第256話:テレビに出るの!
1.
ベヒモスを討伐して、二週間ほどが経った。
この間何をしていたかと言うと、守った大陸の各国から褒美を受け取ったりパーティに参加したりとほとんど身動きが取れなかったのだ。
ちなみにあの後倒れてしまったのは重度の知恵熱……のようなものらしい。
ほとんど未来予測の域に達している知佳からの大量の情報に脳が耐えきれなかったのだ。
まあエリクシードで3時間もあれば治ったのだが。
褒美の話に戻ると、大陸一の規模を誇る防壁国家セーナルからの褒美は途轍もない量だった。
まずは大量の金だ。
俺はあまりこの世界の物価について詳しくないが、シエルが言うには人間が物価の高い国で一生を10回繰り返して遊び倒しても使い切れない程の量らしい。
転移装置の仕組みを知りたいと伝えるとすぐに設計書を持ってきてくれたり、土地まで貰ってしまった。
土地というか、もはやあの規模になると領地だな。
こちらに移住する予定はない、と言いたいところだったが、あれはセーナルでのパーティの最中のことだった。
この国の貴族なのかなんなのか、お偉いさんの娘さん方と思われる女性陣に迫られまくる俺に見事死亡フラグを生き残ったセーナル国防海軍大将のパスタさん……じゃなくてアルデンテさんが近寄ってきて、
「ミナシロ殿! ご活躍、お聞きしたぞ!! 貴殿らはこの国の――否、この大陸の英雄だ!」
と満面の笑みで握手を求められた。
強面スキンヘッドのでかいおっさんが近寄ってくれば、そりゃ娘さん方は蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
そろそろ抜け出さないとフレアあたりがとんでもないことをしでかしそうなので助かった……なんて思っていたら、
「時にミナシロ殿、土地を貰ったそうで。この国に永住する気はないのか?」
「ど、どうでしょう。今のとこは考えてないですけど……」
「ふむ、それは残念だ。この国は重婚が認められているので、ミナシロ殿にとっては住みよい土地になると思ったのだが」
「そうなんですか?」
「うむ」
回想終わり。
……色々な問題が解決したらセーナルに永住するのもありかもしれない。
ベヒモスみたいな超イレギュラーがない限りは安全が保証されているようなものだし。
あれだけの広い土地だ。
なにかしらの有効活用はしないと勿体ない……と思いつつも何もできないのが現状だ。
ちなみに本来ならば税金を払う必要があるそうだが、少なくとも向こう100年はそれも払わなくていいと言われた。
とんでもないVIP待遇である。
もう実質貴族みたいなもんだな。
貴族。
凄い響きだ。
とうとう俺は平民を脱出してしまったのだ。
さておき。
今俺が何をしているかと言うと、綾乃とフゥと共にテレビ局へ来ていた。
以前から話に出ていたテレビ出演。
その撮影が今日なのだ。
俺の秘書兼アシスタント兼マネージャーという立場になる綾乃はともかく、フゥはどうしてもついてきたいと言い出したのでとりあえず連れてきた感じである。
ディレクターや撮影スタッフたちとの軽い挨拶が済んだ後、事前に共有されていた質問内容とそれの返答を踏まえた台本などを渡される。
そして楽屋と思われる部屋へ通された。
「ここでさつえーするの?」
「違うよフゥちゃん、ここは順番を待つ場所なんだよ?」
「でもこういうおへやテレビでみたことあるの。どっきりだーせーこーってやってたの」
「そういう番組もあるけど、今は違うからね」
フゥと綾乃が話している中、さりげなく俺は雷魔法の応用で部屋内に電子機器がないかを探ってみた。
シトリーに今後便利だから覚えておいた方がいい、と伝授された魔法だ。
うん、隠しカメラとか盗聴器なんかはなさそうだな。
まあ、ドッキリって言っても基本は台本ありきだろうし本当の隠し撮りなんてそうそうないだろう。
「にしても、びっくりするくらい誰もフゥに触れなかったな」
俺くらいの年齢の人間がプラチナブロンドの髪を持つ幼女を連れてたら普通もうちょっと不思議に思うのではないだろうか。
ちなみに目立ちすぎる角は出かけ際にレイさんがかけてくれた魔法で隠している。
「うーん……探索者って結構変な人たくさんいますから、気を遣ったのかもしれません。実は悠真くん、ネットでは物凄く気難しい人なんじゃないかって思われてるんですよ?」
「え、なんで?」
「動画内では基本的に喋ってるところは映ってないですからねえ。戦ってるシーンばっかりだし、SNSとかでもあまり呟かないですし……」
「あー、ここ最近忙しかったし、そもそも俺のSNSなんて見ても何も面白くないだろ?」
――と。
楽屋の扉がコンコンとノックされた。
返事をすると、入ってきたのは……
「どうもこんにちは。ダンジョン研究家の宮野と言います。本日はよろしくお願いします」
初老の男性がそう言って手を差し伸べてきた。
ダンジョン研究家、宮野
最近テレビでよく見るようになった専門家という扱いの……まあコメンテーターみたいなものだ。
ちなみにこの人、俺や妖精迷宮事務所のアンチらしい。
出演者の名前を知佳に伝えた時に教えてもらったので間違いない。
