第72話:ドロップ品
1.
鉱石ダンジョンにて新たに出現した16層で出てくるモンスターはのっぺりとした見た目の人型のやつだった。
ちょっと言葉で形容するのが難しいのだが、ロボものの格ゲーなんかで初期に選べる一番弱そうな何もパーツのついてない奴みたいな感じ。
15層にいたアリと同じく、材質はメタリックな感じに見える。
大体背丈は150cmから160cmくらいと小柄だ。
腕の先は鋭く尖っていて、恐らくあれで攻撃してくるのだろう。
「あ」
どうするのかと思ったらが、その得体のしれない初期ロボットみたいなやつはその場で燃えて灰になった。
フレアが何かしたのだろうとは思うが、あまりにも瞬殺すぎてちょっと可哀想である。
これまでの層とは次元が違うみたいなことを言っていたのに、これじゃ何も変わっていないようにしか見えないぞ。
……と。
普段なら倒したモンスターの後には魔石が残るのだが、今回は違った。
もちろん魔石は魔石で残っているのだが、それ以外にもなにやら鋭利に尖った大きめの……
「爪、かしら」
スノウがひょいとそれを拾い上げる。
よく見ると、先程フレアが瞬殺した初期ロボットみたいなやつの腕の先端に似ている。
フレアの炎を免れたのだろうか。
だとしたら相当な炎熱耐性だが……
「……妙ですね」
ウェンディがぽつりと呟く。
そう、妙なのだ。
そもそもモンスターは倒せば魔石のみを残して消える。
体の一部が残った例なんて聞いたことがない。
そんなことができるのならこのダンジョンは攻略されずに取っておかれただろう。
なにせ鉱石でできた奴がわんさか出てくるんだからな。
だが、この残っている爪らしきものは明らかにあのモンスターのものだ。
見れば見るほどそうだと確信できる。
「どうする? ウェンディお姉ちゃん」
手に持った爪らしきものをプラプラと振るスノウ。
ウェンディは少し考えるようにして、
「一応持って帰って詳しく調べてみましょう」
と言うのだった。
2.
他にも何匹か同じモンスターに遭遇する度にフレアが瞬殺しているのだが、毎回魔石と同時にその爪のようなものも残る。
途中、異常にこの爪の耐熱性が高いのかとフレアが直接炎をぶつけてみたのだが、それはそれであっさり溶けてしまった。
「状況から考えて、魔石と同じようにこのモンスターからドロップしていると考えるのが自然でしょうね」
掌の上であっさりと爪らしきものを粉微塵にしてみせたウェンディが言った。
どうやら材質的に衝撃だったり熱だったりに対して特別優れているとかそういう話ではないようだ。
「魔石と同じってことは、同様にエネルギーを取り出したりもできるのか?」
「そこまでは、まだなんとも」
「だよな……」
新しく出た階層では魔石以外にもドロップ品がある……という考え方が自然なのだろうか。
「となると、こういうので武器や防具を作ったりっていうのは定番だよなあ」
「流石お兄さまです、そんなことまでもう考えているのですね!」
「いや、お約束ってだけで俺が考えたわけじゃないけどね」
フレアのよいしょを苦笑いで躱す。
しかし妙な話でもある。
俺の考えることが正しいとして、最初からモンスターの素材的なものがドロップしていたんならまだ理解できる。
だが新しく現れた階層に出現するモンスターからしか出ないというのはおかしな話だ。
よくあるゲームに出てくるダンジョンなんかはむしろモンスターの素材がドロップしない方が珍しそうだが、この世界にあるダンジョンでは素材が出る方が異常だ。
より俺達のイメージするダンジョンに近づいたとでも言うべきか……
なんとなくだが、作為的なものを感じてしまう。
世界中のダンジョンを同時に変質させるなんていう、精霊にすら出来なさそうな芸当のどこに人の意思が介在する余地があるのかはわからないが。
