第一章:株式会社妖精迷宮事務所へようこそ

第7話:精霊の生態

「それで、話しておきたいことって?」


 改めてスノウに向き合う。


「他の精霊の召喚についてよ」


 ああ。

 そういやスノウ以外にも精霊はいるという話だったか。


「戦力的にもガンガン召喚していった方がいいのか?」


 思い浮かべているのはソシャゲの数々だ。

 現在パーティメンバーはスノウと戦力にならない俺のみ。

 他に戦力になる精霊がいれば高難度のダンジョンの攻略も容易になるのではないだろうかという考えだ。


 ……でもよく考えたら、スノウの強さからして最初からレベル99の勇者がパーティにいるようなものではないだろうか。

 使うのは魔法だから魔法使いか。いや、どっちでも良いのだけれども。

 とにかくこれ以上の戦力が必要になることがあるのかどうか疑問なところである。


「しばらくは増やさなくていいわ。というより、増やさない方がいいわ」

「……なんで?」

「あまりこういうことは言いたくないけど」


 スノウが恥ずかしげに俯いた。

 え、もしかして俺と二人きりがいいとかそういう事言いだしちゃう?


「あたしの燃費があまり良くないのよ」

「ああ、そういう……」


 分かってましたけどね。

 ちょっとでも淡い期待を寄せた俺がバカでした。

 それにしても、燃費と来たか。


「燃費ってのは……魔力ってやつのことか?」

「そうね。あんたの魔力はかなり多いわ。予想以上に。普通なら何人精霊を呼び出しても問題程度には。けど、その多い魔力があだになってるのよ」

「……多いのは嬉しいことじゃないのか?」


 俺の魔力が多いとか少ないとかはスノウからしか聞いたことがないので良く分かっていないのだが。

 というか魔力とかって単語、初めて日常会話の中で聞いたし。

 今まではゲームくらいでしか聞いたことなかったよ。


「基本的にはね。けど、膨大な魔力で召喚術を使うお陰で強力な精霊を呼び出せてしまうのよ。自分で言っちゃうけど、あたしは最上位の精霊よ。そんなのを何人も賄うのは無理なの」

「なんでだ?」

「パーティコストが100あっても、コスト60のメンバー二人を同時に運用するのは無理でしょ?」

「……なるほど」


 俗っぽい喩えではあるが、わかりやすいな。

 スノウクラスの精霊を二人分賄うのは流石に無理なのか。


「まあもしかしたらできるかもしれないけど、ちょっとなんとも言えないわね。あんたの魔力量、多いってこと以外はよくわかんないから」

「そりゃまたなんで」


 スノウは少し思案するように顎に手を当てる。

 何気ない仕草でも美少女美少女しているあたり、容姿が優れているってとんでもないアドバンテージだよな。


「……長く受肉してなかった影響かも。でももしキャパオーバーを起こしたらあんたの魔力が追いつくまではあたし達はまともに戦えない。そうなったら探索者になったとしても何の役にも立たないニートよ」


 言っていることは酷いが理解は出来る。

 

「その魔力はどうやって増やすんだ?」

「二種類あるわね」

「二種類とな」

「一つはあんたがダンジョンに入って、ひたすらモンスターをしばきまわすのよ」

「しばきまわすて」

「もう少しやさしい表現をすると、倒して回るのよ」

「まあちょっとマシにはなったけど……」


 分かりやすくはある。

 ……が、これじゃ巷で囁かれている、ダンジョンに潜るとという説が濃厚になるような気がするぞ。


「もう一つは?」


 二つあると言っていたのだからもう一つあるのだろう。

 

