第215話:予想以上の二人
1.
天鳥さんがスキルブックの秘密を解き明かして一週間ほどが経過していた。
シエルとルルは再び異世界へ行って次の準備を始めている。
ハイロン聖国改めハイロン国を足場……というと聞こえは悪いが、現状の国の長であるリーゼロッテさんの力を借りつつ他国への交渉を始めるそうだ。
シエルが一緒に動くことでハイロン聖国時代の他国への評判の悪さも多少はマシになるだろうし、両者に益のある話である。
ちなみに現在交渉を持ちかけているのは防壁国家セーナルという国らしい。
字面の通り、国全体が巨大な壁に覆われている――というわけではなく。
超巨大な結界で覆われているらしい。
大昔……それこそシエルが生まれる前から存続する国で、その時からずっと存在している結界。
魔物を寄せ付けず、魔法も通さないのでセーナルと戦争をしようという国は皆無なのだとか。
数千年という単位で持続する結界なんてどれだけ膨大なコストが必要になることやら。
それを魔石に頼っているのではと思ったが、どうやら特殊な魔道具なるものがエネルギー源らしいので魔石の有る無しはあまり関係ないようだ。
細かいことはともかく、シエルが次はそこの国にある<滅びの塔>を破壊しようと決めたのならばそれに従うまでである。
喪服の男……ベリアルも無理やり破壊しようとするのでなければ手出しはしてこないと言っていた。
国家単位で交渉して、一本ずつ破壊していく分には問題ないはずだ。
で。
もちろん、俺たちもシエルやルルがあちらで頑張っている内に何もしないというわけにはいかない。
この一週間で、俺の
まず第一に、全ての思考が筒抜けになるわけではない。
言葉にするのは難しいが、相手のことを強く思い浮かべながら念じることで言葉を送ることができるのだ。
フレアから思考が届いていたのはつまるところそういうわけである。
特定の思考のみを飛ばす、という念話についてはそう難しいものではなかった。
まあまだ慣れていないので特定のシチュエーション……というかベッドの上で思わぬ弊害が出たりもしたのだが……
特にスノウとウェンディの反応が……
おっと。
話が逸れてしまったな。
これは今後慣れていけばいい話だ。
次に念話ができる距離。
地球上であれば、どこまででも。
しかし世界を隔てると駄目、と言った具合だな。
同じ世界であればダンジョン内外でも問題なく念話できてしまう。
便利なものだ。
ウェンディからシエルだったりシトリーからレイさんだったり、スノウからフレアだったりの念話は不可能なのだが、やろうと思えば俺を介せば良いだけである。
ちなみに念話にも魔力は使うのだが、幸いにもその魔力は俺から支払われる(?)ようだ。
異世界のダンジョンからこちらの地上へ念話する際の魔力消費量でも、恐らく24時間365日繋ぎっぱなしにしていたところで魔力が切れるようなことはないだろう。
未菜さんの<気配遮断>しかり、強化されたスキルは魔力の消費量が多くなるのかもしれないな。
知佳も影へ潜るのはそれなりに消耗するようだし。
ローラに関しては元々の燃費が良いのか、あまり変わらないようだが。
綾乃のスキルに関しては正直何かが変わったような感じはしない。
本人もあまり感じられないそうだ。
もしかしたらスキルそのものが強力すぎるが故に取り込む魔石の量が足りていないのかもしれないな。
「そろそろダンジョン潜って魔石を採りにいかないとなあ」
未菜さんとローラは現在樹海ダンジョンの真意層へ潜っているらしい。
あの二人ならば高難易度ダンジョンの真意層でもなんとかなるだろう。
二人とも転移石持ってるし。
彼女らに負けないよう、俺も俺で頑張らないとな。
2.
というわけで翌々日。
俺、知佳、綾乃の三人でダンジョンに潜ることになった。
スノウたちの中から誰もついてきていない理由についてだが、未菜さんだったり柳枝さんだったりと言った実力と実績のある人たちと潜る際ならばともかく、知佳や綾乃と潜る時でも既にお守りは必要ないと判断されているようだ。
それでもフレアはついてきたがっていたが、知佳と何事かを話して納得していたようだった。
あの二人は妙に仲が良いのだ。
今回潜るのは既に勝手知ったる新宿ダンジョン。
その12層だ。
9層までが通常層で、10層からが真意層となっている新宿ダンジョンだが、11層は俺が魔弾を初使用した際に広範囲に渡って景観を破壊してしまったのですっ飛ばして12層である。
最初は9層くらいでモンスターを狩るだけにしようと思っていたのだが、念話もあるし転移召喚もあるし、転移石もあるしということでここまで来たのだ。
「11層の
「ダイダラボッチ?」
「みたいなやつ」
知佳の言葉に頷く。
新宿ダンジョンは妖怪とかお化けとか伝承のモンスターとかそんな類のものが出てくることが多い。
赤鬼にしろ天狗にしろ、山姥にしろ吸血鬼にしろ。
それであの後でっかい妖怪とか伝承上の生き物に心当たりはないかと知佳に聞いてみたところ、ダイダラボッチが一番それっぽかったのだ。
まあでも伝承上のダイダラボッチってでかいだけで良い奴(?)みたいだからちょっと複雑な気持ちでもあるのだが。
「にしても、10層は荒廃した世界で11層は何もなくて、12層はまた普通の東京の町並みに戻るんですね。ダンジョンって不思議だなあ。あ、スライムさんだ」
綾乃が建物の影から飛び出してきたヘドロっぽいスライムを魔法の炎で焼いて倒す。
最初の頃はいちいちモンスターにビビっていたのだが、今や慣れたものである。
しかしド◯クエのスライムみたいに可愛らしいスライムならともかく、このダンジョンに出てくるスライムって……というか大抵のダンジョンに出てくるスライムはそうなのだが、基本的に見た目が結構グロいんだよな。
アメーバとかが近いイメージか。
ぷるぷる。ぼく わるいスライムじゃないよ。
なんて言われても容赦なく倒したくなるビジュアルだ。
綾乃も全く躊躇いなく倒してるしな。
真意層のモンスターなので通常層に出てくるモンスターよりは相当強いのだが、<
ちなみにスライムを物理で倒すのはそれなりに難しい。
とは言っても、親父くらいの攻撃力があれば容易く物理でも倒せるのでやっぱりそう大した脅威でもないのだが。
ふと、視線を感じた。
「――上だ!」
先頭を行く俺が立ち止まり、上を見上げる。
すると天狗が上から二体ほど降りてきて、着地すると同時に――
その天狗の影から棘が生えてきて、足を串刺しにした。
動けなくなった天狗二匹を綾乃の放った、俺の<魔弾>に近い魔法が吹き飛ばす。
それなりに大きめの魔石がごろりと二つ転がり、俺はそれを持ってきた袋に入れた。
「…………」
二人とも要領が抜群に良いので、本来ならばもう少し苦戦したりしても良いような相手でもこうして瞬殺してしまうのだ。
知佳は直接の攻撃力に乏しいが、拘束力や防御力に関してはWSRの上位クラスでも手こずるようなものを持っている。
綾乃の魔法は<幻想>による強化で彼女自身の持つ魔力以上の威力を誇り、真意層のモンスターでも瞬殺できてしまう。
もしかするとそもそも俺すらいらないレベルでこの二人はダンジョン慣れしているのかもしれない。
この分じゃ
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