? やっぱり親父さんですか?」
「父ではないです。まあ、秘密ってやつですね」
流石にこれを言うわけにはいかない。
もちろんこれも台本通りだ。
「――案外、その胡散臭い師匠って人に魔法なんて胡散臭いものを仕込まれたんじゃないんですか」
宮野が低い声でぼそっと言った。
ピンマイクがあるのでその声でも拾ってしまう。
スタジオの空気が一瞬凍りつく。
今日のメインは<強化外装>と、世界トップの探索者こと俺、そして今注目されている探索者の樫村さんとの手合わせなのだ。
当然、魔法絡みのことはテレビ局側も把握しているので魔法関連の話題はNGとなっていた。
もちろん台本にもない流れである。
芸人さんがなにかフォローしてくれようと口を開いたのを察知しつつ、俺が先にそれに答えた。
「ええ、確かに魔法は教わりましたが――胡散臭い魔法なんてものは知りませんね。管理局含め、各国がその存在を認めているのにまだ認められないようですがそれでも研究者ですか?」
「なっ……君、年長者に向かって失礼だとは思わないのか!!」
バンッ、と宮野さんが目の前のセットを叩いて立ち上がった。
スタッフが慌てだし、ここらで一旦リセットが入るかな――
――と。
思っていたところに、先程までメインで俺と樫村さんへ質問していた芸人さんが宮野さんを向いてへらへらしながら、
「いやあ宮野さん、皆城さんのこと嫌いなのは僕らも知ってますけどね。よく知りもしない彼の師匠さんのことまで貶すようなこと言うのは品性を疑いますわ」
と言い放った。
そして更にスタジオの空気が凍りつく。
「い、一旦ストップ、一旦ストップねー!」
ディレクターさんの待ったがかかり、こうして撮影が一度止まることになったのだった。
2.
舞台裏。
それぞれのマネージャーと今後の打ち合わせをしたり、ディレクターが宮野さんの機嫌を取りにいったりと大変な中、怒り心頭と言った様子の綾乃が言う。
「悠真くん、あの人許せないですよ! 胡散臭いだなんて!」
「まあまあ。風魔法でカツラでもふっとばしてやろうかと思ったけど、芸人さんがズバッと言ってくれたしいいんじゃないか? にしても、知佳の指示通り煽られた時は煽り返せを実践したわけだけど……これで良かったんだろうか」
「あ、ソレに関しては大丈夫だと思います」
どうやら知佳から俺より更に詳しい指示を与えられている様子の綾乃が太鼓判を押してくれた。
「あのおじさん、よわっちいのにゆーまおにーちゃんよりつよそうにしてるのなんでなの?」
「この世界じゃ強かろうが弱かろうが立場ってものがあるからな。まあ、あのおっさんに関しては色々勘違いしてる部分もあるんだろうけど」
「そうだよ、フゥちゃん。知佳ちゃんは悠真くんやフゥちゃんより弱いけど、知佳ちゃんの方が偉いでしょう?」
「……! なるほどなの!」
フゥが真理を見た、みたいな反応で鼻息荒く頷いた。
……まあ、わかりやすい例えではあるか。
一応俺が社長なんだけどね?
「でもあのおじさんはきらいなの」
「俺もあのおっさんは好きじゃないな。まあ、どうせ知佳と綾乃に痛い目に遭わされることは確定してるんだし、この番組内でくらい好きにさせてやろうぜ」
「あのー、ちょっといいですか?」
「あ……先程はどうも」
ついさっき、俺が言う前に強い言葉で宮野さんを非難した芸人さんに話しかけられた。
歳は30歳くらい……だっただろうか。
「いやー、すんません。実は僕、皆城さんの大ファンなんですよ。昔探索者になるかお笑い芸人になるかで悩んでた時期がありましてね。臆病ものなんで痛い思いをしない芸人を選んだんですけど、その若さで世界一になるなんてほんま、凄いなと思ってまして」
「芸人の世界も大変なことには変わりないでしょう?」
「いやーほんとその通り! 色々あってこうしてテレビに出られるようになって――とまあ、それはどうでもいいですね。すんません、皆城さんも色々思ったところがあったでしょうに、僕の方がカッとなってしまって」
「いえいえ、嬉しかったです。ありがとうございます。これからもぜひ仲良くしてください」
「ええもう、こちらこそ! 今度飯でも食いながら色々探索者の話聞かせてください!」
「芸能界の話なんかも、色々聞かせてもらえると嬉しいです」
そう言って握手を交わし、連絡先を交換した後芸人さんは笑顔でそのまま離れていった。
一連の流れをぽかんとしながら見ていた綾乃は、ぽつりと呟く。
「……悠真くんって年上の男性と仲良くなるの上手いですよね」
「誤解を招くような事を言うのはやめるんだ」
あと、宮野さんも年上ではあるが仲良くなれる気はしないな。
残念ながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます