第88話:メイン武器

1.



「下手なイメージ力でやったら最悪腕だけが召喚されるとかになるかもしれないから、すぐに試すわけにはいかないわ」


 との事で実験するのはもう少し後だという話になった。

 ウェンディ曰く部位欠損も《《千切れた側》があるならば治癒魔法である程度までは治るらしいのだが、流石にリスクを冒してまでやることではないということになった。


 一度失敗してトラウマになったりしたら二度とできなくなる恐れもあるらしいし。


 うん、やめておこう。

 一発で上手くいく自信がない。


 というわけで、今のところは精霊を自分の近くに呼び出す召喚ももちろんだが、四人目である長女の召喚がとりあえずのやることである。


「……と、なると……」


 まあ考えるまでもなくあれだよな。

 精霊たちとイチャイチャする必要があるわけだ。

 多分まだ魔力は足りないし。


 そう思っていたら、俺のことをじっと見ていたフレアは言った。

 じっと見ていたと言っても、いつも気付けばフレアとは目が合うような気もするけど。


「もう魔力は足りているのではないでしょうか。元々が大きすぎるのでわかりにくいですが、恐らく……」

「そうなのか?」

「はい。いつも見ているのでわかります」


 いつも見ているってのは比喩とかじゃないんだろうな……


「念のため、もう1日見ましょう。召喚するのは明日で、今日は安全マージンを取る為に費やしましょうか」

 

 というウェンディの提案でそういう運びになった。

 今日の夜は忙しくなりそうだ。

 色んな意味で。

 

 にしても、とうとう明日か。

 四人目の召喚。

 とは言っても結構短いスパンでぽんぽん召喚してはいると思うが。

 

 もしかして四人揃った後も五人目、六人目とどんどん召喚できるのだろうか。

 いやでもダンジョン攻略にそんなたくさんいてもむしろ邪魔になりそうな気もするな。


 現状でも俺と精霊三人、そして新たに加わる知佳で五人。

 そこへまだ見ぬ長女が増えて六人ともなれば、狭いダンジョンなんかだと混雑して攻略どころではなくなるような気もする。


 交代制でやるという手もなくはないが……

 まあその辺りは追々決めていけばいいだろう。


 ……いや、待てよ。

 あの吸血鬼が言うには、スノウ達は精霊に存在だ。

 四姉妹以外にも精霊がいるとして、その人たちもみんなあいつの――あいつら(?)の犠牲者なのだろうか。

 

 スノウ達だけが被害にあったと思っていたわけではない。

 わけではないが、そう考えるとますますあいつを許せなくなるな。

 依代がどうとか言っていたし、多分奴本人が死んだ訳ではないのだろう。


 いずれまた会うような時が来ればとっちめて問い詰めてやる。


 なんてことを考えていると、電話がかかってきた。

 柳枝さんからだ。



2.


「お兄さまの武器、楽しみですね!」

「だな」


 フレアが腕に纏わり付いているのはもう慣れたものだ。

 あの電話で、遂にダンジョンの新階層からドロップした素材を使っての武器が完成したとのことで呼び出しを受けたのだ。

 

 

 もう勝手知ったるものでいつもの応接室へ通されると既にそこには柳枝さんが待っていた。

 

「こんにちは」

「ああ、こんにちは。もうすっかり良さそうでなによりだ……そちらは、フレアさん、かな?」


 ちらりと柳枝さんはフレアの方を見る。


「ええ、初めまして。お兄さまがいつもお世話になっております」


 腰を深々と折り曲げて挨拶をするフレアに、柳枝さんは困惑したような表情を浮かべた。


「……お兄さま?」

「あー、そう呼ばれてるってだけで血縁関係はないです」

「はい、お兄さまと血の縁はありません。内縁の妻みたいなものではありますけど」

「違うからね!?」


 さらっととんでもねえことぶっ込んでくるなこいつ。


「君のところは愉快そうだな。まあかけたまえ」


 苦笑しながら柳枝さんに座るように促され、俺とフレアが対面のソファに座る。

 間にあるテーブルには横に長い――大体1メートル半くらいあるように見える箱が置いてあった。

 しかも普通の箱ではなく、重厚感漂う高級そうな素材で作られている。

 ……多分これあれだな、俺が愛用しているシュラークという棍棒に使われている素材と同じもので作られているな。


「これが?」

「ああ、君の持ってきた亀の甲羅型の<case;2>を削り出して作ったものだ。刃は君の指定で付いていないが、形としては竹刀……いや、木刀に近いものになっている」


 開けてみるように目で促され、俺は箱を開けてみる。

 そこには言葉通りあのダイヤもどきみたいなものを削り出されて作ったものだと思われる鍔無しの刀があった。

 もはや工芸品のような美しさだな、これ。


「持ってみても?」

「ああ……だがそれはそう見えて五百㎏はあるからな。君ならば平気だとは思うが」

「なるほど」


 立ち上がって手に取ってみると、確かに結構重量感はある。

 だがこれを振れないということはないだろう。


「平気そうだな」

「ええ、むしろ良い感じの重さです」

「分かってはいたが、凄まじいな」


 俺はゆっくりと剣を箱の中に戻した。


「これ、名前とかあるんですか?」

「名前という程でもないが、試作型E.W.と呼ばれている」

「試作型E.W.?」

「Evolution、WeaponでEWだ」

「進化した武器、ですか?」

「そうなるな」

「試作型というのは?」

「研究員たちはまだまだ改善の余地があるから、と言っていたが半分は遊び心だろう」


 お茶目だなあ。


「その素材も一見鉄のような性質を持っていた爪型の<case;1>も、よく似たもの――つまり鉄は地球上に既に存在しているが、そのよく似たものよりも更に優れていると言っていいようなものだ。そして亀の甲羅型の<case;2>も同じく性質も見た目もダイヤに似てはいるが、耐熱性に優れた金属よりも更に高温まで耐えることができる上に硬度も段違いだ」