普通にSNSで魔法はインチキだとか、それを率先して広めている皆城悠真はペテン師だとか言いまくっている人物なのだとか。
まあ、この世界で魔法を使えるのはまだほんの一握りな上に、ダンジョン外で使うのは禁じられているのでまだ一般人は魔法を俺の動画やスノウたちの動画でしか見たことがない。
それを映像のトリックだと断じたくなる気持ちはわからないでもない。
この人の場合は、新しいものを受け入れられないだけだと知佳は断じていたが。
もし何かあったらあのカツラを剥ぎ取ってやれと言われたが、この人カツラなのか。
近くで見ても自然だな。
お高いカツラなのだろう。
それから――
「こんにちは。探索者の皆城です。今日はお互い本音を曝け出して語り合いましょう」
握手に応じながら、トントン、と俺は自分の左胸を逆の手の指で叩いた。
宮野さんはハッとしたような表情を浮かべ、慌ててそこを――スーツの胸ポケットを抑える。
そこには盗聴器がある。
別に見えたわけではないが、魔法で探知できたのだ。
なんのネタを掴もうとしていたのか知らないが……挑発でもして俺を怒らせるつもりだったのだろうか。
どうしようかなこれ、テレビ局に垂れ込んだ方がいいのかな。
後で綾乃に相談してみるか。
しかしあちらも伊達に長生きしているわけではない。
シエルに比べれば味噌っかすみたいなものではあるが、長年酸いも甘いも噛み分けてきた人物ではある。
一瞬だけ見せた焦りの表情はすぐに引っ込められ、笑顔で「ええ、よろしくお願いします」と言ってそそくさと部屋を後にしていった。
「今の人って、知佳ちゃんの言ってた私たちのアンチ……って人ですよね?」
「ああ、盗聴器を胸に仕込んでたぞ」
「と、盗聴器ですか!?」
「間違いない。シトリーに言われた通り、電子機器を探知する魔法を覚えておいて良かったな」
なかったら何をされていたかわからない。
「とーちょーき?」
「ええと……こっそりお話を聞く悪いもの……かな?」
フゥの疑問に綾乃が答える。
「じゃあ、このまえゆうまおにーちゃんのおへやでゆうまおにーちゃんとあやのおねーちゃんがあそんでたとき、おへやのまえでおはなしを聞いてたらいらねーねはとーちょーきなの?」
「……き、気づかなかったぞ……」
流石はダークエルフ――狩猟民族。
俺が気づけないレベルで気配を消すのもお手の物ということか。
魔力を完全に消すならば逆にその不自然さに気づけるのだが、そうならなかったということはもっと自然に擬態する方法があるということだろう。
ウェンディやシトリーはどうかわからないが、それはスノウやフレアにもできない芸当だ。
にしても興味があるのなら部屋に入ってくればいいのに。
その日のうちに帰れるかは保証しないけどな。へっへっへ。
「あしがかゆそうにしてたの」
「……フゥ、それは他の人には言わないようにな?」
「? わかったの」
フゥが素直な子で良かった。
そうでなかったらライラが恥ずかしさのあまり俺を殺しにきかねない。
でも今度からは扉の外の気配に少し敏感になろう。
ちなみにフゥは普段、その日俺の部屋にいない誰かの部屋で寝ている。
頻度的に多いのはアンジェさんたちの部屋だが、まあそれはまた別の話として。
「で、どうすべきだと思う? あのカツラのおっさん。今日の共演者だぞ。この台本にある――」
パラパラとめくって指をさす。
「先月ようやく完成したって言う、《強化外装》着用者との模擬戦闘なんてのも何やらされるかわかったもんじゃない」
「テレビ局の面子もありますし、そう無茶はしてこないと思いますけど……油断はしない方がいいかもしれませんね」
一応知佳にも報告しておくか。
スマホをぽちぽちいじっていると、再び扉がノックされた。
今度は一般人レベルではない魔力を扉の外から感じる。
返事をすると、入ってきたのは茶髪でポニーテールの、可愛らしい服を着た元気な感じの印象を受ける女性だった。
確か、新進気鋭の探索者――
「
ババッと頭を勢いよく下げられた。
20歳だか21歳で、俺とそう年齢は変わらない。
高校を出てすぐに探索者になり、2、3年で新宿ダンジョンで言えば6層の攻略もできるレベルに達した凄い人だ。
実力面で言えば親父や柳枝さんよりやや劣るくらいだろうか。
元気な感じとその整ったビジュアルのお陰で全年齢層に受けている人気者だ。
「皆城悠真です。よろしくお願いします」
当然、この子は盗聴器なんて仕掛けていない。
悪い噂も聞かないし(知佳チェック済み)裏表のない良い子なのだろう。
「動画全部見てます! あれって実写なんですよね!? 尊敬するっす!」
「い、いやあ……」
ぎゅっと手を握られてキラキラとした目で見つめられる。
近くで見ると超可愛いなこの子。
そんなことを考えていると、背中側に抓られたような――というか抓られたことによる痛みが走った。
「あまりデレデレしてると、知佳ちゃんやフレアちゃんに言いつけちゃいますからね」
俺の耳にだけ届くような音量で綾乃がささやく。
す、すみません。
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