第97話:研究者の性
1.
「ほら、何を照れているのだ。キミが早くそれを口に入れてくれなければ、僕がずっと恥ずかしい思いをすることになるんだぞ」
「わかってますよ……」
隣に座る天鳥さんから差し出されたスプーンに乗ったパフェの一部を一口、頬張る。
うん、甘い。
生クリームも、シチュエーションも。
「あまり乗り気じゃないようだな、皆城クン。楽しくないのか?」
「いや、楽しくないとは言いませんけどね」
合法ロリ巨乳とデート中である。
人によっていくら払ってでもこの体験をしたいとさえ言うだろう。
もちろん俺だって心躍っているさ。
だが、周りからの視線が痛い。
知佳と一緒にいる時にも同種のそれを受けることが多々あるのだが、ただでさえ天鳥さんは身長が低いのに、俺がなまじそこそこの身長があってそこそこのガタイなので絵面がかなり犯罪的なのだ。
想像してみてほしい。
一見中学生に見える巨乳と、まあまあガタイのいいお兄さんが一緒にいる姿を。
俺なら通報するかもしれない。
兄妹のように見えてくれるのならまだ救いがあるかもしれないが、悲しいほどに俺と天鳥さんの容姿は似ていないしな。
「しかしイチャイチャすると一口に言っても難しいな。世の中のカップルとはどのようにイチャイチャしているのだろうか」
自分もパフェを食べながら天鳥さんは真剣な表情で言う。
絵面は女子中学生がカロリー計算を必死にしながらパフェを食べているようなもんだが、実際は如何に効率的に俺と『イチャイチャ』しようかと考えているのだから世も末って感じだ。
「世の中のカップルのことを俺に聞かれてもわかるわけないでしょうよ」
「キミは知佳とはイチャイチャしていないのか?」
「してない……とは言いませんけど、多分一般的なそれとはちょっと違いますよ。あいつが普通じゃないんで」
「キミも一般からは随分逸脱しているしな。なにせ現代日本に生きる大学生であれだけのハーレム形成をし――」
「しー! 周りに人がいるのわかってるんですか?」
慌てて天鳥さんの口を塞ぐ。
すると周りからの視線が鋭いものになった。
違うんです。
別に誘拐しようとしているわけじゃないんです。
この子が悪いんです。
ちなみに、知佳や精霊たちとの関係は既に天鳥さんへは伝えてある。
研究する際にその辺りのことを伏せておくとイレギュラーが生じそうだったからだ。
……というのは知佳の弁なので、実際どれくらい影響するのかは俺は知らない分からない。
「知佳との性行為であの子の魔力がどれくらい増えるかも測定し――」
「だーかーらー!」
この人は公共の場ということを全く考慮していないのだろうか。
それともしていてこの発言をしているのだろうか。
いや、周りの人に聞こえるような声で言っているわけではないというのはわかっているのだが、問題はそこじゃないと思うのだ。
俺がおかしいのか? 天鳥さんがおかしいよな?
「ああ、そうだったな」
天鳥さんは納得したように頷いた。
ようやくわかってくれたか。
「知佳だけではサンプルに欠ける。他の女性との性行為後の魔力も測らせてくれ」
「そういうことじゃねえよ!?」
「別にそれで機嫌を損ねるような知佳でもないと思うが」
天鳥さんは不思議そうに言った。
違うんです、そうじゃなくてですね。
時と場合を考えて欲しいんですよ。
切実に。
2.
綺麗な夜景の見えるオシャレなレストランで、例によってあまりロマンチックさに欠ける食事を終えた後、俺達は再びダンジョン管理局へと来ていた。
今度は柳枝さんも未菜さんもいないが、事前に話だけは通っていたようで受付のお姉さんに案内されて部屋へ通され、例の機械も持ってきてもらった。
ということで。
天鳥さんの魔力を測ると、その数値は89となっていた。
増え幅としては……どうなんだ?
1日で56から89まで増えていると考えると、結構増えているのではないだろうか。
……いや待て。
冷静に考えたら増え過ぎじゃないか?
