第247話:せいきのだいはっけん
1.
「君の名前は?」
「フゥなの」
「僕の名前は?」
「あまねーね」
「君の両親の名前は?」
「わかんないの」
「ふむ、飴ちゃんをあげよう」
「わーいなの」
ニコニコしながらロリポップキャンディを舐めるフゥを撫でた後、天鳥さんは真剣な表情でこちらを振り返った。
「悠真クン、世紀の大発見だ」
「な、なんです!?」
「竜魔人はすごくかわいい……!」
「……俺、今初めてあんたのことアホだと思ったかもしれないです」
まさかフレアとシトリーに続き、天鳥さんまでメロメロにしてしまうとは。
竜魔幼女の魅力、恐るべしと言ったところか。
「しかし、エリクシードでも記憶が戻らないんですね」
「エリクシードは自身の願いを反映させ、それが結果的に治癒に繋がるようなものだと僕は考えている。記憶を失っているという状態が認識できていても、正常な状態がわからないのだからこの方法での治療は難しい――ということなんだろうね。現に、エリクシードは重い認知症を治せない」
……なるほど。
癌ですら治すエリクシードにもそういう弱点はあるのか。
「それはそうと……」
天鳥さんはフゥの黒い角に触れる。
「魔王とやらの改造技術は興味深いな。ドラゴン以外の魔物にも適用できる技術なのか、僕のような地球の学者にも再現可能な技術なのか」
「くすぐったいの」
フゥがむずがるように頭を動かす。
「……フゥを研究材料にするとかはやめてくださいよ?」
「僕をなんだと思ってるんだ? 流石にそんなことはしないよ」
――と。
自動扉が開いて、近所のコンビニで食事を買ってきた知佳が入ってくる。
するとフゥが天鳥さんのところから立ち上がって、とてとてと知佳の方へ走っていった。
そしてそのまま足元にしがみつく。
知佳も大概小さいが、フゥはそれ以上に小さい……というかもうほとんど幼女みたいなものだ。
小学校の低学年とか、多分それくらい。
なのでぱっと見はちょっと歳の離れた姉妹に見える。
「はい先輩、レタスのサンドイッチ。悠真はハムカツのサンドイッチ。フゥはこれ」
「……いちごなの!」
「ん」
フルーツサンドイッチを受け取ったフゥがぱぁっと目を輝かせる。
シトリー、フレア、天鳥さん……
他にもスノウやライラなどのツンツン勢ですらフゥの可愛らしさに陥落しているのだが、案外フゥが一番懐いているのは知佳だった。
次点でウェンディかな。
フゥもあまりテンションの高い方ではないので、自分に近いテンションの知佳やウェンディに親近感を覚えているのかもしれない。
そういう意味では天鳥さんにも結構懐いている方だ。
ちなみに、俺に対しては……
「ゆーまおにーちゃん、はい。ひとくちあげる」
「お、さんきゅ」
いちごの部分を避けて一口だけもらう。
という具合に、俺も案外懐かれていた。
というか、昔から子どもには好かれる方なのだ。これでも。
あとはルルにもかなり懐いているが、あれは幼女が猫のことを可愛がるそれとほとんど同一のものではないかと俺は睨んでいる。
あと、親父が引くくらいフゥのことを溺愛している。
完全に娘を可愛がりすぎる駄目な父ちゃんのテンションだ。
この間も大量におもちゃを買い込んできて、母さんとレイさんに叱られていた。
お陰で小さくはないはずの我が家の物置が大量のおもちゃに占領されているのだ。
まだ未菜さんや柳枝さんとは会わせていないのだが、どんな反応をするのだろう。
楽しみだ。
母さんはもちろん、アンジェさんにも子育ての経験はあるし、レイさんもシトリーが幼少期の頃から仕えてるわけだ。
シトリーもスノウやフレアが小さい頃の記憶は残っているだろうから、フゥをうちで引き取って育てるということ自体には何も支障が生じないというのが救いだな。
……ちなみに。
親の記憶を探ってはいるが、シエルいわく、フゥの親が生きている可能性は限りなくゼロに近い――というより、断言はできないだけであってもう死んでいることを前提に動いた方がいいとのことだった。
