第96話:魔力測定器
「ふぅむ……これが魔力を計測する機械、か」
体力測定の翌日。
俺は天鳥さんを連れてダンジョン管理局へ来ていた。
と言うのも、ここへ俺とスノウで初めて訪れた際、魔力を測る機械があるみたいなことを言っていたのを思い出したからだ。
それを天鳥さんへ伝えたところ、実物を見てみたいと言い出したのである。
これからはダンジョン関係の研究に注力してもらう関係上、その辺りの構造は知っておいてもらって損はないと思ったので見て貰っておくことにしたのだ。
もちろん事前に柳枝さんへ連絡は入れてある。
その柳枝さん自身は相当忙しいようで、いつもの部屋で待っていたのは未菜さんだったが。
彼女も忙しいには忙しいはずなのだが、まあ……柳枝さん程ではないのだろう。
あの人、頑張りすぎててそのうち倒れるのではないだろうか。
で、魔力を計測する機械だという手のひらサイズの小さな箱を現在天鳥さんは色んな角度から眺めているわけだが。
「見た目はただののっぺりした白い箱なのだが……これが計測したデータはどうやって受信しているんだ?」
「私に聞かれてもわからん」
未菜さんは困ったように眉を下げる。
まあ、この人機械音痴だからなあ。
……なんでここにいるんだろう。
未菜さんから説明を聞くのは諦めたようで、天鳥さんは一緒に纏められている仕様書のようなものに目を通し始める。
こうなってしまうと俺も暇になる。
「そういえば、この間の件――君が倒れたということを聞いてアメリカから見舞いの品が送られてきたぞ」
「え、ダンジョン管理局にですか?」
「あちらの気遣いだろうな。アメリカから直に送られてきたものともなれば多少は警戒するだろう」
「別に警戒とかはしませんけど……」
「隠しカメラや盗聴器がついていないとも限らないぞ?」
「あー……」
確かにダンジョン管理局が間に噛んでいるのならそういう心配はないのか。
「ちなみに、こちらでチェックしたところ特にその手のものが隠されているという事もなかった。今ここで君へ渡せばいいか? 持ってこようと思えばすぐに持ってこれるが」
「ちなみになんなんです、見舞いの品って」
「私はあまり詳しくないのだが、アニメグッズっぽかったぞ。ロボットっぽい感じの……あれは君の趣味なのか?」
「……というより、大統領の趣味ですかね……」
日本のアニメが好きだと言っていたので多分何かしらの有名所のグッズを送ってきたのだと思う。
現金とかをぽんと渡されるよりはよほど健全かもしれないが。
打算的なものを渡されてこちらで悶々とするのも嫌だし……と考えている時点で既に大統領の術中にハマっている可能性はあるが。
どこか底知れない感じがするんだよな、あの人……
まあ世界一の大国の大統領ともなればそんなものなのかもしれないが。
少なくともこちらに危害を加えるつもりはないと信じよう。
「それと、私用の刀が半日程前に完成している。やや重めではあるが、扱えない程ではないし、明らかにこれまでの材質よりも頑丈だからな――これから重宝させてもらうとするよ」
俺がアメリカの鉱石ダンジョンから持ち帰った例の素材で作ったものだろう。
「俺でも
「だといいんだが。君のところの――永見知佳さん、だったかな? 彼女がスキルを手に入れたと聞いて私も少し焦っているからな」
「焦ってる? 未菜さんがですか? そりゃまたどうして」
「さあ――どうしてだと思う?」
未菜さんが俺に流し目を送ってきた。
不意にされる色っぽい仕草に少しドキッとしてしまう。
「キミはスケコマシというやつだな」
いつの間にか仕様書を読み終わっていたのか、天鳥さんがぼそりと言った。
今の話の流れで何故そうなるのだろうか。
というか結構それ分厚い資料だけど、もう全部読み終わったのか?
頭のいい人は速読もできるのだろうか。
「何かわかったんですか?」
「そうだな、一度分解してみないと……いや、分解したところでわかりはしないだろうな。未知の素材に未知の技術――一体これは誰が作ったんだ。人智を超えていると言ってもいいくらいだぞ」
誰が作ったって……
「管理局の技術者ですか?」
未菜さんに確認してみる。
だが、彼女はふるふると首を横に振った。
ということは、
「いや、違う。製作者はアメリカ在住のとある研究者だと言われているが――素性は明かされていないんだ。8年程前だったかな。ある日突然アメリカがこれを持ち出してきたのさ」
「アメリカが……?」
大統領に聞いたら何かわかるだろうか。
だが未菜さんですら知らないことをあの人がホイホイ俺に教えてくれるともちょっと思えない。
フレンドリーな人ではあるが……
「本当に人に作れるようなものか……?」
天鳥さんは首をひねる。
知佳が信用している程の研究者が作り方の想像すらつかないもの、と考えると確かに不思議なものだ。
材質も未知のものと言っていたが……もしかしてダンジョンと関係あるのだろうか。
いや、魔力を計測するような機械の時点でダンジョンと関わりがない訳はないのだが。
しかし特殊な金属――素材がドロップするようになったのは最近の話だよな……?
