第124話:墓参り
1.
ここ最近、一人で出歩くということがあまりない。
全くないわけではないが……
基本的に俺が出かけようとすると誰かしらついてくるのだ。
しかし今回は、誰一人ついていくと主張しなかった。
俺に人望がないとかではなく(そうだと信じたい)、行き先が行き先だからだろう。
「親父にも皆を紹介しても良かったんだけどな」
多分、俺に気を使ってくれたんだろう。
正直なところその気遣いはとても助かる。
普段は飄々としているという自覚のある俺だが、それでもやっぱり墓参りの時だけは感傷的になっちゃうからな。
死後の世界とかがあるかは知らないし、聞いているかどうかもわからない。
だが俺は独白を続ける。
「俺さ、探索者になったよ。親父が死んだダンジョンにも潜った。お城ダンジョンなんて呼ばれてるんだぜ」
多くの犠牲者を出したダンジョンだ。
しかし今はそれを乗り越え、皆が楽しめる場として提供されている。
「俺の魔力、世界一多いらしい。魔力ってのは……なんか不思議なエネルギーのことだな。俺自身もまだ良くわかっちゃいないんだけど」
上手いこと扱えるようになったのもつい最近のことだ。
しかし魔力についてはまだまだ謎も多い。
精霊たちにとっては当たり前にあったものなので、やはりどうしても認識に差は出てしまうのだ。
「実はダンジョン内で何回も死にかけてる。仲間のお陰でなんとかなってるけどさ――その仲間ってのが、まあ俺以外みんな女の子なんだよ。それも、誰もが羨むような美女だの美少女だのばっかりだ」
どんな反応をするだろうな。
悔しくて墓から出てきたりすればいいのに。
まあ、この墓の下に親父の体が埋まっているわけではないのだが。
けど、まあ死後の世界とかそういうのがあるにしてもないにしても――こういう場で話すのが一番適切なのだろうとは思う。
宗教とか生死観とか、難しいことはよくわからないけど。
「そんで――結構面倒そうなことに巻き込まれてる。これからも、もしかしたら何回か死にかけたりするかもなぁ……」
親父ならなんというだろうか。
ならやめとけ、とか。
怖いなら俺が代わってやろうか、とか。
そんな感じのことを言うと思う。
ただ、最後にはきっと――
「俺がそうしたいと思うから、そうするんだけどさ」
もしかしたらダンジョンに囚われていて、ここにはいないかもしれない。
そう思っていたのだが、墓参りに来て――なんとなくの予感は確信に変わった。
やっぱり親父は天国だかどこかでのほほんとしているんだろう。
もしかしたらもう生まれ変わったりしていて、俺がここでこんなこと言ってるのは聞いていないかもしれない。
俺がそう思いたいだけかもしれないけどな。
でも、まあそれでもいいや。
そう思うことにしよう。
「また来る。今度は仲間も連れて……賑やかな方が親父も好きだろうしな」
そんな感じで。
あまり長居することもなく、俺は墓参りを終えてホテルへ戻るのだった。
今日は日曜日。
ティナが探索へ加われる最後の日だからな。
転移石を揃えれば、もうちっと気軽に親父の墓にも参れるだろう。
2.
「昨日やったフレアさんの大規模攻撃? はやらないの?」
ティナの<気配感知>でちまちまと忍者リザードマンを狩っている最中、ティナが確認するように聞いてきた。
昨日のことは口頭で伝えてあるので、一気に大量ゲットできたやり方の方が効率が良いのではという考えだろう。
当のフレアが何故そうしないのか理由を教える。
「あれ、連発はできないんです。全部壊していいならともかく、建物にまで気を遣うのは結構疲れるので……」
「そうなんですね。木造ばかりだし、燃えやすいのも関係してたりするんですか?」
「あ、それはあまり関係ないのです。私の炎だとどうせなんでも燃えちゃうので」
「へぇー……すごいなあ」
「ふふ、でもお兄さまの方がもっとすごいんですよ」
何故か最後に俺をヨイショするフレア。
謎である。
そういえば、ティナって俺とスノウ以外には敬語なんだよな。
距離がある……とかではなくむしろ普通に仲は良い部類なのだが、ティナがシンプルに敬意を払っているというだけの話だろう。
そしてフレアが敬語なのはデフォルトだ。
……というか、シトリーにちらっと聞いたことがあるのだが、フレアはウェンディのことをかなり深く尊敬しているらしい。
それでいつしかウェンディの口調を真似るようになったのだとか。
そういう点ではスノウはシトリーの方に近いのだろう。
まあそもそもの性格に由来するものでもあるとは思うが。
それはともかく。
昨日のフレアの大規模攻撃だが、彼女だけではなくスノウたちも似たようなことができるらしいので撤退前に全員が一度ずつあの規模の攻撃をしていくらしい。