「にしても、ちょっと不思議なことがあるくらいで後は普通のダンジョンみたいね」
周囲を警戒しつつスノウが言う。
確かに、変なやつが変なものをドロップするくらいで後は別にさりとて不思議なこともない。
ウェンディが言っていたボスの気配というのも、新たに出現した階層は1層だけで実はこいつが真のボスですというオチなのではないだろうか。
「我々にとってはわかりにくいですが、モンスターは明らかに強くなっています。私の推測が正しければ、ですが未菜様でもここのモンスターに囲まれれば無傷での突破は難しいでしょう」
「……そう聞くと相当なもんだってよくわかるな」
新宿ダンジョンの深層でも問題なくモンスターをバッタバッタと切り伏せることのできる未菜さんが、ここでは囲まれればまずい、と。
すぐ上の15層にいたアリには何匹に囲まれても問題なく対応できていただろうから、新たに出現した層と元々あったところの差が結構なものだとわかる。
というか、世界ランキングたるWSRで8位の座に君臨している未菜さんでも囲まれたらヤバイとなると、かなりの腕前を持つ探索者じゃないとそもそも1対1でも不利な戦闘になるのではないか。
俺は精霊姉妹に囲まれて安全な位置からなのでよくわかっていなかったが、やっぱり危険地帯であることには変わりないのだ。
「スノウ、フレア。そろそろボスに接敵します。準備を」
「わかったわ」
「わかりました」
ウェンディが不意にそんなことを言った。
もちろん俺は何もしない。
後ろで縮こまっているのが精一杯だからだ。
ウェンディの宣言から数分後、亀のようにずんぐりむっくりした6メートルはあろうかという巨大なモンスターと遭遇した。
亀と言ったが口元には鋭い牙があり、甲羅はどう考えても無茶苦茶硬そうなダイヤモンドっぽい何かだ。
どう考えてもこいつがボスだろう。
幾ら俺でもそれくらいはわかる。
そう思っていたら、1秒もしないでその体が風と共に真っ二つに割れ、全身が氷漬けになり、最後は巨大な熱線で焼き尽くされた。というより消し飛ばされていた。
マジかー……
一応事前の情報では今まで出会ったボスの中で(あのスーツ男を除いた)一番強いと聞いていたんだが、ボスは雄叫び一つあげることさえ許されずに瞬殺された。
多分だが、最初にウェンディが真っ二つにした時点で絶命していたと思う。
再生するタイプだったとしてもスノウとフレアの追撃によって終わっていたか。
そう考えると全く無駄のない完璧なコンボでの瞬殺だったと言える。
これに加えてあとひとり同じくらい強い姉妹がいるんだろ?
どうしよう、このままでは後ろでサイリウムでも持って鼓舞するだけのポジションになってしまう。
残っていた熱をウェンディが風で散らすとそこにはソフトボールより一回り大きいくらいの魔石と、1メートルくらいある亀の甲羅のようなものが残っていた。
しかもこれもつい今しがた消し飛ばされた亀と同じ、ダイヤモンドっぽいものでできている。
いやこのサイズのダイヤなんて幾らになるかちょっと想像もつかないぞ。
しかもそれを手に持ってみると、やたら重い。
俺が重いと感じる程なので、恐らく数百kgはある。
あるいはもっとか。
ダイヤってこんな重いのか?
流石にここまで重いものを女の子(俺の100倍くらい強いだろうけど、女性は女性だ)に持たせるわけにもいかないので俺が背中に背負う。
亀仙人のところに弟子入りでもした気分だ。
「色々イレギュラーはあったけど、ボスも倒したしこれで終わりだよな」
「……いえ」
ウェンディがとある一点を見つめている。
そこはつい先程まで何もなかった空間。
だが、今は淡く光る下へと続く階段が出現していたのだ。
……おいおい。
どこまで続くんだよこのダンジョン。
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