少なくとも8年前にそんなものがあったとは思えない。
あるいは新宿ダンジョンのような町並みを再現しているパターンで、金属を取り扱っている工場みたいなものがあってその素材を使っているとか……でもそれだと未知の素材とまでは言わないか。
「少し失礼するよ」
天鳥さんはスマホを取り出すと、何やらしばらく操作をし始めた。
そして――
「ほら、これを見てくれ」
と天鳥さんに見せられた画面には、2つの何かしらの数値のようなものが表示されていた。
56、という数値と21422、という数値だ。
「これは?」
「この機械で今計測した僕と彼女の魔力量だ。少ない方が僕だろうな」
「えっ……」
今してたことと言えばただスマホをいじってただけじゃないのか?
「仕様書に乗っているURLにアクセスすると近くにあるこの機械を操作できるようになる。しかも結果はそのままそこへ表示されるときた。随分便利に作られているじゃないか」
「ゆーあー……?」
未菜さんは聞き慣れない単語に不思議そうにしているが(URLくらいは知っておいて欲しかった。現代人として)、流石に俺は天鳥さんが言っているその内容が理解できた。
便利……なんてもんじゃない。
魔力の計測なんて人智を超えた所業をたかだかスマホ経由でもできてしまうなんて。
「とんでもない代物だぞ……よくこんなものが今まで表に出ずにいたものだな」
「……というか、こんなの出回ったら格付けが始まりますよ」
「だろうな」
魔力……人間に隠された力を可視化する。
しかもこんなにお手軽に、だ。
この機会そのものはレアなのかもしれないが、今ここで俺達が手にしている以上、どうしても入手が不可能というわけではない。
「私はよく覚えていないが、それを渡されるときにやたらと大量の誓約書も書かされていたぞ。柳枝が」
機械関係の話が終わってようやく理解できる内容になったからか、未菜さんも口を挟んでくる。
「……それって今ここで俺達に見せてて大丈夫なんですか?」
「許可を出したのも柳枝なのだから問題はないのだろう。多分」
多分ですか。
そうですか。
まあ柳枝さんが良しとしているのなら大丈夫だろう。
「……にしても、一般人……天鳥さんと未菜さんとでそんなに差があるんですね」
56と21422ともなると、単純計算で400倍弱は違うことになる。
この数値自体、もしかしたら大きくなればなるほど1の差が指数関数的に大きくなっていったりもするかもしれないのでこの概算が意味のあるものなのかはわからないが。
「あれ、そういえば俺はどうだったんですか?」
「最初はキミとこちらの伊敷さんを計測しようとしたのだが、キミの方はErrorと表示されたんだ。仕様書には全く魔力を持たない者はErrorと表示されると出ていたが……先日の様子を見るに明らかにそうではないよな?」
あ。
そういえば俺は逆に大きすぎてError表示になるみたいなことを言っていたような気がするぞ。
「表示されている数字の大きさからして、恐らく99999以上の数値は測れないんだろうな。どこがどういう仕組になっているかを仮に解明できたとしたらキミの詳しい数値も知ることができるかもしれないが……」
「まあ……興味がないと言ったら嘘になりますけど、それを知ったところで何ができるってわけでもないんで、素材の方を重点的に研究してください」
「心得た」
とりあえずの用事はこれで終わりか。
俺と天鳥さんが立ち上がると、未菜さんが俺の顔をじっと見ていた。
「……どうしました?」
「いや、元気そうで良かったと思ってな。君に会いたいが為に柳枝に仕事を押し付……じゃなくて仕事を片付けて来た甲斐があった」
ふっと未菜さんは男前に笑った。
言っている内容はともかく。
「仕事をサボる口実が欲しかっただけじゃないんですか?」
「そういえば、悠真君と天鳥さんは『イチャイチャして魔力を増やす』という実験の為に今日はここへ来て魔力を測ったんだったよな?」
「ええ、まあ」
口にするとかなり恥ずかしい内容だが。
「ということはまた後でここへ寄るのだろう? その時に私も少し君とイチャイチャさせてもらおうかな。時間に対する増え方も見れば実験としてはより良いサンプルになると思うんだが」
未菜さんはちらりと天鳥さんを見ると、天鳥さんは天鳥さんで「確かに……」とか小声で言っている。
俺は得しかしないので断る理由もないが、また仕事を抜け出すということだろうか。
柳枝さんの負担がすごいことになるぞ。
なんて風に思っていると、
「いや、やはり一日イチャイチャした方がお得かな?」
などと少しにやつきながら言ってきた。
あ、なるほど。
からかわれているのか。
「なら今度一日中イチャイチャしましょうか。朝から晩まで。おはようからおやすみまで。それでどれくらい増えるか実験してみましょう」
「えっ」
「えっ?」
未菜さんが顔を真っ赤にしてフリーズしてしまった。
気まずい静寂。
そんな中、天鳥さんは変わらぬペースで呟くのだった。
「なるほど、それも有りだな」
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