358.寝起き母様と出発
「····さま」
よく知る声が呼びかけてくる。
「お····様、お嬢様」
「アリー、ほら、ニーアが誰かと約束してる時間だから起きてって言ってるよ?」
よく知る声が追加された。
そうだった。
人と約束しててニーアに迎えをお願いして、セバスチャンにも色々準備してもらってたんだ。
「んーぅ····」
ここ最近では珍しく、体が軽くて深く眠れたみたい。
睡魔がまだ眠ろうって駄々をこねて、なかなか僕を手放してくれない。
呻いてみるけど····眠い。
「目を開けて、俺を見て?」
「んー········!!!!」
声に導かれるように薄っすらと目を開けてハッとする。
「アリー?
ほら、可愛いお寝坊さん。
起きましょうか?」
「声は気持ち悪いけど、母様!!!!」
ガバッと起きてのぞきこんでいた猫なで裏声の、なんちゃって母様の首に抱きつく。
「き、気持ち悪い····」
「んふふー、寝起き母様ー」
「くっ、何だこの可愛いの····」
ショックを受けた従兄様のお声はもう元に戻ってて、何か呻いているけど、無視でいいよね。
僕はごろごろ喉を鳴らす猫のように従兄様の首に頭をぐりぐり擦りつける。
寝起きで急に体を起こしたせいか頭がくらくらするし、まだどこかぼうっとしてるけど、母様のお顔の前では些末な事だよ!
「従兄様、お膝に乗っけてあれやって?」
「えっ、今?!」
「今!
おはよう、アリーって言って!」
「くっ、目がきらきら····ゴホン!
おいで」
そう言うと従兄様は僕の隣に腰かけてから、ひょいっとお膝に乗せてくれる。
ふと扉の近くに下がったらしいニーアと目が合った。
呆れたような目に見えるけど、今はスルーだ。
「おはよう、アリー」
「おはよう、母様!
もう1回!」
ふふふ、寝起きに母様のお顔でまた起こされるなんて最高だ!
だいぶ目が覚めてきた!
「可愛いアリー、おはよう」
「んふふー、もう1回!」
「アリー、おはよう。
ほら、準備····」
「もう1回して?」
「そんな子猫のような目····おはよ····ひっ!
セ、セバス?!」
突然お顔が従兄様に戻って扉を見て驚く。
というか、恐怖で縮み上がった?
「お嬢様、お楽しみのところ申し訳ございません。
しかしそろそろお時間ですよ。
お召し替えをなさって下さい」
セバスチャンがいつも通り穏やかに微笑んで行動を促す。
「そっか、残念だけど仕方ないね。
従兄様、すぐ用意するから、ちょっと向こうのお部屋で待ってて?」
お膝からぴょんと降りてニーアの方へ行けば、セバスチャンが従兄様を外へ促した。
「さあ、ガウディード様、参りましょうか」
「えっ、うそ、これやられるやつ····ア、アリー?!
俺は自分の部屋に····」
「駄目!
従兄様は今晩何も予定がないって知ってるもの!
ね、セバスチャン、ニーア!」
「ええ?!」
「「はい」」
「ええ?!」
「ほら、早く出やがれなさいませ」
「そんな?!」
「あ、従兄様の服も用意してあるから、着替えておいてね。
セバスチャン、お願いね」
「もちろんです。
ほら、、」
「ひーっ、、」
2人の会話の途中でドアがパタンと閉まる。
「従兄様、最後叫んでた?」
「気のせいでしょう」
「そっか」
ニーアは耳が良いから、それならそうなんだろうね。
「ふふふ、じゃあパパッと用意しよっか」
「はい」
そうして服を着替える。
上質な絹を使い、アリリアの模様が浮き出るように織られた織物を使って作ってる。
僕のは会食に問題ない程度に整えたワンピースだよ。
できる専属侍女の手によって手早く髪をハーフアップにされ、薄化粧を施された。
ニーアが開けたドアに出れば、従兄様が戸惑ったお顔で僕を見る。
従兄様も中のシャツ以外は同じ織物で作ってる礼服だ。
うん、背も高いから良く似合ってる。
「従兄様、素敵だよ」
「あ、うん、ありがとう。
それよりこの織物は初めて見たんだけど、どこの国の物なんだい?」
「ふふふ、行けばわかるよ」
「えっと、どこに?」
「貴族用の温泉施設。
一部完成してるでしょう。
あそこで会っておいてもらいたい人がいるの。
ジェン様には完成したお部屋を使わせてもらえるように先に話を通してあるよ」
「え、いつの間に?!
というか、誰と会うんだい?!」
「うちの執事長とできる専属侍女にかかれば簡単だよ。
誰に会うかはまだ秘密」
「え、でも手土産とか····」
「大丈夫だよ。
もう私の方で全部用意してる。
それに着ている服でわかるように、お食事会だから心配いらないよ。
今日を逃すとまともに会う機会はずっと先になる人なんだけど、今は事前に誰とは言えないんだ。
従兄様はここにいる間、私の保護者でしょ?
だから一緒に来て?」
上目使いで従兄様にお願いしてみる。
「はあ、わかったよ。
こんな素晴らしい生地で仕立てた服まで用意されてるんだから、付き合わない訳にはいかないね」
そう言って、僕の隣に立つ。
もちろん僕は従兄様の腕に自分の手を添えた。
「そのワンピース、良く似合っているよ」
「ふふふ、ありがとう、従兄様」
そうしてエントランスに用意された馬車に乗り、執事長と専属侍女をお供に邸を出発した。
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