第120話:実験結果

1.


「体のどこかに触れていれば一緒に転移できるようですね」


 綾乃が確認するように言う。


 色んなパターンで何度も試した結果、俺たちが一番最初に辿り着いた実験結果はそれだった。

 しかも、『石を持っている人に触れている人』に触れた場合も、その人も一緒に転移できる。


 つまり俺が転移石を持っていて、スノウと手を繋いでいたとしよう。

 そのスノウとフレアが手を繋いでいると、俺、スノウ、フレアの三人が転移の対象になるのだ。


 ちなみに、綾乃含め今回試していることは誰もメモに取っていない。

 万が一にも外部に漏れるような状況を避ける為である。

 アナログなメモ帳にも、デジタルなメモ帳にも、だ。


 柳枝さんと未菜さんに伝える際も、俺とシトリーが一緒に行って伝えることになっている。

 万が一にもないとは思うが、盗聴や盗撮されている可能性を考慮してだ。

 何故シトリーなのかと言うと、魔法で盗聴や盗撮している機械を破壊できるから。

 半径1km範囲くらいなら楽勝だと言っていた。


 現状、最も警戒しているのはアメリカによるその手の干渉だ。

 俺の周りにアメリカの――大統領絡みの人員がうろついていることは既に把握している。

 今の所俺たちに害をなすようなことはないので精霊たちも放っておいているが、ずっとそうとは限らないからな。


 そしてその干渉一度目がたまたま転移石について話している時だったりしたら最悪のシナリオだってあり得る。


 ちなみに俺の言う最悪のシナリオとはアメリカが転移石を軍事利用すること――ではなく。

 精霊の誰かがブチギレてアメリカが大変なことになるというものだ。


「それじゃ次は、どれくらいの物までなら一緒に転移してくれるか、だな」


 ちなみに既にアスカロンくらいの大きさなら一緒に転移してくれることは試してわかっている。

 まず、一度に持てる数の制限を調べるために俺が大量に小石を詰めた袋を持って転移石を使ってみた。


 これは問題なく転移成功。

 少なくとも1000個くらいは入っていたはずだ。

 少なくとも魔石を大量に袋に詰めて帰りたいなんて時にも転移できないということはないようだ。


 重さや大きさに関しては簡単に調べる方法が思いつかなかったので一旦保留。

 山へ行って手頃な岩なんかで試そうかとも思ったが、どうやら法的な問題でよろしくない可能性が高いらしい。

 後で手続きを踏んで大型バスかなんかで試してみようと思う。


 そして<転移石>で転移できる距離についてだが、これは簡単に調べられた。

 少なくとも愛知から東京まで転移石で移動することができる。

 大体300kmくらい。


 というのも、ウェンディが転移石を持って風に乗って東京まで飛んでいき、そして転移石を使って帰ってくるという荒業をこなしたからだ。

 

 ……ちなみにこの実験でウェンディは5分くらいで行って帰ってきたんだけど、これって単純計算で秒速1kmくらいで東京まで飛んでいったってことになるんだよな。

 戦闘機と同じかそれより速いくらいの速度らしい。

 

 これの何が凄いって、俺がついていっていないのにこの速度ということだ。

 俺との距離が離れるほど精霊の力は制限されるはずなのに、自分一人を移動させる程度ならばこの超スピードで動けるということだ。


 改めて実感したが、本当にヤバイな、この姉妹。

 それに長距離移動はウェンディの方が適しているらしいが、短距離ならシトリーはもっと速いとのことだしな。

 

 そして最後に最も重要な実験。


 綾乃とティナに転移石と一緒にホテルで待機してもらい、俺たちはダンジョンの新階層まで降りる。

 そして全員でおてて繋いで綾乃の元まで転移――ということだが。


 これもまた、本当にあっさり成功してしまった。

 

 どうやらダンジョンの中だろうが、新階層だろうが、問題なく転移できてしまえるようだ。

 これに関しては俺の転移召喚もダンジョン内外関係なく出来ていたので可能だとは思っていたが……


「……今の所、『できたらいいな』と思っていることは全部できているような状態ですね」


 できることリストを自分の頭の中だけで記憶している綾乃が言う。

 こういう重要そうなことをメモに取れないって不便だよな。

 人がどれだけ外部メモリーに頼って生きているのかを実感している気がする。


「便利すぎて怖いくらいだな、こりゃ。22世紀から来た猫型ロボットの道具でもこんな便利って訳にはいかないだろ」

「豆知識。連載初期は21世紀から来てるって設定だった」

「マジで?」

「マジ」


 なんでそんなこと知ってるんだろう、知佳こいつ……


「とりあえずあれだな。これは、しばらくはティナに持ってもらおう」

「えっ、わたし?」


 俺は転移石をティナに渡す。

 当の本人は面食らったような表情を浮かべているが、順当に考えればティナ以外には考えられないだろう。


「俺たちは万全の体制で守っているつもりではあるけど、やっぱりダンジョンだと何が起きるかはわからない。万が一俺たちと逸れるようなことがあったら、すぐそれを使って戻るんだ」


 そして次に手に入れたら今度は知佳に持ってもらおう。

 俺は一番最後で良い。

 理由は単純、俺には転移召喚がある。


 万が一逸れた時、俺が一番安全に離脱できるのだ。


「……緊急脱出する手段があるなら、私も……」


 綾乃が何事かを小さな声で呟く。


「ん? どうかしたか?」

「……なんでもないです! これからダンジョンへ向かうんですよね?」

「まあ、そうだな。ティナも月曜からまた学校があるし、そう長くはいられない。それまでに全員用の転移石を用意したいし、なんならあの忍者リザードマン用の対策もまだティナ無しではやれないからな」

「じゃあ、私はここで仕事して待ってますね!」

「ああ、頼むよ」


 なんか、空元気な感じだが大丈夫だろうか。

 あまり元気なさそうだし、帰りに豊橋ご当地のスイーツでも買ってきてあげよう。

 そういうのがあるのか、実は俺知らないんだけどな。


2.


「やっぱティナがいると楽勝だな」

「役に立ててるならよかった」


 ティナが嬉しそうにはにかむ。

 年相応に可愛らしい表情だ。


「役に立ってるなんてもんじゃないぞ、大助かりだ」


 新階層に降りてまだ30分ほどしか経っていないが、既に3セット――合計6つの転移石を手に入れていた。

 どうやらあの忍者リザードマンを倒してもドロップ率100%という訳ではないようだが、それでも5割くらいの確率でドロップしているような気はする。


 この調子なら、本腰を入れて狩り続ければダンジョンからの脱出用だけでなく、全国各地に転移する為の移動手段としての転移石も確保できるかもしれない。


 そうなったら自家用ジェットは必要なくなるかもしれないな。


 さくさく忍者リザードマンを狩っている最中、ふと知佳が俺に話しかけてきた。


「悠真、次スキルブックが手に入ったらどうするの?」

「……流石にもう見つかることはないんじゃないか?」

「可能性は低くないと思う」


 うーん。

 知佳が言うならそうなのかもしれない。

 どういう根拠でそう言っているのかはわからないが……確かに、そもそも知佳の影法師だってちょっと中身が特殊ではあったけどガーディアンを倒したらドロップしたものだったしな。


「もう一つ見つかったら……どうしようかなあ」


 ぶっちゃけ何も考えていなかった。

 スキルの内容があらかじめわかる訳でもないし、知佳は上手いこと使いこなしているが誰もがそうなるとは限らない。


「……特に考えてないな」


 その時になったら考えよう。

 

「そう。じゃあ、もしもう一つ見つかったらそのときは私が使いみち決めていい?」

「お前がか?」

「うん」

「……別にいいけど、何に使うんだ?」

「内緒」


 まあ、こいつに任せても悪いようにはならないだろう。

 話を聞いている精霊たちも特にそれについて反論はないようだし。


 ……けど、本当に何に使うんだろうな。

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