第123話:謎の種
1.
結局、フレアの大規模攻撃に巻き込まれてやられた忍者リザードマンの数は確認できただけでも52体以上、転移石のドロップは52対104個とかなりのものになった。
ウェンディの推察にはなるが、先程のユニークモンスターとの戦いの音や魔力に釣られて周りのモンスターが集まってきていたのだろう。
魔石は転移石の10倍くらい拾えたので、忍者リザードマン以外のも大量のモンスターが集まっていたことがわかる。
これだけでも一般的なサラリーマンが真っ青になるくらいの稼ぎではあるんだよな……
ちなみに、先程の忍者がドロップしたスキルブック以外にももちろん魔石だってあるのだが、ボスやガーディアン程大きくはないが、普通のモンスターのものよりは大きいという塩梅だった。
アスカロンは魔石を残さなかったのだが、アスカロン以外の落ち武者たちは残していた。
自我を取り戻せていたかどうかの違いなのだと思う。
今回はスキルブックもあるし。
普通にガーディアンやボスを倒すよりも実入りは良かったように思う。
転移石もあるしな。
それから――
「こんなものが魔石と一緒に落ちていました。恐らく、これもモンスターからのドロップかと」
そう言いながらウェンディが持ってきたものは種……のようなものだ。
ひまわりの種なんかが近いだろうか。
「……何のモンスターからドロップしたんだろうな、これ」
「今の所はなんとも。くまなく探しましたが、見つかったのは3粒だけだったのでそもそもレアなモンスターなのか、それともドロップがレアなのかのどちらかでしょう」
「んー……とりあえずこれも天鳥さんに調べてもらうしかないな」
ここで色々試してみるのも一つの手ではあったが、とりあえずは戻るのが先決だろう。
一応、先程ダンジョン内からでも通じる特殊な携帯電話で綾乃には連絡を入れてある。
こちらは無事だ、と。
ティナも問題なくあっちで待機しているようだ。
ちなみに、このダンジョン内からでも通じる特殊な携帯電話というのも魔力測定器と一緒でアメリカが突然持ち出してきたものだと言う。
どう考えても何かあるとは思うので、時期を見て大統領に探りを入れるつもりだ。
もしかしたらキーダンジョンへ繋がる手がかりもあるかもしれないしな。
という訳で今回の収穫をまとめてみよう。
転移石が119対238個。
謎の種が3つ。
魔石多数。
そしてスキルブックが一冊だ。
ちなみにどの転移石がどの転移石に対応してるか、既にわかりやすいようにする為の入れ物がないので困っていたところ知佳が「大丈夫。覚えてるから」とか訳のわからないことを言い出す。
何個かテストしてみたところ本当に覚えているようだったのでとりあえずそれを信じることにした。
確かによーく見れば形や大きさがほんの少しずつ違うような気はするが、これって見て覚えられるようなものなのか?
少なくとも俺は絶対無理だ。
というか、普通は無理だろ。
最近、ますます天才っぷりが増しているような気がするぞ、あいつ。
2.
