第254話:イルミネーション
1.
たったの一時間で雷魔法を使えるようにする。
そんなことは本来できっこない。
だがシトリー程の雷魔法の使い手と、その人物と完璧に息を合わせられる人間が複数いれば可能――かもしれないらしい。
工程は単純明快だ。
シトリーがまず致死量ギリギリの電流を俺に流す。
そしてシトリーと完璧に息を合わせられる人間――スノウ、フレア、ウェンディの三人が並行して俺に治癒魔法を施す。
そして俺はギリギリ死なないその状況でひたすら耐え抜く。
概要だけ聞くととんでもない話だ。
しかしシトリーがあくまでも軽い様子だったのは、シトリーの完璧な魔力コントロールによって肉体的な痛みはほとんど感じることはないらしいし、それだけ治癒魔法をかけ続ける役目のスノウたちを信頼しているということの現れだ。
なら俺がそれを信じないわけにはいかないだろう。
ガーゴイルたちの処理について軍の人たちに話しに行った知佳とスノウが帰ってきてから、天鳥さんが
シトリーの雷の前では、科学的に見れば正直あってもなくても同じようなものらしいが、これはイメージが大事な魔法である。
体内に巡る雷が逃げないようにするという意識の方が大事らしいので、そういう形になった。
俺はそのマットの上にあぐらをかいて座る。
シトリーが正面に座り、スノウたちは少し離れて俺の後ろに待機する。
「流石のあんたでもちょっとは緊張するんじゃない? あたしたちの誰かがしくじったら最悪死んじゃうかもしれないんだから」
スノウがからかうように言ってくる。
「そんな軽口を叩くくらい余裕があるんだろ? お前らが失敗することなんて考えてねえよ。問題はこれを経た時に俺が魔法を使えるようになってるかどうか、だ」
そう言って俺は目を閉じる。
そして深呼吸。
ああは言ったがやっぱちょっと緊張はするものだ。
「さあシトリー、ひと思いにやってくれ!」
「もうやってるよ?」
「へ?」
俺が目を開くと、確かに目の前がなんか青白いバチバチしたものに包まれていた。
同時に後ろの三人が治癒魔法を使っているので俺にダメージは全くないし、痛みもないが――
言われてみれば、髪の毛を静電気で擦った時のような独特な帯電感(?)のようなものは感じるような気がする。
「このままイルミネーションとかにできそう」
傍から眺めていた知佳がぼそっと呟いた。
「一家に一台光る悠真クンか……」
天鳥さんも乗っかって真剣な顔のままボケる。
「仮に今の俺がイルミネーションになったとしても増えはしないし、一台じゃなくて一人だし、そもそも自分で光ってるわけじゃないからな?」
「最近有名になってるし、グッズ化したら意外と人気出るかも」
「そんなのが売れたら世も末だぞマジで」
「お兄さまのグッズが出るのでしたら、ぜひ試作品はフレアにください!」
「出ねえよ!?」
後ろで治癒魔法に専念しているはずのフレアが反応した。
いやまあ、この四人の息が多少喋ったりする程度で乱れるわけもないというのは理解しているのだが、こう平然と会話に参加してくるとは。
「本体はどうでもいいけど、あんたの持ってる剣なんかはデザインがかっこいいから似たようなの出したら人気出るかもしれないわね」
「剣が着脱可能の人形を作って売り出した結果、剣を持っていない悠真の人形だけが古物屋に売られてたらちょっとウケるんじゃがな」
シエルまで乗っかってきた。
しかも一番ひどいことを考えていやがる。
俺が動けないからといって、なんでも言っていい時間なのだと勘違いしてやいないだろうかこいつら。
「というわけで作ってみた」
天鳥さんが掌に乗るサイズの人形をこちらに見せてきた。
多少デフォルメされてはいるが、間違いなく剣を構えている俺である。
「いでっ!」
「ああっ、すみませんお兄さま!」
一瞬だけ皮膚に痛みが走った。
フレアが即座に謝ったところを見るに、シトリーのミスではなくフレアの治癒魔法が一瞬遅れたのだろう。
「フレア、いくらマスターのフィギュアが欲しいからと言って心を乱してはいけません」
「は、はい……すみません、ウェンディお姉さま」
「後で天鳥さんにもう何個か作っていただきましょう」
もう俺は突っ込まないからな。
2.
