第220話:新技

1.


 魔法が効かない。

 ということで、<龍の巣>へ挑むメンバーはいつもとちょっと違う。


 俺、スノウ、シエル、そして未菜さんにローラの五人だ。

 スノウはともかく、二人も快諾してくれたので助かった。

 全員で来ても良かったのだが、特に俺たちの世界を守る際の主戦力となる未菜さんとローラには様々な戦闘経験を積んでおいてもらいたい。


 <滅びの塔>を破壊する条件としてシエルがあちらのお偉いさんと話している以上、シエルを外すことはできない。

 防御面ではスノウ一人いれば完璧だし、過去に色々やらかしている俺も流石にもう自力でなんとかできるくらいには成長している……と思いたい。


 というわけで五人での攻略だ。


 そのダンジョンの入り口まで来たのだが――


「普通に他の探索者もいるのだな。てっきり私たちだけなのかと思っていたが」

「……みたいですね。高難易度かつ魔法が効かない相手と聞くとわざわざ無理して挑む理由も思いつかないですし」

「……<龍の巣>というくらいだし、やはり攻略した暁にはラピュ――」

「それ以上いけない」


 色んな意味で。

 ちなみにシエルいわく、空を飛ぶ城くらいならこの世界では実在しているらしい。


 凄いやファンタジー。

 

 もちろん<龍の巣>とは何も関係はない。

 ないったらない。


「この世界でも結構銃を持ってる人いるんだねえ」


 ローラは何やらキョロキョロしていると思ったが、探索者たちの武器を見ていたのか。

 銃のデザインはこの世界の人たちの持つものは装飾がゴテゴテしている感じだが、威力はどうなんだろう。


 どちらかと言えば見た目がスタイリッシュな方が強そうな気はする。


「自身の魔力の強さで弾の威力が変わる魔道具が存在すると聞いたことがあるのう」

「そんなのあるんだ! ……でもそれってボクが持つよりユーマが持った方が強くない?」

「その手の魔道具は割と繊細じゃから、悠真が持つとそれだけで壊れる可能性の方が高いじゃろな」

「へー……また今度探してみようかなあ」


 そういやもう一ヶ月もしたらクリスマスだな。

 ローラへのプレゼントはその銃で良いかもしれない。

 幾らくらいするんだろう。

 あまり高価だと喜ばれるというよりも引かれそうだし、そんなに貴重なものじゃなければ良いのだが。

 ……そもそも異世界のものだし気にしなくていいかもしれない。

 

 そういえば、未菜さん用の刀もガルゴさんとかに依頼したら作ってくれるんだろうか。

 親父の持ってたでっかい剣は彼が作ってくれたって話だったし。


 というか今年はクリスマスプレゼントを何にするか考えないといけない人が多いな。

 それだけ色んな人に世話になっているということでもあるのだが。


 全員がルルみたいにとりあえずまたたびか鰹節でもやればいいだろう、くらいの簡単さなら楽なんだけどなあ。


「とりあえずサクッと攻略しちゃいましょ。知ってた? 氷タイプはドラゴンタイプにこうかばつぐんなのよ」



2.



 魔法は効きにくい、という話だったのだが。

 こうかばつぐんかどうかは置いといて、スノウの氷は案外あっさりとドラゴンに通用していた。


 地球に比べて全体的に探索者のレベルは高いというのに、未だ一層すら攻略されていない超高難易度ダンジョン<龍の巣>。


 その内部はかなり大きめな鍾乳洞のような形になっていた。


 10メートルを越えようかというドラゴンが出てくるので広くないといけないのはわかるのだが、このダンジョンが未だ一層すら攻略されていないのはこの大きさと広さも間違いなく関係していると思う。


 そんな中、既に3頭のドラゴンを討伐している。

 全て赤い鱗の火属性(?)っぽいものだったが、内2頭はスノウが瞬殺してしまった。


 残りの1頭は未菜さんがあっさり首を切り落としている。

 シエルの足場を作るサポートと、ローラの翼を撃ち抜くというアシスト有りだが。


 俺?

