197.ロイヤル兄弟のお話~ギディアスside
「やあ、バルトス。
今日も良い天気だ。
私の側近になろうか」
「お断りします」
相変わらず私の親友は素っ気ない。
「じゃあ今日こそ私も、とっても可愛い白い毛玉のアリーを膝に乗せて撫でたいな」
「俺の天使は毎日が可愛い白い毛玉ですが、お断りです」
あの卒業式でこの親友の弟であるレイヤードの使い魔として白い····白い、多分鼬?
いや、何かよくわからないけど、庇護欲だけはそそる着ぐるみっぽい服?を着た動物を壇上の王族席から見た。
気づかれないように盗み見てたら仕草がやたら人間くさいし、あの弟に使い魔なんて初耳だったからそれとなく鑑定魔法を使ってみた。
目が合ったのはあの時だけだ。
鑑定の結果はどうやったのか変化した親友の妹、アリーことアリアチェリーナだ。
乗っていた膝はレイヤードの物だったから、彼の得意な魔具を使ったのかもしれない。
それとなく風を使って2人の会話を盗····こっそり聞いてみようとしたけど、レイヤードにそれとなく邪魔された。
私達のすぐ後ろに護衛として控えていたシル、アン、ネビルくらいしか気づいてなかったのに、さすがグレインビルって言うべきかな。
バルトスは式中、会場近くで警備に回っていた騎士団長のハーディスと式後の王族の移動と警護の確認をしていた。
ハーディスはレイヤードと同級生だった狐属のラルクの父親だ。
ラルクは王都騎士団の諜報員として今は国外で諜報活動をしているらしい。
あの卒業式で親友が天使と呼ぶ妹と1度も接触しなかったのは、事前に上司のネビルが細心の注意と魔法を駆使して彼らのタイミングをずらして妨害していたからだ。
もちろん部下の出した『天使が卒業式で金髪女に絆されるのを防ぐ為』という休暇届は握り潰し、嬉々として妨害していたらしい。
そんな2人が団長・副団長でうちの王宮魔術師団は大丈夫なのかと時々危機感を感じるのは秘密だ。
というか、金髪女に絆されるって何?!
アリー何してるの?!
卒業式が終わってあの時はまだ次期生徒会長だった弟のルドルフが飼い主を見つけた大型犬のようにレイヤードの元に走って行った。
あまり私にはしない懐いた態度に、兄心に嫉妬心が灯ったのは秘密だ。
少しグレインビル兄弟の気持ちがわか····いや、あの2人は行き過ぎだ。
あんな風にはなりたくてもなれない。
そんな私の弟が白い毛玉のアリーを見て思わず撫でようとしたらレイヤードに手をピシャリとされて静電気で追い払われていた。
相変わらず王族の扱いをされてないと思って振り返って固まった。
いつの間にか後ろに戻っていた親友の冷たい目があった。
····撫でに行かなくて良かったと心から自分の責任ある行動を褒め称えよう。
「いや、それはさすがに無理がないかな。
え、もしかして元に戻れなくなったとか?」
「そんなわけないだろう。
本日は夜勤明けですからこれで失礼します」
「いやいや、あしらい方が雑。
ねえバルトス、本当に学園に入学させなくて良かったの?」
そう、貴族の子供なら大半が通う国立魔法技術学園に彼の妹は通っていない。
平民ですら在学生の2割は通っている。
もちろん通わない子供もいるが、そういう子供は他国に留学し、留学先の学校で学ぶ。
もちろんあの子のように体が極端に弱いから、という前例はこれまでも無かったわけではないけど。
でも貴族社会でそれは致命的でもある。
まあ従来の貴族の型にはまらず理解、どころか積極的にそれで良しとする家族と、有り余る商才を発揮して独自の交遊関係を広げるあの子の場合は全く問題ないんだろうけど。
「問題ありません。
本日は夜勤明けですからこれで失礼します」
「えー、扱い軽すぎない?
····って、言ってるそばから転移しちゃったよ」
親友のあまりのつれない態度にため息が出る。
あの誘拐事件の後から開いた王族としての私との距離は全然縮まらない。
「兄上もめげないな。
白い毛玉のアリーって何だ?」
「ふふふ、こっちの話だよ、ルド」
気配を感じて振り向けば、たまたま出くわして一部始終をこっそり見ていたらしい弟の登場だ。
最終学年になってから生徒会長としての仕事の傍ら、王族としての仕事もこなしている。
日々の鍛練も欠かさず、体も一回り大きくなった。
バリーフェ捕りの時にあの兄弟から何かを学んだようで、冒険者としての実力を上げている。
王城に帰って来た時は道中を簡単に察せられるくらい、
もちろん留学生達も。
予想を裏切らない状態に生温かい目を向けてしまった。
それにしても護衛のリューイ殿と同行者のアボット弟が活きの良い魚の目だったのは謎だよ。
報告書を読む限り旅の終盤あたりから、自ら親友バルトスに氷漬けにされてマグマを転がったらしい。
猫科の獣人はともかく、竜人ってそんなに好奇心旺盛だったかな?
途中からバリーフェよりマグマに入る方を選んでたみたいなんだけど?
なんて思いつつ、私の執務室へ場所を移す。
「それより生徒会長と冒険者のかけ持ち生活はどう?」
「大変だけど楽しいぞ。
卒業すれば王族としての仕事が本格化するからな。
それまでにA級冒険者になるのが目標だ。
この前レイの任務に同行させて貰えたし、ペルジア先輩と一緒なら時々は同行を許すって言って貰えた」
「へえ、あのレイヤードが?」
それ、しつこく寄ってくるルドルフをアボット弟に面倒押しつけようって魂胆なんじゃ····。
「レイは元々面倒見は悪くないぞ。
アリー嬢が絡まなければ、だが。
あの誘拐事件の後の見合い話と俺の失言でアリー嬢に取られた距離感は全然縮まらないし、レイも絶対に会わせてはくれないんだ····
」
「まあ····それはバルトスも同じだね」
兄弟仲良くため息を吐いてしまう。
「父上達が俺や兄上とアリー嬢をどうにかしようと考えなければいいんだが····」
「そうだね。
でもアリー自身が今や金の卵扱いだからね」
「ああ、絶対何かを狙っての事だと思っていたが、まさかタコやイカのようにバリーフェにあんな価値を付けて商品化までしてしまうなんて····」
(すごいよな、俺の心の妹····)
なんていう心の声が聞こえてきた気がする。
うん、バルトスの話を聞く限り、かなり、本当にたまたまだったみたいだけどね。
君達が頑張って捕ったどこぞの天使の予想を上回る量の魚は、当初廃棄されようとしてたらしいからね。
バリーフェを雪に埋めたの、たまたまだったらしいからね。
尊敬の眼差しを妄想中の
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