第98話:測定会
1.
さて、アメリカへ魔力測定器を融通してもらおうと考えたところまではいいのだが。
ホワイトハウスへ電話してみたところ、大統領まであっさり繋がってしまった。
『魔力測定器を融通してほしい?』
「はい」
挨拶を済ませ、要件を伝えると大統領の――マイケル・ジョン・ハミルトンの訝しげな声が帰ってきた。
流暢な日本語である。
改めて考えると、つい最近までただの大学生だった俺が大統領とこうして電話で話しているって、常識じゃちょっと考えられないことだよな。
いや、ちょっとどころではないか……
『その存在はどこで知ったのかな?』
フレンドリーな様子で対応してくれている大統領だが、あちらではどんな表情を浮かべているかわかったもんじゃない。
一瞬、正直に言うか迷ったが嘘をつくほうが後で面倒そうなので素直に言うことにした。
「ダンジョン管理局です」
『なるほど。まあ、君達ならば問題はないだろう。ではダンジョン管理局へ魔力測定器を届けさせよう。それで良いかい?』
「え……そんなあっさりでいいんですか?」
『こんなもので君達に貸しを作れるなら安いものだ』
「…………」
『冗談だよ、そこまで構えないでくれ』
あんたが言うと洒落にならないんですよ。
未だに心の内では何考えてるかよくわかってないんですから。
『ところで、何に使うつもりなんだい?』
「ちょっとした魔力の研究に」
『魔力の研究』
「はい」
向こうで少し悩んでいるというか、何か考えているような気配が伝わってくる。
なんだろう……
『その研究が上手くいったとき、どれくらいの影響力を持つと思う?』
「……さあ、ちょっとわからないですね」
いや、実際は……
俺の周りだけに限定すればかなりの影響力を持つ可能性はある。
なにせ下手すれば知佳が世界最強の探索者にだってなりかねないのだ。
『我々に共有してもらうことは可能かな?』
「共有……したところでこれと言った成果を得られるかはわかりませんよ。かなり個人的な研究になるので」
『構わない。個人情報が関わるようなことだとしても、必ずそれは保護されるということを約束しよう』
「……身内で少し話し合ってもいいですか」
『……了解した。測定器自体は返答に関わらずそちらへ送るようにしよう』
その後少しだけ世間話をした後、大統領との通話を打ち切った。
「はあ……」
俺はスマホをソファに投げ、身を沈める。
現在の時刻は深夜0時過ぎ。
この家で起きているのは俺だけだ。
大統領と話すのは気を遣う。
相手が偉いからではなく、こちらの意図を何もかも見透かされていそうな緊張感があるからだ。
いやまあ相手が偉いからと言うのもなくはないのだが……
しばらくソファに沈んでから
なんて思っていたら後ろからぴとっと何か温かく、好ましい感触の柔らかいものがくっついた。
そしてピーチのような匂いがふわりと香る。
「悠真ちゃん、お疲れさま」
いやまあ声をかけられる前から魔力の感じでわかってはいたが、シトリーだ。
彼女は普段夜の10時にはもう寝ているので、当然今も寝ているのだと思っていたが。
「起きてたんだな」
「んーん……寝てたけど、喉が渇いたの」
「……間違ってもカフェインはとらないでくれよ?」
「んふふ……わかってるぅ」
後ろから抱きつくようにそのまましなだれかかられるので、つまり大きな胸が思い切り背中へ押し付けられている。
大統領との交渉があるからと言ってみんなには先に寝て貰っている分、今日はご無沙汰なので否応なく意識をしてしまう部分がある。
ただでさえ今日は天鳥さんとのこともあるからな……
やんわりシトリーの腕を外しながら俺は立ち上がる。
するとやはり眠気には勝てない様子のシトリーがそのままこちらへ倒れ込んできたので、慌てて抱きかかえた。
うーん、全身柔らかい。ふわふわである。
太っているというわけでもないのに、何故男の体とはこうも違うのだろうか。
お姫様抱っこのような形になりながら、部屋まで運んでやる。
ムラッと来ないと言ったら嘘になるが、ここまで純粋に眠そうな相手を襲う気にもなれない。
いや、なれないと言っても嘘になるか。
幾らデリカシーがないと散々知佳に言われてきた俺だって眠そうな人を相手に自制をきかせることくらいはできる。
うん、これが正しい。
「悠真ちゃん……あんまりがんばっちゃだめだからね……」
なんて。
寝言なのかなんなのかよくわからないふにゃふにゃの声を聞きながら、俺はシトリーの部屋を出るのだった。
今日くらいはさっさと寝るか。
2.
