第3話:左右の二択
「あんたがあたし
「……普通で悪かったな」
「反応も普通ね」
つまらなそうに少女は言った。
ぐっ。
何なんだ。
なんかもっと神秘的な感じだと思っていたのに俗っぽいじゃないか。
こっちは初めて見る精霊に緊張してたのに、この塩対応である。
「……にしてもここはどこなのよ。あんたこんな狭いところで修行してたの?」
うんざりしたような表情で彼女は言った。
周囲を見回す青い瞳には、明らかに失望の色が浮かんでいる。
「……は? 修行?」
何をトンチンカンなことを言っているのだろうか。
俺はダンジョンの出現に巻き込まれただけだぞ。
「だってそうでしょ。修行も無しにこのあたしを呼び出せる訳が……ってここもしかしてスキルブックの部屋?」
少女は喋っている途中に何かに気付いたように、僅かに目を見開いて俺に確認してくる。
「ん? あ、ああ……スキルブックをここで拾って、召喚術で精霊を呼んだら君が……出てきたんだ」
俺の返答を聞いた少女はしばらく考え込むように黙り込み、やがて口を開いた。
「……そうなの。にわかには信じがたいけど、とにかく見た目通りの人間って訳じゃなさそうね」
どういう意味だ。
見た目通りの人間だが。
「で……精霊さんはなにが出来るんだ? 俺を生きてここから出してくれるのか?」
「精霊は種族を
憮然とした態度でそう言われる。
おっと、失礼。
「じゃあ、スノウ。君は何が出来るんだ」
「スノウ……まあいいわ、あんたは
そう言ってスノウが俺にすいっと近づいて、顔をゆっくり寄せてきた。
え、スノウさん?
流石に出会ったばかりでそういうのはちょっと早いんじゃないですかね?
あ、でも受け入れちゃう。だって美少女だもの。
心臓が早鐘を打つ。
これは恋の予感というやつか――?
目を瞑って待ち構えていると、額にぴと、と何か冷たいものが触れた。
「んえ?」
目を開くと、スノウの恐ろしく整った顔が目の前にあった。
至近距離すぎる。
睫毛の一本一本まではっきりと見える距離だ。
「どわぁ!」
思わず後ろへ飛び退いてしまう。
それで分かったが、どうやら彼女は自らの額を俺の額と合わせたようだ。
少女は俺を呆れたような表情で見ている。
「何を期待してんだか。今のはあんたの記憶を読んだのよ」
「記憶……を……? そんなことが出来るのか」
何だ、キスじゃなかったのか。
……いや、まあ、そりゃそうか。
「一応仮契約とは言えあんたが
「ぼーっと歩いてて悪かったな」
「ま、いいわ。とりあえずここから脱出しましょう」
言って、スノウはワンピースの裾をひらりと翻して歩き始めた。
その動作一つ一つが絵になる。
「ちょ、ちょっと。脱出するったって、俺は戦えないぞ」
「知ってるわよ、あんたの記憶を見たんだし。普通の人間がどれくらいひ弱なのかは理解しているつもりよ」
ひ弱って。
まあ、否定はできないが。
「どこまで記憶を見たかは知らないが、ダンジョンに何の準備もしないで入って生還した奴はいないんだ。君も……武器を持っているようには見えないし」
「ここへ至る経緯くらいだから安心しなさい。ダンジョンについては元々知識として持ってるわ。武器に関して言えば……少なくともあたしは武器を必要としないスタイルだから心配無用よ」
「武器を必要としないって……」
そこまで聞いてようやくピンと来た。
そうか、スノウは召喚術で呼び出した精霊だ。
――授かった力は
精霊を呼び出し、共に戦う。
戦えるに決まっているのか。
俺が何もできないからって、彼女まで弱いとは限らないんだ。
つかつかとどんどん前へ進んでいく、後ろ姿も綺麗なスノウへ声をかける。
「……ちなみに、本当に出られるのか? モンスターとか多分出てくるんだよな」
「ボス級にばったり出くわしたりしなければよっぽど平気よ」
「ボスに出くわしたら?」
「二人とも死ぬでしょうね」
ぞっとするようなことをさらりと言ってくれる。
しかし一本道とは言え迷いなく歩いていくな。
本当にダンジョンの知識があるんだろうか――とか思っていたらスノウが立ち止まる。
「別れ道ね。
「そのマスターってのやめないか? なんだかむずむずする」
「それじゃあ悠真。どっちへ行くの」
いきなり呼び捨てかよ。と思ったがよく考えてみなくても俺も呼び捨てしてた。
でも
まあいいか。
「こういう時は右って漫画で学んだな」
「連載再開するといいわね」
知ってんの!?
