第245話:可変型
1.
「……またあんたやったわね」
「違う、違うんだ。俺は悪くない。何もしてない」
突如現れたプラチナブロンドの美女を背負って転移してくると、転移石を置いてある部屋から出てすぐに出くわしたスノウに半目で睨まれた。
「そんな小さい子を連れてくるなんて、通報されても知らないわよあんた」
「……小さい子?」
あれ?
そういえば大きいとは言えない程度の大きさだったとは言え、背中に当たるべきものの感触がほとんどない。
それに加え、レイさんとルルが俺の背中を見て目を丸くしている。
「ユーマ、そいつ、そんなちっちゃかったかニャ?」
「ご、ご主人様……その方、角なんて生えてませんでしたよね……?」
……おいおい、何が起きてるんだ一体。
やたら強いダンジョンのボスを倒したかと思ったら長いプラチナブロンドの美女に化けて、こちらの世界に連れてきたら今度はそれが小さくなってしかも角が生えましたと。
意味がわからん。
何が起きてるんだ一体。
……しかもこの角、見覚えがある。
かなり小さくなって、俺の掌にすっぽり収まる程度にはなっているが……
「……おぬしが変な魔法を使ったんじゃないのか? その有り余る魔力と、有り余る
「なわけあるか!」
最近は少なくなってきた空き部屋のベッドに寝かせた、目を覚まさないロリ竜人(?)の様子を見ていたシエルが冗談混じりにそんなことを言ってきた。
流石にそんなことはないだろう。
綾乃じゃあるまいし、新しい魔法をそんなぽんぽん作れるわけない。
ないよな。
ないよな?
「なーんであんたはちょっと外出する度に面倒事を引っ掛けてくるのよ。なに、そういう星の下に生まれてるわけ?」
「ぐっ……お、俺は悪くないはずなのに……」
スノウが呆れたように言う。
俺は悪くない。
それは間違いないと思うのだが、何も言い返せないのだった。
2.
「……悠真君、何か雰囲気変わったかい?」
「認識阻害の魔法使ってるんです。慣れれば普段通りですけどね」
「ふぅん……?」
未菜さんが不思議そうにじろじろと俺のことを見る。
<龍の巣>ダンジョンの最奥部から謎の見た目可変型角ロリを連れ帰ってから3日ほどが経過していた。
未だ目を覚まさない上に、攻略の証と思われる真意層への階段や願いを叶えてくれる宝玉とやらも出てこないので<龍の巣>を攻略しました、とセーナルの上層部へ報告して良いものかわからず今の所異世界でのあれこれは保留中である。
では現在俺が何をしているかと言うと、これから行われるダンジョン管理局主導の魔法講座会の特別顧問として呼ばれたので、待合室でドキドキしながら待っている最中なのである。
「とりあえず今日人前に出る時はその魔法、使わないようにしてくれよ?」
「それはもちろん。誰だかわからん奴が前に出てきても探索者の人たちが言うことを聞いてくれるとは思えませんからね……」
「今や君を知らない探索者など全世界を探しても一人もいないんじゃないか? というより、探索者に限らず日本の若者なら君のことをほぼ全員が知っているといえるだろうな。2本目の反響もものすごいものだったし」
2本目の動画というのは、だいぶ前に俺が天鳥さんと知佳の前でやった身体能力測定。
そして、レイさんがこっそり撮影していた<龍の巣>のボスとの戦闘がまとめてあるものだ。
NINJAがDRAGONと接戦を繰り広げ、最終的に日本の有名なアニメの必殺技に酷似した魔法を使って倒すという実にエンタメに溢れた動画である。
結果、1本目の時点で注目を集めていたということもあって、えげつないバズり方をしたのが2本目の動画なのである。
もはや東京を認識阻害の魔法無しでは外を歩けない。
スノウたちのように目立つ容姿をしているわけでもないのにこれなのだからとんでもない話だ。
「私も戦いたかったものだな、あのドラゴン。特に人型形態。あれはそそる強さだ」
「いやあ……流石に未菜さんでもあれは死んじゃいますよ」
「はっはっは、なあに、いざとなったら君に守ってもらえばいい。ナンバーワンNINJABOY、皆城悠真くん」
「やめてください……」
未菜さんがSAMURAIガールと呼ばれているのはともかく、俺がNINJAだというのはもはやよくわからない。
誰が言い出したんだか。
よく動ける日本人はNINJAかSAMURAIかのどちらかだと思われているのだろうか。
「そういえば今度テレビに出るというのは本当なのかい?」
「あーまあ、若干不本意ながら……」
しかも他の探索者を呼んで対談する企画らしい。
未菜さんや柳枝さん、親父と言ったトップクラスの探索者ではなく、新宿ダンジョンで言えば3から5層あたりにいる通常の探索者の人たちと、だ。
コンセプトとしてはどうやったら探索者としての高みに登れるのか、とか心構えとかそんな感じのことを広く発信する為だそうだが、魔力が多いと強くなれます、俺の場合はスノウたちとえっちなことをすると魔力が増えます、なんて言えるわけもない。
なんと誤魔化そうか今から考えているところだ。
「不本意なのかい? 君の知名度が上がれば上がるほどこれからのこともスムーズに進むだろうし、良いのではないか?」
「目立つのが得意じゃないんですよ……」
「それを私に言うか?」
「……確かに」
最近でこそ有名人になった未菜さんだが、つい半年前までは全くメディア露出がなかったのだ。
「案外慣れるものだぞ、テレビなんて。別に普段通りの君で行けばいいのさ。芸能人にセクハラしたりしなければな」
「俺はたしかにスケベですが、見境なしにセクハラするわけじゃないですからね」
「後はうっかり君の周りの女性関係が週刊誌にスキャンダルされたりしたらとんでもないことになるな」
「……多分ですけど、仮にスキャンダルされたとしてもとんでもないことになるのは俺じゃなくてその記者だと思うんですよね」
そういう場合に知佳やフレアがどう動くかなんて想像したくもない。
怖すぎる。
「ならなおさら気をつけないとな。例えば――」
未菜さんがぐいっと俺の腕を掴んで、顔を寄せてきた。
超至近距離で囁かれる。
「こんなところを誰かに見られたりしたら、あっという間に私と君との関係が噂になってしまうな?」
「…………」
辺りの気配をさっと探ってみたが、まだ呼ばれる段階ではないのだろう、こちらへ近づいてくる人の気配はない。
よし。
3.
コンコン、とノックの音が響く。
それに反応した未菜さんが慌てて扉の方へ駆け寄って、扉を抑えた。
「社長、皆城さん、そろそろ準備を……って、どうしました? もしかして扉抑えてます?」
「べ、別に抑えてない! 荷物がだな、ちょっと扉の前に散乱しているんだ」
扉越しに聞こえるマネージャーさんの困惑する声。
「あの……もしかして何かしてます?」
「し、してない! 何も!」
俺からはもちろん見えている。
頑張って取り繕おうとする未菜さんが。
ふふん、俺を迂闊にからかうからこうなる。
こちとらからかわれることに関しては知佳のお陰でプロ級(?)なのだ。
扉越しに何かを察した様子のマネージャーさんの声が聞こえた。
「……ちゃんと整えてから来てくださいね。皆城さんも」
……バレてら。
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