 応援してたよ。


 というのはまあ半分冗談で、小さめの魔弾を使えばドラゴンも倒せそうではあるし、なんなら殴り合い(?)でも勝てそうではあるのだが――

 

 如何せん俺以外のパーティメンバーが強すぎる。

 というかローラも未菜さんも強くなりすぎじゃなかろうか。


 知佳や綾乃も魔力が相当増え、スキルの強化もされているのにも関わらずその差が縮まっているようには見えない。

 元々強い人がそうじゃない人と同じペースで強くなっていくのはズルいような気がするな……


 最近はWSRを確認していないが、この分じゃ未菜さんもローラも順位が上がっているかもしれないな。

 

「にしても――」


 壁に埋まっている鉱石をボコッと外す。

 俺の掌に収まりきらないくらいのサイズなので、結構大きい。

 

「攻略できないにも関わらず人が集まる理由ってのがこれか」


 具体的に何かまではわからないが、鈍いエメラルドのような光を放つ鉱石。

 シエルによると、どうやらこれは魔力を貯めておける鉱石らしい。


 保有魔力が多ければ多いほど綺麗なエメラルドグリーンに輝くそうだ。


 試しに先程俺が一つ魔力を込めてみたら、エメラルドグリーンの光を放ちながら爆発してしまったが。

 ちなみにエネルギー量としては魔石に全く及ばないらしい。


 ちょっとした魔道具を動かすのにも効率が悪いとのことで、ほぼ完全に宝石としての役割しか持っていないそうだ。


 魔力を限界ギリギリまで俺が込めといて、何かの拍子に一気に注ぎ込んでモンスターにぶん投げたりしたら簡易的な手榴弾にもなりそうだが……

 まあ爆発の威力もそう大したことはないし、普通に魔法を撃った方が強いだろうな。


「ダイヤカットみたいなことするんだろ? どれくらいの大きさになって、どれくらいの価値なんだ?」

「その大きさでもこんなもんじゃな」


 シエルは親指と人差し指でOKマークを作る。

 どうやらかなり小さくなってしまうようだ。


「それでも同じサイズの魔石の倍額程度にはなる。そこそこの腕を持つ探索者ならばモンスターを倒した方が手っ取り早いが、そうでない探索者にとっては良い金策になるわけじゃな」

「つまり今このダンジョンにいる人たちはあまり強くないのか……でもドラゴンは強いんだよな? 大丈夫なのか?」

「それなりに死者も出ておるらしいぞ。じゃからこそ攻略して欲しいんじゃろ。そうすれば後は自分らで強者を集めて掃討するだけじゃしな」


 ……なるほど。

 今回の依頼に掃討までは含まれていないから、俺たちはとりあえずボスだけ倒せば良いということか。

 まあダンジョンに入って2時間ほどが経つのに未だ3頭のトラゴンとしか遭遇していない辺り、そもそもそこまで数も多くなさそうだが。


 多分普通は1頭相手でもかなり手こずるんだろうな。

 

「でもそのうちこの鉱石も取り尽くすんじゃないか?」

「いや、ここはダンジョンじゃからな」


 シエルが指先に魔弾のようなものを作り出すと、そのまま壁に向かって炸裂させた。

 ちょうど先程俺が鉱石を取った位置だ。


 かなり大きな音を立てて壁が吹き飛んだが、徐々にその壁は修復されていく。

 ダンジョン内の壁や床はどれだけ破壊しても元に戻るのだ。


 そしてその修復と共に、俺が先程取ったはずの鉱石も戻っていた。

 もちろん俺の手元にあるものはそのままである。


「私たちがアメリカで掃討したあの鉱石ダンジョンも似たような理屈だぞ。それが公に出ると面倒だから、一部の人間しか知らないがな」


 それを見ていた未菜さんが教えてくれる。

 なるほど、ああいうのって採り尽くしたらどうなるんだろうとは思っていたがそんな簡単な理屈だったのか。

 

