第89話:四人目の精霊

1.


 試作型E.W.という厨二チックな名前の武器を手に入れた翌日。

 からくる疲労のせいで昼頃まで起きてこれなかったウェンディ達が揃ったところで四人目の召喚するという話になった。


 実は昨日、まだ見ぬ長女についての情報をスノウ達から仕入れている。

 というのも、魔法やスキルはイメージが大事だという話を聞いてから、もしかしたら召喚する時もイメージの力である程度左右できるのではないかと思ったからだ。


 全員でリビングに集まって、じっと俺に視線が集中する。

 フレアのときもそうだったが、そんなに見られると緊張するんだが。


 とは言え見るなとも言えない。

 特にスノウ達には。


 頼むぞ俺のスキル。

 後は神頼みってやつだ。


召喚サモン!」


 俺がそう唱えると、リビングに一人の女性が現れた。

 光の糸を集めて編んだかのような、ロングの輝く金髪。

 それに目も金眼とでも言うのだろうか。

 輝くような黄色の虹彩である。

 見るからに優しそうというか、柔和そうな顔立ちは整っているというレベルではない。

 俺の語彙力で表現するなら、女神……だろうか。


 胸は大きい。

 服をお仕上げて主張するそのバストサイズは多分俺が聞いたことないようなアルファベットだろう。

 いや、聞いたことないアルファベットなんてないけども。

 実はウェンディは隠れ巨乳なのだが、この人は隠れてない巨乳だ。

 綾乃も結構な大きさだがそれよりも大きいのではないだろうか。


 そして服装が特徴的だ。

 特徴的というか、だ。

 適当な黒いTシャツに黒いスキニーパンツ。

 なんで?

 

 いや、それはともかく。

 成功――したのか?


 そう思ってスノウ達の方を振り向くと、一様に全員が泣きそうな表情をしていた。

 そして後ろから、包容力のある声が響いた。



「おいで、みんな」



 一番最初に動いたのはウェンディだった。

 金髪の女性の胸に飛び込んで、その脇でスノウとフレアがわんわんと泣いている。

 その光景を見れば召喚が成功したかどうかなど、聞くまでもなかった。



2.



 家族団らんの時を邪魔しちゃ悪いということで俺と知佳と綾乃は外へ出ていた。

 出ていく寸前にあの女の人……長女と目があってウインクされたので多分意図は通じているのだろう。

 

「良かったですね、悠真くん!」

「ああ、本当にな」


 ポテトを齧りながら返事をする。


 ちょうど昼時だったということで俺達は近所にあるファストフード店に来ていた。

 モチーフキャラクターなのか看板キャラクターなのか知らないが、あの赤髪で赤っ鼻のピエロが子供の時はちょっと怖かった覚えがある。

 

 金なら掃いて捨てるほどあるのになんでファーストフードなのかって?

 1000億稼いでても美味いもんは美味いと思うのよ、俺は。

 特にてりやきバーガーが至高。


 ちなみに綾乃はエビバーガーで知佳はチーズバーガーを頼んでいる。

 知佳はいつも違うものを食べているので特にこだわりがないのかもしれない。


「にしても、綺麗な人でしたね~」


 うっとりしながら綾乃が言う。

 あのレベルになると女でも恋をしてしまうのではないだろうか。

 未菜さんは男前で女の人からもモテるが、あれはただその圧倒的な美しさで性別の壁をぶち壊すような感じだ。

 スノウの時にも神々しささえ覚えた程だったが、あの姉妹、本当はそういう家庭だったりしないだろうな。

 異世界の神の末裔とか……

 ……本当にありそうな気がしてきたな。

 スノウ達が色々思い出す時が来たら聞いてみようかな。

 

「あの姉妹の長女だからなあ」

「悠真はデレデレしすぎ」


 知佳にジト目でツッコまれた。


「別にデレデレはしてないからな?」

「でも視線は胸に釘付けだった」

「…………」


 それは否定できない。

 いやだって、ありゃあ誰だって見るわ。

 しかも俺の着ているTシャツと同じだからパッツンパッツンになってるんだよな。


 首から上だけ見れば超神々しいのにそのせいでちょっと残念な美人感が出ていたのも否めない。

 まああの見た目で本当に全部完璧だったらもう近寄りがたささえ感じるからな……


「まあ、あれは私でも揉んでみたいと思う程のものだったけど」


 言葉とは裏腹になんだか残念そうな表情で言う知佳。

 ああ、自分にないものを憂いているのだろうか。


「……俺は小さいのも好きだぞ?」


 一応フォローを入れてみた。

 そうしたら無言で知佳はスマホの画面を俺に見えるように弄り始め電話番号1、1……


「待てい!」

「捕まればいいのに」

「俺が悪かったよ!」

「公共の場では静かにして」

「俺が悪いの!?」

 

 まあ。

 どう見ても俺が悪かった。

 昼時でそもそも周りも結構ざわついているのでそこまで迷惑にはなっていないとは思いたいが。



「さて、いつ戻るかね」


 ファーストフードなので15分ほどで食べ終えてしまい、後は頼んだドリンクをストローですすっているだけという状況になってしまった。

 ただ食べたくてここを選んだが、そういえばアメリカにいた時に行ってみれば良かったなと今更ちょっと後悔している。

 あっちのは何から何まででかかったからなあ。


「もう少し時間を置いた方がいいとは思いますが……」

「だよな」


 スノウとフレアはガン泣きだったし。

 ウェンディもあの様子じゃ同じような状況になっているだろう。

 そこへ……まあ知佳や綾乃だったらともかく、俺が入っていくのはちょっと気まずいなんて次元の話じゃない。


「久しぶりにゲームセンターとかいく?」

「お、いいな」


 最近行ってなかったからな。


「ゲームセンターですか!?」


 何故か綾乃が興奮気味に反応した。

 どうしたんた一体。


 驚く俺に気づいたのか、綾乃はちょっと申し訳無さそうに縮こまる。


「実は、ゲームセンターって行ったことなくて……ちょっと憧れてたんです」


 そんな言葉に俺と知佳は顔を見合わせた。

 こうなったら行かない理由はないわな。



3.


