第121話:忍者の頭領

1.


 2時間くらい経っただろうか。

 ティナの<気配感知>が俺の――いや、この場にいるティナ以外の全員の想定を超える精度なお陰で、既に100体以上の忍者リザードマンを倒している。

 現在集まった転移石は合計で134個……つまり67対だ。


 どこにどのように使うか、というのはまだ決めていないのでとりあえずこれくらいでいいだろう。

 というか、これ以上増えるとどの転移石とどの転移石が対応してるかわからなくなる。

 今のところはわかりやすいように小分けのお菓子みたいな容器に入れていっているのだが、その容器がいっぱいになってしまったのだ。


 マジックでも持ってきてわかりやすく数字を書けば良かった。

 基本的に都内の様子を反映していて、色んな店がデフォルトである新宿ダンジョンならまだしも、このお城ダンジョン内でマジックペンを見つけるのはちょっと無理だろう。

 4層まで戻れば売っている店もありそうではあるが……


「ふぅ……」


 ティナが額に流れる汗を拭っていた。

 知佳の影法師もそうだが、スキルというのは魔力を消費する。

 新階層へ入ってから常に<気配感知>を使っているティナも限界が近いのだろう。


 知佳は魔力に関する問題は色々あってクリアしたが、流石にティナもで解消するという訳にはいかない。

 いやまじで。


「そろそろ一旦戻るか。明日もあるし、そう急ぐ必要はないしさ」


 特に今日は転移石のドロップを確認して、効果を色々確かめて、またダンジョンへ戻るという結構忙しいスケジュールだったしな。

 俺や知佳は魔力の関係で疲れにくいが、ティナはちょっと魔力量は多めではあるが常人の範疇に収まっているレベル。

 無理をさせるのも良くない。


「まだ、わたしやれるよ?」


 ティナはそう言うが、見た目に見える疲労だけではなく俺たちは残りの魔力量だって感じることができる。

 それから鑑みてもやはりこれ以上は良くないだろう。


「ティナ、もう限界なのは――……どうした?」


 ティナを諭そうとすると、ちょうどそのタイミングで後ろを振り向いた。

 俺の話を聞きたくないという駄々っ子的な動きではなく、何かに気付いて咄嗟に振り向いたような形だ。


「……なに……? なにか、凄く強い気配が近づいてくる……」


 ティナはぎゅっと自分の体を抱きしめるようにして、に怯えていた。

 スノウに目配せして、すぐにティナを守れる位置につかせる。

 

「ヤバイと思ったらティナと外へ転移してくれ」

「わかったわ」


 欲張らないで全員分が見つかった時点で一旦ホテルへ石を置いていくべきだったかもしれないぞ、これは。

 スノウ以外の精霊たちは既に全員が戦闘態勢に入っている。

 もちろん俺もいつだって戦えるよう、アスカロンを構えて待つ。


 やがて――

 <そいつ>は音も気配もなく、そこへと現れた。


「あそこ!」

 

 ティナが指差した先。

 日本家屋の屋根の上に、忍者が立っていた。


 黒ずくめの忍び装束に、黒頭巾で隠された顔。

 目元は影に覆われているようで、中身は見えない。

 どっからどう見ても忍者だ。


 それもリザードマンではなく――明らかに人の形をしている。


 ガーディアン……ではなさそうだ。

 俺の直感でしかないが。

 しかしその強さはひしひしと感じる。


 端的に言えば、アスカロンと同じような威圧感。

 恐らくあれはユニークモンスターだ。

 

「お兄さま、あの忍者、気配が……」

「……ああ」


 まるで霧の中にいるのかの如く、

 強いということは一目でわかるし、目の前にてようやくそこにいるということを認識できるようなレベル。

 

「ティナ、転移石で戻るんだ」

「……っ、わかった」


 忍者はこちらをじっと見下ろして動かない。

 その間にティナだけでも逃がそう。


 ほんの少しだけティナは渋る様子を見せたが、事前に口酸っぱく言っていたことを思い出したのか、素直に言うことを聞いてくれた。

 フッとティナの姿が消えると、ようやく忍者は動き出した。

 

 まるで非戦闘員が居なくなるのを待っていたかのように……と言ったら俺の主観が入りすぎているだろうか。

 音もなく屋根から降り立った忍者は、じっと俺のことを見ているように感じる。

 目が見えないので雰囲気でそう感じる、としか言いようがないが。


 というより、俺の持っている剣を――アスカロンを見ている。


「……俺をご指名みたいだな。みんな、悪いけどギリギリまで手は出さないでくれ」


 アスカロンの時と同じように一対一でないと駄目……かどうかはわからないが、ティナがどこかへ行くまで待っていてくれていたことに対する礼も込みでまずは俺も一人で相手しよう。


「――!」


 放出していた魔力に反応があり、俺はから飛来した手裏剣を振り向きざまにキャッチした。

 

「お兄さま!」


 フレアの声で正面を振り向くと、忍者が消えていた。

 どこに――


「……な……!?」


 ガクン、と膝が勝手に折れる。

 いや違う。

 これは……


「……毒……か……?」


 体に力が入らない。


 よく見れば、腕に小さな傷がついていた。

 いつの間についたのか――いや、ついたのは今しがたなのだろう。

 

 俺が後ろからの手裏剣に気を取られている間に毒付きの武器が体を掠めていった……ということか。

 しかし、魔力による強化で毒への耐性もついているはずなのにそれをあっさり貫通してくる毒とは。

 俺じゃなければ――知佳や精霊たちでも即死まであり得るんじゃないか、これ。


 俺が動けなくなったのを見て、忍者は再び姿を現した。

 手には忍者刀――とでも言うべきか、小さな日本刀を構えている。

 そしてトドメを刺すために近寄ってきた忍者の動きが、直前で止まった。


 じっと俺を見ていた顔が、今度は俺の後ろを見ている。

 そしてその後ろ――背中が、熱い。

 まるで超高温のものが裏で燃えているかのように。


「万死」


 熱いはずなのに、底冷えするような低い声が後ろから聞こえた。


「に、値します」


 もはや炎と呼べるようなものではなく、ただの熱のエネルギーと言うべきような魔力の奔流が忍者の居たところを焼いた。


「お、お兄さまをど、毒で動けないようにするなんて羨ま……じゃなくて、そんなの絶対に許せません!!」


 羨ましいって言いかけた?

 今羨ましいって言いかけたよね?


 フレアが俺の前に立ち塞がり、直撃したはずなのに何故かピンピンしている忍者を指差して宣言した。


「お兄さまを賭けて勝負です!!」


 勝手に賭けないで。



2.


「どう? 大丈夫そう?」

「ああ、もう大丈夫」


 何故かシトリーに膝枕されながら解毒魔法をかけられた俺はすっかり体が動くようになっていた。

 凄いなあ、解毒魔法。

 それなりに使える治癒魔法とは違って、解毒魔法に関しては俺は全く使えない。


 ウェンディいわく、そもそも毒を食らうような経験が少ないからだと言う。

 家庭の事情で生まれた時から毒を浴びていた某キャラとは違って、俺は普通の人間なのでそこんところは仕方ないことのようだ。


 さて、フレアの方だが――

 一瞬で決まると思っていたが、案外苦戦していた。


 というか、攻撃を当てても当てても何故か忍者はケロッとして再び現れるのだ。

 あの熱量が直撃して平気でいられるとはちょっと思えないのだが……


「ウェンディ、あれ、どう思う?」

「そもそも炎系の魔法を無効化するような能力を持っているか、当たっているように見えて当たっていないか。その二択でしょうね」

「……だよな」


 ウェンディはフレアが未だ勝負を決められずにいるというのに特に焦っている様子を見せない。

 はなからフレアが負けるとは思っていないのだろう。

 かく言う俺も、今でこそまだ勝負が決まっていないだけでこのままフレアが負けるとは思えない。


 別に俺も油断していて毒を食らったわけではないが、そもそもフレアならそういうヘマを踏まないだろうし、仮に毒を食らっても彼女は解毒魔法が使える。

 

「忍者なんだし、変わり身の術とか使えたりして」


 知佳が言う。

 変わり身の術……あり得るだろうか。


「でもそれってフレアの攻撃を紙一重で躱してるってことだよな?」

「さあ、そもそも『変わり身の術』は攻撃を無効化して躱す、っていう効果の魔法なのかもしれないし」

「だとしたら強すぎるような気はするが……」


 実際に影法師を自分で色々拡張して使っている知佳の言うことだ。

 絶対に有り得ないとは言い切れないか。

 

「大丈夫よ、悠真ちゃん」

「シトリー?」

「もうフレアあの子は絡繰りに気付いてるみたいだから、ね?」


 そう言ってシトリーは可愛らしくウインクをするのだった。

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