 でもそもそもダンジョンの壁ってそう簡単に壊れるものじゃないんだよな。

 ダイナマイトくらいのものを持ってくれば多少は崩れるかもしれないが、並の人間がどれだけ頑張ってもびくともしないのがダンジョンの壁だ。


「とは言え、迂闊にこういうことをすると――」


 ちらりとシエルが上を見る。

 そこには赤い鱗のドラゴンが3頭浮かんでいた。


 「お前ら、絶対、殺す」という幻聴が聞こえてきそうなくらいの怒りのオーラを感じる。


「どうやらこの鉱石を守っているような立ち位置のドラゴンたちが勘付いて大量にやってくるのじゃ」

「そういうのは先に言っておいて欲しいもんだけどな」


 先程はスノウがやってしまったので、今度は俺の番である。

 ドラゴンキラーの称号を頂こうではないか。


 上空10メートルくらいの位置を悠然と羽ばたくドラゴン。

 あんな羽ばたきじゃどう考えても物理法則的には体が浮くはずもないのだが、そこはきっと魔法的な謎パワーが働いているのだろう。


 俺はまず1頭目のドラゴンの真正面まで飛び上がった。

 心なしか、ドラゴンもギョッとしたような表情を浮かべているような気がする。


 まあ、ここまで助走無しで飛び上がれるのなんて俺を除けばルルくらいなものだろう。

 

 そのままドラゴンのでっかい顔面にしがみついて、体を空中で拗じらせて壁に叩きつける。

 ズゴンッ!! と壁にめり込んだドラゴンはそのまま光の粒子になって消え去った。


 落ち際に放った魔弾でもう一匹をついでに処理して、着地する。


「よし、これで俺もドラゴンキラーだな!」

「ボスならともかく、雑魚を倒してもそんなかっこつかないでしょ」


 呆れたような目で俺を見るスノウ。

 まあそれは実際その通りかなとは思うけどさ。

 

 残りの1頭も先程と同じようにローラが翼を撃ち抜くのかと思いきや――


「ねえミナ、ボクの新技を試してみていい?」

「新技? 別に構わないが――」

「やったっ! じゃあ見ててね!」


 ローラが嬉しそうにそう言った次の瞬間。

 ガオンッ!!!! と大砲でもぶっ放したのかというような大音響が響き、ドラゴンの上半身が


 しかもその背後にあるこのダンジョンの天井にも巨大な穴が空いている。

 流石に貫通まではしなかったが(というか貫通したらどこに繋がるのだろう)、とんでもない威力だぞ。


「へえ、なかなかやるじゃない」

「ほお」


 スノウとシエルは素直に感心しているようだが、俺と未菜さんは揃ってあんぐり口を開けていた。

 何が起きたのかすらもわからなかった。


 なんだ今の威力。

 下手すりゃ俺でも怪我じゃ済まないようなもんだったぞ。


「うわー……こんな凄いことになるんだー……」


 自分でやったはずのローラもドン引きしていた。

 

 一体何をしたのか詳しく聞いてみると、『働いた慣性はそのまま保存する』という<空間袋>の特性を生かして、させた銃弾を何度も<空間袋>を経由させることによって加速させまくった結果がああなったらしい。


 <空間袋>を縦向きに出口と入り口を何度も行き来させたようなイメージだろうか。

 それをどれくらい繰り返したのかはローラ自身も「覚えていない」とのことだったが、準備さえしておけばノーコストであの威力が出せるのは控えめに言ってかなりヤバい。


 ちなみにこれは以前の魔石による強化で初めてできるようになったことらしい。

 

「……どうしよう悠真くん、もしかしたらもう私はローラに勝てないかもしれない」

「いやあ……流石にちょっとあれは反則じゃないですかね」


 正直あれを連発されたら俺も厳しい。

 目の前に<空間袋>の出口を作られたりしたら躱すことも難しいだろうし。

 

 天鳥さんがスキル強化の方法を知ることによって最も恩恵を受けたのはローラだったのかもしれない。

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