「ユウマ! みんな! 本当に良かった……!」
「大丈夫だって。俺はともかく、スノウたちもいるんだから」
ホテルへ戻るなり、ロビーでティナに抱きつかれた。
一人だけ転移石で戻ったことがよほど気がかりだったのだろう。
綾乃に聞くと、なんなら転移してきてすぐにまたダンジョンへ戻ろうとさえしていたらしい。
どのみち5層にある出口から出ちゃうから入れ違いになるし、そもそもティナは一人じゃ4層から先へ進めないのだが。
それはともかくとして、それくらい心配だったのだろう。
まあ、ティナの前で実際ボコボコにされてるしな、俺。
ロサンゼルスのダンジョンで、スーツ姿のスレンダーマンみたいなやつに。
今戦えばいい勝負……いや、勝つ自信さえあるが。
どう考えてもアスカロンの方が強かった。
あの時のままの強さでまた出てくるなら、だけどな。
「とりあえず、また明日ダンジョンへ潜ってもう100個くらい転移石を集めよう。そしたらこのお城ダンジョンに用はないし」
もしかしたら偶然キーダンジョンがこのお城ダンジョンの可能性もあるから最後まで攻略するのも有りっちゃ有りな気はするが、そもそもどこまで続いているか未知数だしな。
拠点は一応東京なので、一番最後まで攻略することになるのは恐らく新宿ダンジョンになるだろう。
しかし俺の言葉を聞いたスノウが首をかしげる。
「あれ、もういいの? あんたのお父さんがどうのこうのって話あったじゃない。アレ以外にもユニークモンスターはいると思うわよ?」
「結局のところ出会えない限りは悪魔の証明だし、気にするのもアホらしいなって思ってやめることにした。悪いな、みんな。付き合わせちゃって」
「ダンジョンを攻略するって目的は変わりないんだし、別にそんなの気にしなくていいわよ」
なんでこいつが言うと全部ツンデレっぽい台詞に聞こえるんだろう。
ツンデレだからだろうか。
今度ツンデレっぽく台詞選手権みたいなのを開こう。
普通の言葉なのにスノウに言って貰うことによってツンデレっぽい台詞になった中で一番意外なものを挙げた人が勝利だ。
「マスター」
などとアホなことを考えている間に、独自に種を調べていたウェンディに声をかけられる。
「どうした?」
「ダンジョンで発見した種ですが、魔力によって成長が促進されるようです」
根がどうなっているか見やすいようにする為か、透明なグラスに濡れた脱脂綿を詰めたものの中に種が入っている。
小学生の頃に理科の実験でこんな事やったような気がするな。
脱脂綿なんてどこにあったんだろう。
それはともかく、既に芽が出ている。
どう考えても早すぎるが――
「魔力によって成長が促進……か」
詳しく話を聞いてみると、
しかしそれ程の大きな魔力は必要ないようで、ほんの微量でもこれだけ成長が早まるのだとか。
「俺もやってみていいか?」
「はい。ですが、もしこれが成長しきった姿が大木のようなものの場合危険ですので、少しずつにしてください
「だな」
俺の大魔力を一気に流し込んでジャックと豆の木みたいになったら大変だ。
いや、大変どころの騒ぎじゃないが。
「もしそうなりそうだったら育ち切る前に燃やしてくれ、フレア」
「はいお兄さま。跡形もなく燃やし尽くします!」
……両手を握りしめて張り切っているところ悪いが、それってこれを持ってる俺も無事で済んでいないような気はするんだけど大丈夫かな。
「さて……」
徐々に魔力を込めていく。
付与魔法はある程度以上の大きさの魔力でないと意味がなかったが、どうやらこの種は違うらしい。
気持ち指先程度の魔力を流し込んだ時点で、ぐんぐんと大きくなり始めた。
芽が大きくなり、茎が伸びて葉っぱがつき、何かの蕾のようなものができて花まで咲いたぞ。
今の所、全体の大きさは15cmくらい。
花は赤い花弁で、その花弁の中央に黄色い――果実のようなものがついている。
小さく、触れてみても硬いので食用ではないっぽいが……
「……なんだこれ?」
「もう少し成長させてみたら熟すかもしれません」
「なるほど」
ウェンディに言われるまま、魔力を流し込み続ける――と。
花弁が落ち、果実のようなものが赤く変色していった。
恐らくウェンディの言った通り、熟してきたのだろう。
苺によく似た形へと成長したその果実は……
「……甘い匂いがするな」
香りは桃……に近いような気がする。
もしかしてこれ、食べられるのだろうか。
これまでのダンジョンドロップの傾向からして、毒ではないとは思うのだが……
「食べる前に天鳥さんに調べて貰う方が無難か」
別に俺が食べてみてもいいのだが。
一番体が頑丈だし、解毒魔法を使える人が近くにいるわけで。
即死するようなタイプの毒でなければ平気なはずだ。
だが、危険を冒す理由はない。
「先輩、研究対象が多すぎて
「なんだその嬉ションみたいな謎の単語は」
でも天鳥さんならあり得るかもしれない。
あの人、未知のものに対する好奇心半端ないからなあ……
俺との接触で魔力が増えることが確定した時も俺の体液を採取したがっていたし。
転移石に謎の果実、そして種。
ダンジョンに潜れば潜るほど謎が増えていくな。
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