 

 騒音対策の為二重になっている自動ドアの内側が開くと、一気にゲーセン特有の大音量が俺達を包み込んだ。

 

「す、すごい音なんですね!」

「だろ!? ここだと結構でかめの声出さないと聞こえないんだよ!」


 綾乃が目をキラキラさせている。

 

「あれ! あれって本物のUFOキャッチャーですか!? 大きいショッピングモールとかでしか見たことなかったんです!」

「別にそういうとこにあるのも本物ではあるけどな!」


 イ○ンモールとかのことだろう。

 ゲーセン中に入ってたりするもんな、ちっちゃいやつ。

 

「やったこともないんです! やってみていいですか!?」

「許可取らずに勝手にやればいいと思うけどー!」


 綾乃と俺が大声でアホみたいなやり取りをしている間に知佳はいつもやっているダンスタイプの音ゲーの方へとことこ歩いていってしまった。

 まああいつはあいつで満足すればそのうち戻ってくるだろう。


 俺はと言えばレース系だったりバスケットゴールにボールを入れるとかストラックアウトみたいなゲームくらいしかやることがないのだが、初めてゲーセンに来る綾乃を放置してどこかへ行くのも忍びないのでとりあえず綾乃についておくことにする。


 知佳のスマホに「UFOキャッチャーのとこにいるわ」と送っておいて、ウキウキ顔で3000円分を100円玉に両替してきた綾乃の方を改めて見る。

 

 あー……あの台は難しそうだな。

 確率機かどうかまではわからないが、少なくとも初心者が取れるような置き方ではない。

 

 でかいクマのぬいぐるみを狙っているようだが……


 綾乃は500円を投入し、6回プレイで狙いにいくようだ。

 100円で小刻みにいくよりはだいぶいい判断だが……


 しばらくして。


「アームの力弱すぎじゃないですか!? あんなの取れないですよ! 詐欺ですよ!」

「あんま大きい声でそういうこと言わないでくれる!?」


 見事両替してきた3000円を使い果たした綾乃が涙目になっていた。

 最後の500円のところで助け舟を出そうかと思ったが、なんだか必死の表情で台を睨む綾乃が面白いので放置してしまった結果がこれである。


 仕方ないな。


 近くを歩いていた女の店員さんを捕まえる。


「すみません、あそこの彼女にあのぬいぐるみプレゼントしたいんで、ちょっと取りやすいようにしてもらったりできますか? もう3000円も使ったんですけど……」


 そう言うと店員さんは俺ときょとんとしている綾乃とを見比べて、にんまりとした笑みを浮かべた。

 多分勘違いしているが、別に俺と綾乃はそういう関係じゃないからな。

 まあわざとそうなるように彼女、と言ったのだが。


 店員さんが嬉しそうにクマの位置を調整してどこかへ行ったあと、綾乃がわなわなと震えながら恐る恐る話しかけてくる。


「ま、まさか賄賂を渡したんですか……!?」

「違うからね?」


 どんな思い込みだよ。

 財布から100円玉を出して投入。

 取りやすい位置に置いてあったこともあり、クレーンの足でこつんと小突いただけで落ちてきた。

 それを綾乃に渡すと、


「や、やりました! 悠真くん、すごいです!!」


 感極まった綾乃が俺の腕に抱きついてくる。

 腕に抱きついてくると言えばフレアがそうなのだが、別にあいつも小さいわけではないとは言え綾乃のボリューミーなそれには敵わない。

 慣れた事ではあるものの新感覚ということでそれを黙って味わっていると、ぐい、と服の裾を引っ張られた。

 

 そこにはどことなく不満顔の知佳がいた。


「もういいのか!?」


 俺がそう言うと、ちょいちょいと知佳に手招きされた。

 大きな声を出すのが苦手……なのかどうかは置いといて、こいつはゲーセンに来ると大体こうして俺とコミュニケーションを取る。

 

 耳を貸すと、「そんなことより私にもあれ取って」、と。


 他の台にある無愛想な猫のぬいぐるみを指差した。

 半目というか、眠そうな目をしている辺りが若干知佳に似ていると言えなくもない。


「……お前、俺よりUFOキャッチャー上手いだろ?」


 500円6回プレイの台で10体以上のぬいぐるみを取っていたのを見たことがある。

 ちなみにちゃんと全部持ち帰っていたが、知佳の部屋に入ったらあの時のぬいぐるみがまだいたりするのだろうか。


「いいから取って」

「へいへい」


 あれくらいなら……まあ3回もあれば取れるだろう。

 多分。

 念の為500円を投入して、アームを動かす。

 

 そして4回目のチャレンジで無事ゲットした。

 別に俺はそこまでこれが得意というわけでもないので、まあまあ及第点だろう。


 無愛想な猫を知佳に渡すと、またちょいちょいと手招きをされた。


「ちゃんとしたお礼は夜に」

「おまっ……」


 俺が慌てて知佳から離れると、んべ、と小さな舌を突き出される。

 ちくしょう、覚えてろよ。

 ベッドの上ではどっちが強いのか教えてやる!


 まあ冗談はさておき。

 流石にそろそろ大丈夫だろうし帰るか。

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