256.魔王より悪魔、本能的な危機感〜ギディアスside
「さて、まずは書き置きでもしようか」
「····」
私の執務室に共に転移したバルトスを振り返れば、実に上機嫌なように見えるけどその翡翠色の目は怒りに揺らいでいる。
ブチギレというやつだろう。
目、血走ってない?
····逃げたいけど、すぐ捕獲される自信しかないなあ。
彼がうちのトップと侯爵が約束したと言うなら、まあ本当なんだろうね。
諦めて書き置きと、部下用に指示書も用意する。
いつ帰れるんだろうか。
でもまだ成人前のあの子に大きな負担と命の危機をもたらした事に責任も感じるし、何よりあの我慢強い子が泣きながら連絡をした場面に出くわしてしまったんだから、協力は惜しまない。
この国の王太子としても、大人としても、すでに一方通行となってしまったかもしれないけれど彼の友としても見過ごせないんだから仕方ない。
それに楽しそうだし。
そこは友には秘密だけど。
「そうそう、次に俺の可愛い天使との逢瀬をどのタイミングで行うかの判断だが、グレインビル侯爵家の采配に任せると両国の国王陛下達より既に許可を得ているんだが、聞いていたか?」
「なんだかかつてない笑顔に嫌な予感しかしないけど、一応?」
ついそんな様子に苦笑してしまう。
「父上と俺のどちらか1人だけ、という条件付きだったがな。
父上とはどちらが行くかは、可愛い天使かクソ生意気な次男が泣きついた方と決めていた。
国王達は俺の可愛い天使が泣きつく可能性の低さはもちろん、まさか真冬にあの雪に閉ざされる最北端の国に渡れるはずがないとでも考えていたかもしれんが、俺達の家族愛は不可能を可能にするぞ?」
「んー、それで私は巻き込まれるのかな?」
「可能にする為の方法は指定されていなかったからな」
····父上達は全くもって何を
だから彼らの天使が生死を彷徨う間、侯爵とバルトスは我慢できてたのかってつくづく痛感する。
あるいはそれも見越していたかもしれない。
ここ数年の父上達の言動は一貴族令嬢に対して過干渉のようにも感じている。
それだけ父上の
「ねえ、バルトス?
まさかとは思うけど、君がヒュイルグ国を渡る船の船着場まで転移して、そこからヒュイルグ国の王城までを私に転移しろって言うんじゃないよね?」
グレインビル侯爵家とよりにもよってこの国の最高権力者が交わした約束に今更ながらに嫌な汗が流れる。
だからって父上はグレインビル、というか、この友を舐め過ぎてない?!
自国の王太子を個人使用するとか普通に考えるのがこの友だよ?!
「その通りだ。
仮にも替えの利かない辺境領主が行くより対外的には兄の俺が行く方がマシだろ?
それに父上が行けば間違いなく国王と一戦交えて即座に愛娘を回収くらいはするぞ?
父上はずっと静かに怒りを蓄積しているからな。
国王と宰相の頭を知っているだろう」
····やっぱり?
そんな事だろうと思ったけどさ。
バルトス、ドヤ顔でマシとか言わないで欲しいな。
あの無惨な頭は侯爵の怒りの現れだよね。
知ってるどころか、こっそりのぞき見済みだよ。
まあ父上達もわかっているから普通なら国王を害した罪に問われるような行為も黙ってたんだろうけど····。
····魔王、
一国の王の権威なんて清々しいほど歯牙にもかけてないとか、普通の貴族には無理だよ。
確かにそれなら
「父上ならむしろ領からフロルエラ領を経由してヒュイルグ国の城に転移しそうだが、お前はフロルエラ領を知らないし、俺は向こうの城を知らん」
確かに転移魔法には行った事のない場所には行けないという制約がある。
今の話から察するに、バルトスはフロルエラ領には行った事があるから彼1人でグレインビル領方面から転移で大河を渡る事は可能みたいだ。
だけど天使のいる城に行く為には地道に陸路を使うしかないんだろうね。
今の時期なら雪で遭難する可能性が高くなるし、その為の準備にも時間をかけなければならなくなる。
そして仮に私が船着き場から城まで転移するとしても、必ずどこかで中継地点を置かなければならないって、わかってるかな?
その中継地点をほとんど覚えてないんだよ?
仮に船着き場のある方面から大河を渡ってそのまま向こうの王城まで転移するとして、どれだけ距離があると思ってる?
しかも自分とバルトスの2人を転移するんだよ?
「バルトスは国内をよく知ってる上に魔力量も問題ないからいいとして、さすがに私は魔力を枯渇させるだけでは終わらないと思うんだけどなあ。
私があの城に行ったの10年近く前なんだけど?」
確かに転移魔法をだいぶ使えるようにはなった。
とはいっても、行き来する頻度によっても出来栄えはかなり左右される。
要するに発着地点をより具体的にイメージできるかが大事なんだ。
あまりにお粗末な魔法を発動させれば時空の歪みに挟まれて捻り潰されて死んじゃうよね?!
それだけ空間に関わる魔法は魔力量だけでなく繊細なコントロールが必要なんだけど、自分の感覚で言わないで欲しい。
「それで?」
くっ、この天才一家め!!
基準を
ーーゾクリ。
突然に、何の前触れも背筋が寒くなる。
本能的な、何か····危機感?!
「それならオイラが力貸してあげるよ」
「?!」
見知らぬ声が突然聞こえ、言い終わる前に瞬時に魔法で自分とバルトスの周りに障壁を張り、身構えた。
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