「……それは追々話すわ。どちらにせよいずれ必要になることだし」


 何故かスノウは言葉を濁した。


 ……まあ、今話さないということはすぐに情報共有しないとどうこうなるみたいな内容ではなさそうだが。


 そんなことを考えていると、俺の腹がぐうと鳴った。

 そういえば昼から何も食っていない。

 しかもあんな経験をしたせいで余計に腹が減っている気がする。


「精霊って何か飯食ったりするのか?」

「受肉する前は必要なかった……というかそもそも食べられなかったけど、今は食べられるしお腹も減るわ」

「それじゃなんか作るか」

「あんた料理できるの?」

「並の一人暮らし男子大学生程度にはな」


 チャーハンだったり野菜炒めだったり比較的簡単なものは大抵自分で作っている気がする。

 あんまり大食らいな方でもないが一度に大量に作って2日3日に渡って食べることもままあるので、スノウの分も作ることに何も問題はないし。


「それじゃあお言葉に甘えるわ」

「あいよ」


 冷蔵庫の中身を見ると、ハムと卵しかなかった。

 あと昨日余分に炊いておいて今日の昼食と夕食用に取っておいた白飯。


 ……これはオムライスだな。

 後で買い物にも行かねば。


 台所でハムを刻んでいると、なんだか妙に視線を感じたので顔を上げる。

 するとスノウと目があった。


「なんだ?」

「あんなことがあったのにあんた落ち着いてるのね。今もかなり特殊な状況じゃないの?」

「……んまあ、言われてみればな」

 

 ハムを刻む作業に戻りつつ答える。

 ダンジョンの誕生に巻き込まれ、スキルブックを使って美少女を召喚し、死にかけて、キスして、ダンジョンを攻略した上でその美少女を自宅に連れ込んで何故か食事を作っている。

 

「色々ありすぎて感覚が麻痺してるのかもなあ」

「なるほど、大物かバカかの二択ね」

「前者であることを祈るよ」


 フライパンに油をひいて熱する。

 そこでふと疑問が生じた。


「スノウって温かいご飯とか温かい風呂とかに入れるのか?」


 イメージするのは温かい風呂に入ってのぼせるスノウだったのだが、当の本人は何を言ってるの、という表情を浮かべる。


「日常生活に支障は出ないわ。そんなこと言ったら炎熱系の精霊は受肉した時点で大火事よ」

「あー、なるほど」

「まあ、あんたにとっての肌寒いくらいの温度が丁度良いとか、お風呂の温度も42度よりは39度くらいが良いとか、その程度の人間にもある好みの差くらいは出るかもしれないわね」

「なるほど。湯船に浸かるのも問題ないのか」

「スケベ」

「何故に!?」


 しかし風呂を連想している時点で裸も連想していることには違いなかったので強く否定は出来なかったのだった。


 しばらくしてオムライスが出来上がり、どういう反応をするかとケチャップでハートマークを描いたものをお出しする。


 何か突っ込みがあるかと思って期待していたのだが、黙って俺の分と取り替えられた。

 適当なボケには食いついてくれないらしい。


「ん……美味しい!」


 オムライスを一口頬張ったスノウが目を輝かせた。

 おお……そんな素直に反応してくれるとは。

 しかし実はオムライスにはちょっとした自信があったのだ。


 というのも、俺自身割とオムライスが好きなのもあるが、作るのも簡単な上に必要な材料も少なく、洗い物もあまり出ないので結構作る頻度が高いのだ。

 それで色々自分でも調べながらやっているのでちょっとした店くらいのクオリティはあると自負している。


「こんなに美味しいもの久しぶりに食べたわ」

「受肉する前は食べることも出来なかったって言ってたけど、全く食べたことがないワケでもないのか」

「あたしの生まれた世界では普通にご飯も食べてたわ。基本的には空中に満ちた魔力を摂取するだけでも生命維持は出来たけど」

「へー……異世界って凄いな」

「この世界じゃ大気を漂う魔力って言うのはないのよね。もっと大勢が魔力を目覚めさせればそういう世界にもなるんだろうけど……にしても本当に美味しいわねこれ。悠真にこんな特技があったなんて驚きだわ。唯一他人にも誇れるものね」

「何故唯一だと決めつけるのか」


 決めつけもなにも、事実なのだった。

 

「そういえば、さっきの話的に考えてこの部屋にはお風呂もあるのよね?」

「ああ、あるよ」


 家賃の割に結構大きめなのがある。

 足を伸ばして湯船につかれるのは良いことだ。


「入りたいわ」

「へーい」


 一応俺が主従の主側なんだよな?

 とか思いつつ、俺は風呂の準備もすることにしたのだった。

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