天鳥さんとのイチャイチャ実験から3日後。
ダンジョン管理局経由で魔力測定器が我が家に届いた。
ということを近所のホテルに泊まっていた(もちろん経費は精霊迷宮事務所持ち)天鳥さんへ伝えると、うちまでタクシーですっ飛んできた。
「まさか本当に用意できてしまうとは。皆城クン、君の評価を3段階ほど改めなければならないようだな!」
なんて興奮して喜んでいた。
ちなみに3段階改まったら何が起きるのだろう。
早速、正常に動作するかどうかを確かめるためにまずは天鳥さんの数値を調べる。
数値は92。
ちょっとした実験で上がった分を除けば以前と変わりない。
次に綾乃の数値を計測した。
103。
天鳥さんよりも若干高いのは、俺と……イチャイチャすることこそないものの、ある程度一緒に暮らしている影響だろうか。
ちなみに、ダンジョン管理局から既に一般人の中央値と探索者の中央値は教えて貰っている。
一般人の中央値は大体50~60。
探索者の中央値は1000~1500だそうだ。
そして本命の知佳。
天鳥さんも既に知っている通り、イチャイチャして魔力が増えるという話ならば知佳が最も魔力の上昇量が多いと考えていい。
そしてそんな知佳の数値は――
「4076……やはり僕や綾乃さんに比べると飛び抜けているな」
4076。
一般人である天鳥さんや、多少増えている綾乃に比べれば確かに異常な程の量だ。
というか、多すぎる。
ダンジョンでの戦闘経験は未だゼロなはずなのに、既に並の探索者を遥かに超える数値になっているのだから。
「えへん」
「何故えばる」
「なんとなく」
薄い胸を張る知佳。
天鳥さんと身長はほとんど変わらないのに、残酷なほどの差が生まれている。
しかしもちろん大きいのは大きいので素晴らしいのだが、小さくても胸は胸だということを既に俺は知っている。
大きくても小さくても幸せになれる。
それが真理なのだ。
「ついでだから、キミたちも測ってみても?」
「構わないわよ。ちゃんとした数値は出ないでしょうけど」
天鳥さんの提案にスノウが答え、測定の様子を見ていた精霊たちの数値も測ることになった。
未菜さん以上の実力者……というか俺を超えるほどの力を持つ彼女達の魔力が測れるとは思えないが……
「スノウさんは10324、フレアさんが10454、ウェンディさんが9876、シトリーさんが8913、か」
数字を読み上げていく天鳥さん。
あれ……?
流石に知佳よりは大きいが、未菜さんよりも低いくらいだぞ。
「だから言ったでしょ、ちゃんとした数値は出ないわよ。表に出てる魔力は普段から抑えてるの」
スノウの説明に、他3人も頷いて同意する。
魔力を抑えるとかもできるのか……
てことは俺も抑えれば計測はできるのだろうか。
いやでも感覚的に何分の1まで抑えている、とかがわからないと結局正確な数値は測れないんだよな。
ちなみに俺もついでに測ってもらったが、やはりErrorが表示されるのみだった。
ふむ……と天鳥さんは頷く。
「精霊との接触はキミの魔力の方が増えるから今回の研究の意図にはそぐわないとしても、ここには僕と知佳、そして綾乃さんと3人もの実験体がいるわけだ。ちゃんとしたサンプルとしては少ないと言わざるを得ないが、それでもある程度の傾向自体はつかめるだろう」
にやりと天鳥さんは笑みを浮かべた。
マッドなサイエンティストな感じのえみである。
「好意が影響するのか、行為が影響するのか。あるいは別の何かなのか――詳しく調べていこうか」
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