「メチャクチャですね……」

「ああ、メチャクチャだな。研究者泣かせだ! とか言いながら連中は狂喜乱舞していたよ」

「へ、へえ……」


 よく分からないものを研究するのは楽しいのだろう。

 あまり想像できない世界だが。


「……でもダイヤより硬いものをよく加工できましたね?」

「……それが問題なのだ、皆城君」

「へ?」

「硬度でダイヤを遙かに上回り、その他武器に適した耐性は尋常ではない数値を叩き出しているcase;2だが、何故か加工しようとすると簡単に加工できてしまう。まるでそうされることを素材そのものが受け入れているようだ、と研究者たちは言っていた」

「……まさか。素材に意思があるとでも?」

「あるいは、それを排出したダンジョンに意思がある――のかもな」

「…………」


 ここ最近色々あり得ないことが起きているし、それもまたあり得ないと一蹴することはできない。

 そういえば、柳枝さんは素材以外にも新階層の出現タイミングなんかにも作為的なものを感じると言っていたか。

 

「まあ、君はそう難しく捉えなくてもいい。その為の研究者だ。明確な答えが出るとは思えないがな」

「ですよね……」


 ダンジョン絡みのことは初出現から10年経った今もなお謎だらけだ。

 そもそも一番人間の生活に根深く関わっている魔石ですらよくわかっていないことがあるのだから。


「それで、だ。その武器に付与魔法エンチャントはできるか?」

「あ……そういえば」


 ダンジョンでドロップした素材は魔力耐性が高い。

 それはあの爪っぽい素材で既に立証済みだ。

 もちろん全ての素材がそうだとは限らないが……スノウ達の見解では恐らく全て似たような性質を持っているだろうとのことだったので、これもそうだろう。


 柳枝さんにはそれを伝えてあったので、結果がどうなるか気になるのだろう。

 もちろん研究者にも情報は共有されるのだろうが。


「それじゃやってみますね」


 もう一度試作型E.W.を手に取り(この名前、ちょっと気に入ってきたかもしれない)、俺はそこへ魔力を流し込んでみる。

 普通の武器ならば砂のようになって崩れてしまうが――


「……崩れない」

「それで強化はできてるのか?」


 柳枝さんが不思議そうに手元の試作型E.w.を見ている。

 だがそれに関しては俺はなんとも言えない。

 まさかここで素振りでもするわけにもいかないし。


 フレアの方を見ると、こくりと頷いて「確かに成功してます、流石ですお兄さま!」と言ってきた。

 この場合流石なのは俺ではなくこの武器の方な気もするが……


「つまりこれで俺はまともな武器を手に入れたわけだ。そういえば、柳枝さんとみ……伊敷さんにも同じ物を作っていいと言いましたよね。精霊たちが言うにはこれができるだけで結構変わるみたいですよ」

「まだ素材価値自体がよくわかっていないからな、おいそれと手を出すわけにもいかん……と言いたいところだが、既に伊敷の分は製作に取りかかっている」

「未菜さんは普通の武器でも付与魔法を成功させてるからなあ……」


 もしかしたら未菜さんもこれで大幅パワーアップ、なんてことがあるかもしれない。

 その後は今後の話を少しして(明日新たな精霊の召喚予定だということなど)、今日のところは俺が武器を持ち帰って終わり――というタイミングで。

 重要な話を思い出した。

 

「あ、そういえば、素材の研究をこちらでも進めようと思っているんです」

「ほう?」

「身内の知り合いにいい人がいるみたいで……」

「うちの研究部に投資したいという話を緒方くんから聞いているが……」

「それともまた別に、です」

「君達の場合は途轍もない額を稼いでいるからな。税金対策の一環というわけか」


 ふっとニヒルに柳枝さんが笑う。


「まあ、そう言われるとそうですとしか答えようがないですけど……ダンジョン産業の発展に寄与したい、ということで」

「別に責めているわけじゃない。研究部への投資は純粋に助かるからな。それに実際、この新素材の研究が進めばダンジョン産業はまた更に進化することになるだろう。そもそも税金対策はどの会社でも行われている。気にするな」

「そう言ってもらえると助かります」


 ……にしても、ダンジョン産業の発展、進化か。

 人類はどこまで行き着くんだろうな。

 出る素材によってはどの業界にどんな影響が出るか想像もつかない訳で。

 そのうち空飛ぶ車とかが出てきてもおかしくない。

 それに加えて魔法まで使えるようになるんだから、10年前からはもう想像もつかないような世界になりつつあるのかもしれない。

 

 まだ見ぬこれからの世界に期待、ってとこだな。

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