第16話:ご利用は計画的に

「へえ、こんなものもあるのね」


 店内にあるを眺めながらスノウが感心したように言う。

 

「取り扱いには免許の取得が必要なんだけどな」


 俺の言葉に、「まあ平和な国だものね」と納得したように頷いた。

 

 ここはダンジョン管理局直営の攻略用道具専門店。

 剣だの槍だの盾だの簡易的な鎧だの銃だの弓だの、様々な武器が置いてある。


 ダンジョン攻略用の道具……防具や武器なんかは取り扱いにかなり厳しい国家試験をパスする必要がある。

 合格率は2%程度と言われており、高い身体能力に判断力、そして高いモラルが求められる。

 ちなみに俺は17歳の時に受験して合格している上に年1でちゃんと更新しているので取り扱うことが出来る。


 武器そのものを実際に手にとったことは試験以外ではないのだが。

 だって高いんだもの。


 しかし当時は無茶苦茶勉強したな。

 お陰で期末試験は散々な結果だった。


「そういや、スノウはどんな武器使うんだ?」

「武器どころか防具だって必要ないわ。それはあんたもだけど」

「……どういうことだ?」

「これらの武器は小さな魔石をエネルギーとして動く魔道具みたいなものね。正直大した性能じゃないわ。あんたやあたしくらい自前で魔力を持ってる人間にとってはただ邪魔になるだけ。一般人向けってことね」

「そんなことまでわかるのか」


 というか、今の俺の身体ってこの防具より硬いの?

 確かに見た目は中世のアーマーのように見るからに硬そうな感じではなく、RPGとかで言うなら革鎧みたいに簡素な作りではあるが。

 トラックの衝突にも数回耐えられると書いてあるんだが。

 そしてこれを大した性能じゃないと言い切ってしまうあたりもぞっとしないな。

 ダンジョンが如何に危険な場所なのかということがよく分かる。


「じゃあここで買うものはない感じか?」

「いいえ、武器はリーチの問題で持っておいて損はないわ。扱いになれてないものなら邪魔にはなるけど、どうしても邪魔ならその場で捨てればいいだけだし」

「それもそうか」


 じゃあやっぱり剣かな。

 なんかこういうのって剣が一番かっこいいし。

 あれ、でも実用性的には槍の方が良いんだっけ?

 でも俺そんなの使えないもんなあ。

 と刃物コーナーでうろちょろしていると、スノウが離れたところから、


「何してるの。こっちよ、こっち」


 ちょいちょいと手招きしていたのでそちらへ向かうと、刃のついていないただの長い棒や、ちょこっと先に棘のようなものが生えている棍棒といった……誤解を恐れずに言うなら野蛮そうな武器のコーナーだった。


「……俺もっとかっこいいのを想像してたんだけど」

「あんたが真剣を振ったことがあるならそれでもいいけど」


 呆れたようにスノウが言う。


「どういうこと?」

「素人が下手に刃のついた武器なんて振り回してみなさい。良くて自分を斬る。最悪は中途半端に刃が食い込んで隙を晒して、そのまま死ぬ。なんてことも珍しくないわ」

「うっ……」


 確かにそういう話は聞かなくもないな……

 免許を持ってない人なんかは実際こういう棒を持つと聞くし。


 けど俺は免許持ってるのに……

 いやしかしスノウがこちらの方が良いと言うならそうなのだろう。

 結局、俺は木刀のような形の黒い刀……ではなく棒を選んだ。


「あ、じゃあ銃とかどうだ? 弓とか」


 刃物と違って自分を傷つけたりする可能性は低そうだ。

 ダンジョン用の銃の中には実弾ではなく、エネルギー弾のようなものになっているものもあるので跳弾の心配もない。

 というか実弾の銃はたとえダンジョン用のものだとしても日本では入手できない。

 ということを説明すると、


「とりあえず見てみる価値はあるかもしれないわね」


 と遠距離系の武器のコーナーへ行くことを許可された。

 しかしつくづく思うのだが、スノウは精霊で俺は主人なんだよな?

 明らかにパワーバランスがスノウの方が上だ。

 下剋上なんて狙えないくらい力に差があるので仕方ないのだが。


 とかなんとか最低なことを考えていると、スノウがとある銃に注目していた。


「なんだ……? 粘着弾? そういえばこんなのが発明されたって、ネットニュースでちょっと前に見たな」

「この粘着弾の強度にもよるけど便利そうね。自分や味方に当てたら悲惨そうだけど」


 使用例としてすぐそこのテレビに実践している映像が流れている。

 その映像では、猛スピードで突っ込んでくる自動車が粘着弾に絡め取られて停止してしまっていた。

 

「……10万で3発って。高すぎないか流石に」

「遠距離の攻撃力自体はあたしがいるから間に合ってるけど、こういう絡め手は幾らあっても困らないわよ」

「うーむ」


 しかしどこかで何かの役に立ちそうなのも事実だ。

 多少、いやかなり高いが買っておいて損はないだろう。

 その後、結局粘着弾と、邪魔にならない程度のプロテクターを購入した。

 生身の方が硬いとスノウに改めて言われたが、やっぱりあるとないとでは安心感が違うと思うの。

 一応付けておきたいのだ。やっぱり完全生身だと怖いし。

 ちなみに合計で17万円。

 会社設立前からこんなに散財して大丈夫なのだろうかと、密かに溜め息をつくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る