だって単純計算で、2年も同じことをすれば未菜さんの21422と数値を追い抜いてしまうことになる。
10年間ダンジョンの最前線で戦い続けてきた未菜さんの数値を、だ。
同じことを天鳥さんは数字を見た瞬間に既に察していたようで、スマホの画面を睨みつけるようにしていた。
「これは……僕たちの拙いとさえ言える『イチャイチャ』でここまで増えるのは想定外だな。いや、『イチャイチャ度合い』よりも時間の方が重要なのか……?」
ぶつぶつと呟き始める天鳥さん。
研究者からイチャイチャ度合いとかいうギャルゲーでもきょうび聞かないような言葉が出てくるのがちょっとおもしろいが、そんなことを言っている場合でもないのだろう。
「皆城クン、ちょっと頭を下げてくれ」
「はい?」
言われる通りに頭を下げると、そのままぐいっと引き寄せられて天鳥さんの胸と太ももに頭が挟まれた。
もう一度言おう。
天鳥さんの胸と太ももに頭が挟まれた。
何やってるんだこの人。
咄嗟に頭をひこうとすると、がばっと抱きかかえられるようにしてロックされる。
もちろん無理やり引き抜くことはできるが、その時の加減を間違えれば天鳥さんの腕ごと引っこ抜くようなことになるかもしれない。
断じて胸と太ももの感触が気持ちいいからではない。
断じて胸と太ももの感触が気持ちいいからではない!
「……驚いたな」
しばらくその状態で俺が呼吸をしていると(他意はない。呼吸をしないと死んでしまうだろう?)、天鳥さんが放心したように呟いた。
同時にロックも緩んだので、俺は名残惜しく思いながらも頭を離す。
「今の一連の動きだけで僕の数値が89から90まで上昇した。今僕とキミがくっついていた時間はぴったり100秒。100秒で1の上昇だ。1日キミとくっついているだけで864もの上昇が見られる可能性がある。とは言え、もしかしたら89.9が90.0になっただけかもしれないのでもう少し検証は必要だが……」
頭がおっぱ……いっぱいいっぱいになっているのですぐには言っていることの重要性が理解できなかったが、それってかなりとんでもないことになるんじゃないか?
もし仮説通り1日に864も上昇するとなれば、天鳥さんと一ヶ月もずっとああしていれば未菜さんの魔力量を超えてしまうということになる。
「時間……よりは密着度で変わるのだろうか。要検証だな……この機械を持ち帰って知佳あたりに色々調べてもらうのが一番手っ取り早そうだが……」
「あ、あのー?」
「今できることは今してしまった方が手っ取り早くはあるか」
何やら考え込んでいる天鳥さんには既に俺の声は届いていなようだ。
彼女は急に立ち上がると、上着を脱ぎ始めた。
そしてそのまま下着姿……になる前に少し考え、手を背中側にまわしてなにやらごそごそした後、するりと何かしらの布をシャツの下から抜き取った。
何かしらの布というか、俺もいい加減何度も見ているのですぐにわかるが、あれは女性用胸部補正下着だ。
つまりブラだ。
「何してんすか」
「ちょっと手を借りるぞ」
抵抗はしない。
何故なら天鳥さんの腕がすっぽ抜けてしまうかもしれないからだ。
断じて俺がそうしたいからではなく、天鳥さんの身を案じてのことである。
そうして俺の手は天鳥さんの瑞々しい肌に触れた。
マシュマロみたいな感触が掌に伝わる。
ダメだ。
無心になれ皆城悠真。
これは検証――いわば実験だ。
下心を持ち込むわけにはいかない。
そして、頭の中でおっぱい仙人がブレイクダンスを踊り始めたあたりで俺の掌は解放された。
温い感触が未だに残っている。
「ふむ……今もまた100秒だったが、今度は2上昇しているな。密着度……あるいはキミ自身の感じ方によって差異が出てくるのかもしれない……が、これ以上ここで実験するのは流石に憚られるな」
などと常識人っぽいことを言って、天鳥さんはブラをかばんにしまうと上着を羽織りなおした。
なんで着け直さないんだろう。
あれだけ大きいと着けるのも大変なのだろうか。
いくらでも手伝うのに。
「どうにかしてこれを入手できれば研究も捗るんだが……」
天鳥さんは箱を眺めて思案げに呟く。
放っておいたらそのままポケットに放り込んで逃走してしまいそうだ。
……俺の魔力のあれこれよりも素材の方を優先してほしいのだが、その為の研究所が出来ていないのだから仕方のない話なのか。
そしてどうしても欲しいというのなら、俺に心当たりがないわけでもない。
というか、多分だがほぼ確実に入手できるルートが一つだけある。
ちなみに、ダンジョン管理局ではない。
俺達が持ち帰っていいようなものなら既にその提案をされているだろう。
こちらの事情もわかっていることだからな。
それとなくそのことを伝えると、天鳥さんは「本当か!?」と胸を物理的に弾ませて喜んでいた。
……大統領に連絡してみるか。
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