なんやかんやあって1時間後。
散々からかってくれた知佳、天鳥さん、シエルは後で絶対おしおきしてやるとして、荒療治は済んだ。
「どう? 悠真ちゃん、雷魔法使えそう?」
不安そうに俺の顔を覗き込んでくるシトリー。
俺はしばらく自分の手を閉じたり開いたりして感覚を確かめる。
そして掌に小さな雷の玉を作り出した。すぐにそれは霧散して消えてしまったが――
「……うん。なんとかなりそうだ」
常に体の中に大量の電気が存在していただけあって、明らかに先程までよりもやりやすい。
後はこの雷に、貫通や破壊のイメージを乗せるだけだ。
「本当なら、こういうやり方じゃなくてちゃんと覚えた方が後々良かったりもするんだけど――」
「ま、その辺りのケアも悪いけど頼むよ。今回は姑息療法を取るしかなかったし、しゃーないって」
――と。
テントの外側がなにやら騒がしい。
慌てて外へ出てみると、海の方角。
ベヒモスのいる方から、無数の鳥型の魔物――ガーゴイルが飛んできているのが見えた。
なるほど、石像みたいな見た目のまま飛んでくるんじゃなくて、動く時は石じゃなくなるんだな。
騒がしかったのは飛んできたガーゴイルたちに向かって、軍の人たちが動き出したからだ。
一番近くにあるのは大砲のようなものだ。
見た目は地球にある兵器とさほど変わらないだろう。
しかし、その原理はまったくと言っていいほど異なっている。
動力源は魔石だ。
そして打ち出すのは特殊な技術によって再現された魔法。
ダンジョンに重火器が持ち込まれることがあまりないのにはちゃんと理由がある。
一つは物資の補充が難しいこと。
ダンジョンの入り口は基本的にあまり広いとは言えない。
それにダンジョンによっては、通路自体が狭いこともある。
そしてもう一つは、そもそも通常の兵器は効果が薄いということ。
ローラの使うとんでもない威力の拳銃も、特殊なカスタマイズを施された弾丸を普通の人間が撃てば骨が砕けるような威力で的確に弱点へ飛ばすことによってモンスターの硬い皮膚や甲殻を貫いているのだ。
その技術を重火器に採用しようと思えば材料費や人件費といったコストが嵩む。
それにやはり鈍重な重火器では大量のモンスターの対処が難しい。
そのために探索者を雇って兵器を守らせるくらいならそのままその探索者にやらせた方が速い。
他にも色々あるが、大抵はこの2つが問題視されることが多い。
つまりはちゃんとした兵器をちゃんと運用できるのなら、モンスターや魔物にも通用するのだ。
ただ、それもある程度のレベルにまで達すると話は変わってくるのだが。
シンプルな話、基本的に深層へ潜れる探索者は銃より強いのだ。
サブマシンガンを持ち込んでぶっ放すより、殴った方がコストもかからないし強い。
専用弾を用いれば流石にそれでも威力は高いが、やはり弾代はかかる。
なので強い人が使うのは基本的にローラのような一発で仕留められる上に小回りの効く拳銃型の武器になってくるというわけである。
と、話が脱線してしまった。
要するにこの場合何が言いたいかと言うと、魔法を使うことによって抑えられている馬鹿高いコスト問題や、ダンジョン内では難しい物資の補給問題が解消されるこの広い戦場ではちゃんと兵器も強いのだ。
「――撃てェ――!!」
放たれた赤色に輝く魔弾によく似た物質(?)が遠くを飛んでいたガーゴイルに直撃し、爆裂した。
その爆風で周りにいたガーゴイルも何匹か巻き込まれる。
そしてそれを皮切りに、至るところから似たような弾が飛んでいってガーゴイルを次々と撃ち落としていく。
「……凄えな、この世界の魔導兵器ってのは」
もしこの技術がこちらの世界に持ち込まれたら、魔石からエネルギーを取り出せることがわかった時と同等クラスの革命が起きることになるかもしれない。
「これだけの技術力をもってしてもベヒモスには歯が立たん。じゃから本当に重要なのはおぬしじゃぞ、悠真」
「わかってるよ」
ガーゴイルたちがあらかた撃ち落とされた後は俺の出番だ。
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