精霊って意外と俗っぽいのだろうか……
というか、俺の記憶の中のどこまで見たんだ。
結局右を選んで進んでいったのだが――途中でスノウがふいに通路の左側へ寄った。
何かと思って右側を見ると、そこにはゴブリンの……氷像らしきものが四つあった。
「……なんだこりゃ。氷像か?」
だとしたら相当リアルだが。
表情まで克明に刻まれている。
まるで生きているゴブリンをそのまま凍らせたかのような――
「さっきまで生きていたものよ。あたしが凍らせたの」
「えっ」
普通に歩いているだけでスノウが何かをしたような仕草は見せなかったのだが。
呼吸をするようにモンスターを氷漬けに出来るということだろうか。
改めてゴブリンの氷像を見る。
完全に凍りついている。
内部まで氷に変わっているに違いない。
溶かしたところで、もう二度と動き出すことはないだろう。
スノウホワイト。
確かに名前からして氷っぽい能力を使いそうではあるよな。
そのまま俺たちは何事もなく歩き続ける。
「…………」
「…………」
沈黙が続く。
洞窟に足音だけが淡々と響いている。
「……スノウはダンジョンに来たことあるのか?」
沈黙に耐えられず質問する。
迷いなく歩いていく様子や、ゴブリンの対処からして慣れているのではないかと思ったのだ。
「何度かあるわ。攻略したことも。こことは違う世界のだけど」
「違う世界って……精霊が住む世界的な?」
異世界とかそういう話だろうか。
「そんなものね」
「こっちの世界じゃダンジョンを攻略した人は英雄として崇められるんだ。ちなみに人類の最高攻略数の記録は2つ」
「ふぅん。それじゃあすぐにあんたが記録を塗り替えるわね」
さも当然のことのようにスノウが言う。
「……俺が? まっさかあ」
「あたし達がついてるのよ。ダンジョンの1つや2つ、よほど高難度のところに挑まなければ簡単に攻略出来るわ」
ふと気になったことがあったので、聞いてみる。
「……そういえば、最初もあたし
「そりゃいるわよ」
「みんなスノウみたいな美少女なのか?」
「……はあ?」
スノウは立ち止まってこちらを振り向いた。
険のある表情をしている。
……かと思ったが、よく見ると頬が少し赤く染まっている。
白い肌だから、ほんのり上気しているのがよく分かる。
どうやら恥ずかしがっているようだ。
「なんだ、可愛らしいところもあるじゃないか」
「ばっかみたい。あんたってばかなのね」
そう言ってスノウはぷいっと前を向いて歩き出した。
後ろからでも見えるのでわかるが、耳まで赤くなっている。
真っ白な髪に隠れきれていない。
某有名ハンター漫画を知っていたり、俺の言葉に照れたり精霊と言ってもあまり俺と――人間と変わらないようだ。
それからしばらく歩くと、突然スノウが歩みを止めた。
前を見てみるが、少なくとも別れ道があるようには見えない。
「どうし――」
「止まって」
スノウがハンドジェスチャー付きで静止を促してきた。
先程までと変わって、その声には張り詰めた緊張が宿っている。
先程までとは打って変わってひりつくような緊張感がスノウの全身から流れ出ている。
嫌な予感はびんびん感じているが、それでも恐る恐る訊ねた。
「……どうしたんだ?」
それに対するスノウの答えは端的だった。
「右側を選んだのは失敗だったようね」
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