何故なら、竜魔人は元より、極龍もあの世界では既に絶滅しているらしい。
ダンジョンのボスとして君臨していた経緯の謎に目を瞑ればまず間違いなく竜魔人か極龍かどちらかが親なわけだが、その両方が絶滅している現状、フゥの親も……というわけだ。
「……となると、やっぱり俺たちがこれからも育てるのがベストなんだろうな」
「普通の人間の子ならまだしも、あの猫ちゃん以上の怪力を持つ子どもともなれば全世界を見ても君たちくらいしか安全に育てていくことは無理だろうね」
それに、今は何故か魔力がないが――
魔力が復活すれば、今の俺の全力でもギリギリの戦いになる程だ。
もし力を暴走なんてさせてしまった暁には、スノウたちレベルでしか無傷で取り押さえるなんてことはできないだろう。
「……フゥ、あぶないの?」
「大丈夫。おねーちゃん達とおにーちゃんがいるでしょ」
知佳が不安そうにするフゥの頭を撫でる。
……普段あまり表情を見ないからか、年少者に向かって優しく微笑む知佳を見るとすげえドキッとするんだよな。
これが母性というやつなのだろうか。
見た目は中学生なのだが。
うーむ。
「フゥの記憶を取り戻すのに、他に何か手立てはあるのかい?」
「スノウ、フレア、シエル、俺……で、フゥ。この5人で<龍の巣>の最下層へ行ってみようと思います。何か思い出すことがあるかもしれませんから」
2.
フゥの両親は恐らく既にいない。
ならその記憶は思い出さない方が幸せなのかもしれない。
そういう考え方もあるだろう。
だが、それでもやっぱり覚えていない、よりは覚えている方が良いと思うのだ。
スノウたちを見て、俺はそう考えている。
だが、今回の件が空回りだったらもうしばらくフゥの記憶のことについては触れない。
そう決めている。
「どう? 何か思い出した?」
「……?」
スノウの問いかけに、俺に肩車されているフゥが少しみじろぎした気配を感じた。
「わかんないの」
「ふーん。ま、仕方ないわね。帰りましょっか」
シエルをちらりと見る。
「スノウの言う通り、仕方ないじゃろ。何も進展しないんじゃったら、これ以上ここにいる理由もないしのう」
「……だな。フレア、帰るぞー?」
少し離れたところで屈んで何かをしていたフレアが立ち上がる。
そしてその手には何かを持っていた。
「お兄さま、これを……」
「……なんだこれ?」
30cmくらいの
「そこに落ちていたんです。こちらの棒はよくわかりませんが……こちらの水晶玉は、宝玉なのでは?」
「宝玉って……なんでも願いを叶えるって言う……?」
「はい」
この間ここを探した時はこんなものはなかったと思うのだが……
まあフゥのこともあってバタついていた時だったし、見落としていたという可能性も……なくはないのか?
それとももう一度ここへ来たことがトリガーとなって?
あるいは目を覚ましたフゥがここへ来たことか?
うーむ、わからん。
「……フゥ、これ見覚えあるか?」
「……?」
試しにフゥに手渡してみた。
すると――
「っ……!?」
地面が一瞬、強く揺れた。
そして。
「これ、真意層への……」
「……階段じゃな。フゥがなんらかの鍵となっているのは間違いなさそうじゃのう」
淡く輝く階段。
極龍を倒した時は宝玉も、この指揮棒みたいなものも当然階段も現れなかったというのに。
「――で、どうすんの?」
「どうするもこうするも、一旦戻るしかないだろ……フゥを連れていくわけにもいかないし」
それに、宝玉が出て真意層への階段も出て、というのであればダンジョンを攻略したという証明もできる。
これで当初の目的であった、この国の<滅びの塔>は破壊できるのだ。
しっかし……
俺が上を見ると、フゥは興味深そうに宝玉を手で弄んでいた。
「お前は一体なんなんだろうな、フゥ」
「?」
「いでっ」
俺に話しかけられたフゥの手元から宝玉が落ちて、俺の鼻っ柱に当たった。
痛い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます