第109話:落ち武者狩り
1.
「オーバーキルっぽい感じはするよなあ」
モンスターの群れへ、何発も生み出して浮遊させてある魔弾――名付けて<拡散魔弾>――をぶつける。
相手が何であろうと今の所一撃で吹き飛んでいるので、どう考えてもオーバーキルだ。
天鳥さんから例のスライムボールについて色々と聞いた翌日。
知佳の探索者試験が終わるまでは新宿ダンジョンへ潜ることにしている。
今日は新階層へ潜るのでメンバーは俺と、姉妹四人だ。
ちなみに、あの後も例のスライムボールについて色々と聞いてみたのだが、かなり特殊なものであることは間違いなかった。
まず、分裂させたスライムボールは一つあたりとある大きさまでしか大きくならない。
そのとある大きさというのがちょうどあのボールが1000kgジャストになる大きさなのだとか。
大体直径2メートルくらいでその重さになるそうだ(正確な数字は忘れた)。
あの不思議素材の活用方法についてはこれから探っていくそうだが……
今の所は分裂限界なんかも見えていない。
分裂前と分裂後の同じ体積あたりの質量に変化はないそうなので本当に謎の素材である。
強いて言うなら巨大化させる際に電気というエネルギーは消費しなければならないが……そうだとしても大したエネルギー量にはならないみたいだしな。
ま、いずれにせよその辺りのことは天鳥さんに任せておけば問題ないだろう。
研究費は潤沢にあるわけだしな。
なんてことを考えながらも拡散魔弾でモンスターを殲滅していく。
ちなみにだが、新階層以前でも見たモンスターは今の所何か素材をドロップしたりする様子がない。
新階層で新たに出会ったモンスターは今の所
ちなみに牛鬼も素材はドロップしていたはずだが(ブロック肉みたいなやつ)、あれは俺が影の世界に取り込まれる際に一緒に消えてしまったらしい。
「便利になったわねえ、あんた」
モンスターを危なげなく蹴散らしていく俺を見てスノウが感心したようにこぼす。
「便利って、言い方がなんか雑だな」
「でも便利は便利でしょ?」
「まあな」
これまで道中の戦闘はほとんど精霊に任せていたからな。
それに、今やボスだって倒そうと思えば倒せてしまう。
少し前までの自分を比べればかなりの成長率だと我ながら思う。
多分だが、スノウと出会った時のあのゴーレムだって今なら倒せるだろう。
とは言え……多少便利になった程度で、スノウたちと肩を並べるくらい強くなったかと言うとそれはまずあり得ないのだが。
俺の場合、力の加減が効かなさ過ぎるし、出来ることもまだ少ない。
そもそも単純な破壊力という点で見ても、フレアやシトリーなら俺と同じようなことができそうだし。
ウェンディとスノウの力は破壊という方面にあまり特化しているものではないのでどうなるかはわからないが……
新階層も3層目だ。
何が起きるかはわからない。
俺がどれだけ強くても困ることはないのだから、これからも精進は続けよう。
「ん……シトリー姉さん、気づきましたか? 2時の方向です」
「んー?」
前方を歩いていたウェンディが立ち止まる。
シトリーが2時の方向へ視線を向け、しばらくして……
「……なんだろうね、あれ。お侍さんかな?」
「……侍?」
9層にいた本来の(?)ボスである首なしの侍が脳裏をよぎる。
「ウェンディ、そいつって首あるか?」
「はい、あります。マスターたちが遭遇したボスとは違う種類のモンスターでしょう。それに、数が……30体くらいはいるように見えます」
「……多いな」
「はい、多いです……どうしますか? 遭遇する前に倒すことも出来ますが」
うーん。
恐らく新しいモンスターだし、ちょっと見てみたい気がする。
「もし戦闘になってもどうにかなりそうか?」
「マスターだけでも十分対処できるかと」
「なら、俺が戦ってみる」
ということで新モンスターとの戦闘だ。
2.
「……なんだこいつら」
実際に遭ってみると、その異様さがよくわかった。
侍――というよりは落ち武者、だろうか。
血に濡れた鎧を着た武者たちの集団である。
ただし、全員が能のようなお面をつけている。
そこまでの魔力は感じない。
とは言え、そこらにいるオークやゴブリンなど比べ物にならない程強くはある。
というか、天狗や鬼だって比較対象にすらならないぞ、これ。
あれを剥ぎ取った下がどうなっているのかちょっと興味があるが、妖怪というかその類なのはなんとなく見てくれでわかるので、どうせろくなことになっていないんだろうなというのも想像はつく。
精霊たちの方を見てみるとウェンディとスノウはけろっとしているが、フレアとシトリーは若干引き気味だった。
二人はこういうホラーっぽいのに弱いのかもしれない。
「とりあえず――」
どんな見た目なのかはわかったから、先制攻撃で終わらせてしまおう。
拡散魔弾を展開し、そのまま落ち武者たちの元へ突っ込ませる。
連続した爆発音が轟き、同時に巻き上がった砂埃が晴れた時には既に光の粒に――なっていなかった。
バラバラになってはいるが、鎧のパーツや吹っ飛んだ頭などがそのまま残っている。
「……再生能力が高いタイプか?」
「お、お兄さま、動いてます!」
フレアが半分悲鳴みたいな感じで叫ぶ。
その先では鎧たちがひとりでに動き出し、元の形へと戻っていく。
吸血鬼を相手したときにも思ったが、こうやって治るタイプは厄介なんだよな。
俺が力ずくで倒すよりもスノウあたりが完全に凍らせるか、ウェンディがもう修復不可能なまでに細切れにするかのどちらかの方が手っ取り早いだろう。
と――
落ち武者のうち、一体がガチャガシャと音を立てながらこちらへ進み出てきた。
そしてボロボロの刀を抜き、こちらに向けて構える。
……なんだ?
「マスター、これは……<一騎打ち>、ではないでしょうか」
「……一騎打ち?」
いや、もちろん文化としては知っている。
両陣営から一人ずつ代表者を出して勝ち負けを決めるようなものだ。
……再生するとは言え、一対一ならなんとかなるか。
「あたしが凍らせて終わりにしようか?」
「いや、一騎打ちが望みだって言うんならやってやろうじゃないか。それでこいつらの魂も浮かばれるかもしれないしな」
「別にこいつら人の亡霊とかじゃないわよ。ただのモンスター」
「わ、わかってるよ」
オークとかゴブリンも人型っちゃあ人型だが、落ち武者のように完全に見た目が人だとやっぱりちょっと感傷的になっちゃうんだよな。
あの吸血鬼はちょっと別だが。
特に落ち武者と言えばこの世に未練があって化けて出てくる、みたいなイメージが強いせいかもしれない。
歩み出た俺に――落ち武者はボロボロの刀を突きつけた。
俺も武器を取って構える。
この武器……試作型E.W.は厳密には刀ではないが、形は似たようなものだ。
これで我慢してくれればいいが。
落ち武者は腰を低く落とし、刀を中段に構える。
なんというか、様になっている。
未菜さんと対峙している時……とまでは言わないが、それに近い圧を感じるようだ。
やがて――ふっ、と先ほどまで鎧をガチャガチャ鳴らしていた奴と同一人物(?)だとは思えない程静かに、そして恐ろしい程に速く落ち武者が動いた。
咄嗟に足を一歩引くと、先程まで俺の首があった場所を刀が通過していった。
ボロボロだし錆びてもいるようだが、もし当たれば首が落ちていたかもしれない。
そう感じるほどの太刀筋だ。
てかこれ、
「悠真ちゃん!」
シトリーが警告の声を発するよりも先に俺は更に半歩身を引いていた。
額すれすれの位置を返す刀が通過していく。
ここ二ヶ月間、未菜さんやウェンディにぼこられ続けた成果が出ているな。
速いし、強いが――あえて視覚を強化せずとも避けられる。
「――ふっ!」
次に落ち武者が動く前に、俺の振るった武器がその胴体を突き崩した。
ガシャアン、と派手な音を立てて鎧が飛び散り――
今度は再生しないで、光の粒となって消えた。
その場には何かの巾着袋のようなものが残っている。
多分、ドロップ品だ。
……もしかして魔法で倒すと再生して、物理で倒すとこうしてちゃんと倒せるとかそういう感じなのだろうか。
或いは一対一じゃないと成仏(?)してくれないとか……
そんなことを考えていると、次は俺だとでも言わんばかりに落ち武者のうち一体がこちらへ進み出てきた。
……これ、全員相手しないとダメ?
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