俺は言うまでもなく建物を破壊せずに、なんて繊細なコントロールは不可能だし、知佳もそういう攻撃手段はない。
本人曰く、「まだない」とのことだったが……
先にそういう手段を獲得されたとしたら、ちょっと泣いちゃうかもしれない。
俺も頑張ろう。
というか、その知佳は今日来ていないんだよな。
綾乃と何か企んでいる……というか、多分スキルブックを使うんだと思う。
サプライズにしたいだろうから、大人な俺はそれに気付かないフリをしてあげたが。
ふっ、鈍感なフリをするのも大変だな。
どんな能力になるのだろうか。
知佳のスキルはかなり強力なものだったし綾乃へ渡るであろうスキルも結構強いものになるのではないだろうか。
なにせ知佳のスキルはガーディアンのドロップだが、昨日のスキルブックはある意味それよりも強力なユニークモンスターからのドロップだ。
また俺の立場が脅かされる……
精霊への魔力タンクという唯一無二が崩れることはないだろうが、純粋な戦力として見劣りするようなことがないようにこれからも精進しよう。
実際、昨日は油断もしていなかったのに不意打ちを食らってしまった。
ウェンディにはあれは初見で躱すのは非常に難しいので仕方がないです、と言われたがそれで納得していい訳でもない。
解毒魔法や治癒魔法も苦手意識ばかり持っているのではなく、ちゃんと習得できるようにしないとな。
「あれ? なんか違うヤツの気配があるような気が……」
ティナがそちらを見た途端、シトリーがその方向へ電撃を飛ばした。
ピギャッ、と悲痛な鳴き声が聞こえたぞ。
俺たちがその声が聞こえた方向へ向かうと、狸っぽいヤツが痺れて動けなくなっていた。
「普通の狸さん……ではないみたいね」
シトリーがツンツンとつつきながら言う。
そう、普通の狸ではない。
居酒屋の前に置いてある感じの狸だ。
普通の狸はもっと犬っぽい感じだろう。
「レアモンスターのようですね。この狸の気配は今まで感じたことがありませんでした」
ウェンディが冷静に分析する。
俺もそうだ。
というか、気配自体希薄だ。
忍者リザードマンほど全く感じないというわけではないが、これはちょっと普通に気付くのは無理っぽいぞ。
少なくとも俺は多分感知できない。
今はこの目で視認しているので魔力も感じ取ることはできるが……
クイッ、とウェンディが指を動かすと、狸はあっけなく光の粒となった。
さようなら狸さん。
ダンジョン内にいる時点でまず間違いなくモンスターだろうし、慈悲はないのだ。
そしてそこに残ったのは小さめの魔石と――昨日見つけた種だった。
それをウェンディが拾い上げる。
「昨日の種が少なかった理由はモンスターがレアだったから、のようですね」
「だな」
となると、大量生産はむず……かしくはないのか。
むしろ今の所転移石よりもずっと簡単だ。
何故なら、種を育てればいいのだから。
恐らくあのまま魔力を流し続ければ他にも幾つか実はなるだろうし、まだ試していないが中に一つしか種がないとも考えづらい。
どんな特徴のある実なのかはまだわからないが、有益なものだとしたらそうして増やせばいいだけだしな。
「それじゃ、種をドロップする奴の特徴も覚えられたことだし、最後にスノウたちの大きな花火をあげて終わりにするか」
ティナも早めに帰してあげないと、明日は学校だしな。
というわけで、地点を移動しながら精霊たちの大規模魔法がモンスターたちを蹂躙すること――魔石やら転移石やら、種やらも拾い集める時間も含めて1時間半。
転移石が201対402個、種が16個、そして魔石がめちゃくちゃいっぱい(てきとう)集まった。
合計では、転移石は320対640個にもなった。
……ちょっと集めすぎたかもしれない。
ちなみに今回は専用の箱をたくさん持ってきたので知佳がいなくてもどれがどれに対応してるか混乱することもない。
種は昨日発芽させてしまったものを含めて19個。
魔石はたくさん(てきとー)。
もしかしたらガーディアンが巻き込まれたりするかなと思ったが、どうやらそれはなかったようで階段の出現は確認していない。
まあ、ガーディアンを倒そうと思えば恐らくいつでも倒せるだろうから、そこは焦っても仕方ないだろう。
というわけで、スキルブックと謎の種(実)の効果次第でもあるが、ティナを迎え入れたパーティでのお城ダンジョン探索は大成功を収めたと言っても過言ではないだろう。
ティナが帰ったあとどうしようかと思っていたが、これだけあればもう俺たちも帰ってもいいぐらいだな。
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