195.黒い微笑みとくわばら
「はい。
うっかりバリーフェを柔らかくしてしまいましたの」
「うっかりって何ですの?」
怪訝なお顔のレイチェル様。
そういうお顔してると、どこぞの小説に出てた美人系悪役令嬢っぽいね。
「うーん····何故か?」
「摩訶不思議具合は言い方を変えても変わりませんことよ。
それで?」
とっても呆れたお顔を向けるレイチェル様。
そういうお顔は年相応でむしろ可愛らしいね。
「その後骨と軟骨を別々に、ある魔石を使ってゆっくり煮溶かしますの。
それを混ぜ合わせると不思議現象が起きて、色や柄を着けたのがそれですわ」
正確には配合率を変えて着色したり、細工をちょこちょこしながら何重かに重ねて乾かしていくんだけどね。
ちなみにある魔石っていうのはレイヤード義兄様曰く、マグマ産ていう赤い魔石の事だよ。
「こちらの長持ちさせる為の透明なコート剤は、柔らかくなったバリーフェのお髭を煮溶かして濾過した後に煮溶かした軟骨と混ぜた物ですわ。
空気に触れると固まる性質がありますが、こちらはお湯でふやかして先ほど使った研磨用布巾で優しくこすれば取れましてよ。
シールを貼らずに直に塗っても爪が艶々して綺麗に見えますし、爪の補強にもなりますの。
ほら、こんな感じですわ」
自分の手の甲を上にして見せる。
もちろん事前に爪に塗ってるよ。
「こちらは侍女の方達に差し上げますわ。
蓋と刷毛が一体化していますから、手軽に塗れるようになっていますの。
研磨用布巾もいくつかお渡ししますわね」
加工した木製の蓋のついた小瓶をポーチに両手を突っ込んでガサッと取り出すと、物陰からこっそり様子を伺ってた他の侍女さん達に手渡す。
あちらの世界でお馴染みサイズの小瓶だよ。
ちなみにポーチはいつものマジックバックだから見た目と容量は比例しない。
「まあ!
ありがとうございます!」
「水仕事をしていると爪がかけたりする時もありましたの!」
「それにこれだけでも十分きれいですわ!」
侍女さん達大興奮だ。
爪が欠けたり割れたりするのつらいもんね。
バリーフェのコート剤はどこぞの世界産みたいなツンてした臭いもないし、100%天然成分で色もつけてないから職種を選ばないよ。
「試作品ですから、お知り合いの方達にもぜひ」
「「「そうしますわ!」」」
髪を結ってる侍女さんのポケットに1人が小瓶をいれるとまた作業に戻っていく。
喜んでもらえて良かったよ。
「ネイルシールを剥がす時は無理に剥がさずふやかして少しずつ剥がして下さいませね。
剥がすなら入浴中にご自分でゆっくり剥がすのがおすすめですわ。
剥がれる時は爪の先から少しずつ剥がれる事が多いと思いますが、決して無理には剥がさないで下さいませ。
多少ならそのコートで補修する事もできますし、それなりの粘着力を持たせてありますから、無理に剥がせば爪の表面が傷つきます。
それだけ注意してくださいませ」
「わかりましたわ。
使ってみて、使用感をまたお知らせしますわね。
もちろん侍女達のも」
主の言葉に侍女さんも頷く。
仕上げにレイチェル様にアロマクリームをつけて終わり。
レイチェル様の艶々な金髪もハーフアップで綺麗に結い上げられ、淡水パールや青と紫の宝石のついた銀細工の飾りがついている。
装いに僕が関わってる時はこうして紫を取り入れてくれてる気がするのは気のせいかな?
「ありがとうございます、アリー」
「ささやかですがお祝いが間に合って良かったですわ」
「ふふ。
しっかり広告塔になりますわね」
「ふふふ。
社交界の華と呼ばれるレイチェル様にそうしていただけるととても心強いですわ」
微笑み合う僕達は今後の算段を立てながらとても良い笑顔をしていたと思う。
後に華と宝石の黒い微笑みとブルグル家で噂されたとか、されなかったとか。
「アリー、本当に学園には入学されませんの?」
「致しませんわ。
学園で何かを学ぶメリットより、何かしらに巻き込まれるデメリットの方が大きそうですもの」
笑いがひとしきり終わって遠慮がちに尋ねる。
もちろん僕は肯定する。
学園に貴族はほぼ全ての子供が通うとはいえ、義務教育じゃないから行かなくても問題はないよ。
僕の巻き込まれ体質はマックスレベルだ。
特にロイヤルを引き当てる確率が高い気がする。
僕が来月入学したとして、ロイヤル何人いるんだよって言いたくなるんだよね。
「まあ····確かに····」
憐れみの眼差しやめて。
そもそも昔どこぞのお茶会でいちゃもんつけて食ってかかった双子の片割れは君だからね。
そうして夜会にも同行しようと誘うレイチェル様にお断りを入れる。
式に顔を出すだけで勘弁して欲しい。
同行なんてしたらどんな目に合うかわかんないよ。
ちなみにこの学園の卒業式は外部の人間を卒業生1人につき5人まで呼べるんだ。
肉親や後見人、あと婚約者以外は最後部の席なんだけどね。
「それではレイチェル様。
お先に会場で楽しみにお待ちしておりますね」
「ええ。
一時ですがあなたと学生最後の時間を共有できるのを嬉しく思いましてよ」
挨拶をしてから気配隠しの外套を羽織って彼女の部屋を後にする。
侍女さん達のお顔がとってもキラキラしてた。
少し歩くと呼び止めてくれた義兄様とも無事合流できて少しほっとする。
途中七光り王子を見かけた時はひやっとしたよ。
まさかこんなタイミングで僕の巻き込まれ体質が発揮されるのかと焦っちゃったけどね。
少し距離があったけど、一緒にいた橙頭君が側近候補の子かな?
2人揃ってお疲れの様子で目が死んだ魚みたいだった。
関わらないのにこしたことないよね。
くわばら、くわばら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます