第248話:大陸

1.



 さて、フゥを<龍の巣>へ連れていったことで(多分)宝玉が手に入り、謎の指揮棒タクトと真意層への階段が開かれたわけだが。


 なんでも願いを叶える宝玉とやらの使い方がわからない。

 地面に置いて「いでよ○龍!」してももちろんダメだ。


 どうやらギャルのパンティは手に入らないらしい。


 というわけでとりあえず今は天鳥さんの研究所に預けてある。

 とは言え、叶えてほしい願いもまだ絞りきれていない……というか、「その願いは私の力を超えている」されそうなものばかりなので悩ましいところなのだが。


 指揮棒もよくわからないのでとりあえず天鳥さんに預けてある。

 別に急ぎの用事というわけでもないので、スケジュールは彼女に任せているが。


 間違ってもフゥに飴ちゃんをあげるのが仕事ではないのだ。


 で――



「……ベリアルの奴が出てくるかと思ったけど、そんなこともなかったな」

 

 防壁国家セーナル。

 魔道具という特殊な道具で国全体を覆う超巨大な結界を貼っていて、あらゆる外敵を弾くとんでもない国だ。

 その影響で他国などからの難民も多く、結果的に多種多様な種族の人々が生活している。

 アメリカに行った時も多種多様な人種がいるのに驚いたが、そういう意味ではセーナルはその比ではない。


 なにせ獣耳が生えていたり、鱗があったりする人がいるのだから。


 そんな国に落ちてきた、黒い塔――俺たちの付けた名は、<滅びの塔>。


 <滅びの塔>の周りで採れる魔石を1年分補填すること、<龍の巣>を攻略すること、そしてシエルが世界会議とやらに参加すること、更に10年に一度セーナルを訪れること。


 これらを条件として破壊を許可してもらったのだが、破壊する際にセイランの部下、ベリアルという喪服の男の妨害があるかと思って、四姉妹全員とシエル、そして俺というほぼ最大の戦力で破壊しにきたわけだが……


「……何かしてきてもうざいけど、何もないならないで色々勘ぐることになるから鬱陶しいわね」

「だな」


 まさかこの世界のことを諦めた……というわけではないだろう。

 これでルルの実家近くにあったもの、ハイロンにあったもの、セーナルのものとで3つ破壊したことになるわけだが……


 残り4つ。

 うち一つは、今のところこの世界で最も影響力のあるシエルとあまり仲のよろしくないダークエルフの領地に落ちているらしい。


 なのでこれは後回しにされるとして、他の主要国家に落ちているという3つをどう攻めるかだな。


「何か考えはあるのか?」

「……あと残っている国は『雨の国ラントバウ』、『技術大国メカニカ』、『セフゾナズ帝国』じゃな。この中でわしと交流があるのはラントバウと帝国じゃ」

「メカニカってところは?」

「100年くらい前……割と最近できた国じゃからな。わしとはなんも関わりを持っておらん」


 またエルフの時間間隔……と思ったが、こちらの世界でも国単位で見れば100年の歴史は浅い方か。

 技術大国メカニカねえ。

 いかにも天鳥さんや知佳が好きそうな国だ。


 フレアがシエルへ確認するように訊ねる。


「雨の国とはずっと雨が降っているということなのでしょうか?」

「そうじゃな。元々は豊穣の国と言われておったんじゃが、確か500年くらい前から雨が止まなくなっておる」

「……500年も雨が降り続けることなんてあるのか?」

「普通ならありえんが……なんらかの魔法の効果じゃろうな。何故雨が降り続けているのかは、王族しか知らないと言われておる」


 へえ、魔法なのか。

 主要国家とシエルが言うくらいだから、雨が降り続けていても栄えてる国ではあるのだろう。

 そういう意味じゃ100年でその中に入ってくるメカニカも凄い。


 帝国はかなり長いこと世界一の大国らしいが。


「ま、この中なら雨の国、ラントバウからじゃな。帝国には貸しがあるが、大国である上に魔石への依存度が高く、崩すのはそう簡単ではないからのう。メカニカに関しては香苗の手が空いてからの方が良いじゃろうし。共通の話題を持っているだけで相手の懐に潜り込みやすくなるからのう」


 香苗というのは天鳥さんの下の名前だ。

 彼女が好きそうな国、というのもあるが、要するに天鳥さんの知識でメカニカの人らと話が合うようなことがあれば手っ取り早い、ということだろう。


 伝手がないのならそういうところから攻めるしかないからな。


 今の所、天鳥さんはかなり忙しい。

 あれこれ持ち込んだ素材や宝玉の件もあるし、なによりエリクシード周りがかなりの時間泥棒なようだ。


 早ければあと数ヶ月で世間に発表できるとは言っていたが……


「雨かあ。お姉ちゃん、雨って結構好きなのよね」

「そうなのか?」

「うん。だって、雷と雨は付き物でしょう?」

「あー、そういう……」


 確かに言われてみれば雷が鳴ると雨が降るイメージがあるし、逆に大雨となれば雷も伴うようなイメージもある。


 雨も滴るいい女。

 濡れているシトリーは色々捗りそうだ。


「……?」


 不意に、ウェンディがどこか遠くを見るように視線を移した。


「どうした?」

「……いえ。風が……」

「……風?」

「一瞬ですが、不自然な動きをしたのです。まるで遥か彼方、動いたような……」


 そこら辺の奴が風がどうこう言い始めたら厨二を拗らせたかな、と思うだけだが……

 ウェンディが言うとなんか怖いな。


 そんなことを考えながらも、俺とシエルはセーナルのお偉いさんに事が終わったと報告しに向かうのだった。



2.



「……慌ただしいのぉ」

「なんかあったんじゃないのか?」


 恐らくこちらの世界で言うホワイトハウスと同じような機能を持っているであろうちょっと豪華めの建物の中。


 スーツのような格好で、如何にも政治家ですと言わんばかりに賢そうな人たちがバタバタと行き交っていた。

 入り口のところは民衆で溢れていたし、何かあったのは間違いないだろう。


「まさかクーデターでも起きたか?」

「流石にそんなわけないとは思うが……おい、そこの」


「へっ? は、はい!」


 多分どこかの政治家の秘書的な人だと思われる茶髪の若いお姉さんにシエルが声をかける。

 自分の主をこのごたごたの中で見失ったのか、おろおろしていたのだ。


「わしはシエル=オーランドじゃ。名前くらいは聞いたことあるじゃろ。今この国に何が起きておる?」

「し、シエル=オーランド……!? で、伝説のエルフ……!!」


 慌てて頭を下げようとするお姉さんを手で制するシエル。


「そういうのは良い。で、何があったんじゃ?」

「わ、私も詳しく聞けたわけではないのですが、<ベヒモス>と呼ばれる化け物が目を覚ましたとか、なんとか……!」


 ……ベヒモス?


「ベヒモス……じゃと? 本当にあのベヒモスなのか?」

「は、はい……魔王のペットと言われている、あのベヒモスです――あっ! すみません、シエル様、失礼します!」


 主を見つけたのか、秘書っぽいお姉さんは走っていってしまった。

 俺も秘書欲しいなあ。

 そして禁断の関係へと……

 まあ綾乃が実質そんな感じなのだが。

 

「で、ベヒモスってのはなんだ? 魔王のペット?」

「……この世界には3つの大陸がある」

「……? おう」


 地理の授業でも始まるのだろうか。

 

「しかし、わしの幼少期――魔王がまだ生きていた時代には、5つの大陸があったんじゃ。つまり、今は無い2つの大陸があったわけじゃが……うち1つは魔大陸と呼ばれていた。魔王の誕生と共に生まれ、討伐と共に滅んだ大陸じゃ」

「魔大陸……」


 そんな単語を聞いたら少年漫画好きとしてはちょっとワクワクしてしまうのだが、今はそんな場合ではないのだろう。


「そして今はないもう1つの大陸には、12の国と、10億を超える人々が住んでいた。じゃが、それがたったの12日で跡形もなく消え去った……と言われておる」

「……大陸が跡形もなく消え去った? そんなわけ……」

「わしも昔のことすぎて記憶は曖昧じゃよ。じゃが、それをやったのがベヒモスと呼ばれる<国喰らい>の化け物だと言われれば、ベヒモスがどんな生物なのか少しはわかるじゃろ」


 つまり、12の国を擁する大陸を12日で滅ぼした化け物。

 そいつが出てきたってことか。


「……そ、それが本当だとして……なんとかなるだろ? 昔はどうかわからないけど、今は成長したお前もいるし、スノウたちもいるんだぞ?」

「だといいんじゃがな……」


 シエルは小さく呟く。

 それだけでも、なんとかなるなんて思っていないことはすぐに察することができた。

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