196.着ぐるみ

「アリー、それじゃあ····」

「····こ、こんな所で····恥ずかしいよ」


 僕達は木陰に隠れて少し声をトーンダウンして話してる。

例の外套を羽織ってるから気配は消えてるよ。


 もじもじしちゃう僕と違って壁ドンみたいな体制で迫ってくる義兄様も素敵だね。

他の女の子にやったら間違いなく鼻血ものだ。


「大丈夫、誰も来ないし僕達は外套も羽織ってるよ。

ね、ほら。

早くつけて?

脱げた服はすぐに僕が回収するから。

僕の可愛いアリーの白くてすべすべした背中を撫でたいな」

「····本当に誰も来ないようにしてくれてる?

僕と義兄様の2人きり?

ついでに頭も撫でてくれる?」

「当たり前だよ。

ちゃんとこの辺一体に認識阻害の魔法を使ってる。

僕の可愛いアリーの無防備な姿を誰かに見せたりしないし、ついでに頭も撫でるから。

ね?」

「それじゃあ····」


 僕はそっとポーチからネックレスを取り出す。

そう、このネックレスはあのたまたま鼬になっちゃった変身ネックレス。

その名も《タマイタ君》だ!


 卒業式に出て欲しいってレイチェル様の要望は、当初僕の愛する家族達に却下されたんだ。

彼女的には学園に入学しないなら同年代の子供達を見て少しでも家族以外に興味を持って欲しいって感じなのかな?

今の僕のプライベートな交遊関係は家族以外皆無だし、貴族令嬢の僕が社交界に出るつもりが無いのもレイチェル=ブルグル貴族令嬢としては気になるんだろうね。


 もちろん気持ちは有難いよ。

17才の女の子がこんな風に気を遣ってくれるなんて嬉しいに決まってる。

あっちの世界でいえば未成年の女子高生だもの。

むしろある意味苦労性かなって申し訳なく思ったりもする。


 もちろんこの巻き込まれ体質さえなかったらね。

我ながら酷すぎるよ、本当に。


 で、そこも含めて家族で話し合った結果、式に出る時は必ず鼬になるようにって家長として義父様に厳命されたんだ。


 3日間。


 何で3日間なのかは謎だよ。

その日から専属侍女ニーアと執事セバスチャンの共同作業で鼬専用の服が作られた。


 ····兎、フェネック、鼬の着ぐるみ。


 鼬が着ぐるみ着てどうするの?!

あと鼬が鼬の着ぐるみ着てどうするの?!

それも全部白いんだけど。

ポンチョもあって、それも白いよ。

もはや白い毛玉だよ?

もちろん製作者達のやり遂げた感溢れる、ほくほくの笑顔見ちゃったら何も言えないけどね。


 てことで、今日は義兄様が持ってきてくれたフェネックを背中とついでの頭をひとしきり撫でてもらってから着る。

ツナギ状の着ぐるみだから足と腕を通したら胸の前を紐で2箇所結ぶだけだよ。

でも鼬の手だと紐を結ぶ作業はなかなか面倒なんだ。

小さい子みたいに恥ずかしいけど義兄様に結んでもらっちゃった。

ボタンはこの手でとめるのは不可能だった。


 そして僕達は会場で一緒に席に着く。

周りの人は僕を見てちょっとざわついてたけど、誰も義兄様に話しかけなかった。

鼬に着ぐるみ着せるやべえ奴って思われてなければいいな。

事前に受け付けで使い魔っていう体で説明はしてるよ。


 会場には勾配がついてるから席が後ろになっても、義兄様のお膝で僕の丸めた外套をお布団にして丸まっててもちゃんと見えたよ。


 レイチェル様が義兄様のお膝を2度見したのもばっちり見えたしね。

一応長い胴体を起こして手を振っておいた。

わかってくれたかな?


 貴賓席にはこの国唯一の国立学園の卒業式に相応しくロイヤルファミリーが集結してた。

ルド様は生徒会役員の席だったけど。

ギディ様と目が合ったきがするのは気のせいだよね。


 卒業生代表はブルグル兄だったよ。

レイチェル様同様、彼も色々頑張ったんだろうね。

拍手しておいた。

肉球だから音は鳴らないけど。


 式が終わって義兄様に抱っこされて会場出ようとしたらルド様が走ってきた。

ちょっと大型犬ぽかった。


 僕を見てデレッとしたお顔で撫でようとしたから、義兄様に手を叩き落とされちゃったんだけど、不敬罪にならないよね?

まあまあ注目集めちゃったよ?

でもしばらく「抱かせてくれ」って粘ってたけど、発言が破廉恥だしお互い様だよね、まったく。


 義兄様が静電気起こしてパチパチさせようとしたらすぐ退散したよ。

危険察知能力がまた上がったかな?


 あ、一応バリーフェの件では頑張ってくれたみたいだし、そこそこいいお金儲けできそうだから、あの不用意発言は許す事にしたんだ。

仲直りのつもりでバリーフェを贈っておいたよ。

ついでと宣伝だったからだろうっていうのは内緒。


 義兄様の腕に長い胴体引っかけたみたいに抱えられてゆらゆら揺れてたからかな。

何だか眠いなって思ってたら、本当に眠ってたみたい。

起きたらいつもの執務室で義父様のお膝の上で毛布にくるまれてた。


 そうそう、卒業式の後。

貴族女子達の間でネイルシールが大流行。

王妃様もご愛用者の1人となって更に外国にも広まったんだ。

平民女子にはほんのり桜色のコート剤が大流行してる。


 もちろんロイヤリティ登録して、今は他の領のどこかに生産を任せたいねって義父様とお話し中。


 数年後にはブルグル領でネイル専門サロンなんかもできて、レースも合わせてファッションの街ブルグル、なんて呼ばれるようになるんだけど、それは別のお話。


 邪魔な骨も人寂しい真冬の山も有効利用できて、僕としては大満足だ!

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