188.泣きの自主規制

「お目覚めかな、私の可愛いアリー」


 あれ、起きぬけに義父様のダンディボイス?


 むくっと体を起こす。

義父様の執務室に置いてるほぼ僕専用のソファに寝転んでたみたいで、僕の愛用毛布が掛けられてた。


 窓には分厚いカーテンが下ろされてるから、夜だよね。

暖炉の火がパチパチしてる。


 ····皆はどこ行った?


「父様····僕いつからここにいるの?」


 確かウィンスさんのお尻尾様に最後のブラッシングは、したよね。


 レイヤード義兄様がウィンスさんと交代で隣に来た、よね。


 横目で部屋の隅でニーアがお土産の袋を用意してるな、て思って····。


 からの、記憶がない?!


「私が帰って来てからだから、夕方だ。

今日は朝からたくさん頑張ったようだね」


 書類から顔を上げて微笑ましく僕を見つめる凛々しい義父様のご尊顔····素敵か!


 ····じゃなかった。


「兄様達は?」

「予想外の王族が来たからね。

送って行って今日はそのまま話し合うとかで、遅くなるかもしれない。

商会長達とガウディは私が戻るより前にそれぞれ帰ったらしいよ。

お土産も含めてアリーにお礼を伝えて欲しいと伝言があった」

「····お見送りまでしたかったのに」

「アリーが朝から用意してたのは彼らも気づいてたみたいでね。

それに加えて急にもてなす人数が増えたんだ。

疲れただろうから起こさずに帰る、むしろアリーに挨拶せずに帰る非礼を詫びてたらしいよ」

「そう····何だか気を使わせちゃった」

「そんな事ないさ。

新たな顧客を狙えるって浮き足立ってたようだ」

「うん、それは間違いなく想像つくけど、せっかくもふもふフリーだったのに····」

「ああ、そうそう。

私の可愛いアリー?」


 ん?

何だろう?

微妙に義父様から圧が····。


「誘拐されてた時によりによって誘拐犯の耳をもふって堪能してたんだって?」


 ギクギクギクッ!


 義兄様達、もう話してたの?!

対応が素早すぎるなんてさすが義兄様達!

しかも僕の寝起きドッキリ大成功じゃないかな?!


「え····えっとぉ····く、熊さんに邪魔されて····堪能、まで、は····」

「私の可愛いアリー?」

「····はい」


 うわーん!

義父様のお顔の圧が····笑顔の圧がぁー!


「あの日はとっても心配したんだけどね?

私の可愛いアリー?」

「ん、んー、えっとぉ····ごめんなさい」

「それで?

どこまで自主規制するのかな?」

「き、規制?!」

「ん?

あの魔具も規制するのかい?」


 なんと?!

くっ、凛々しくとぼけた義父様のお顔も素敵か!


「し、しば、らく?」

「ん?」

「い、いち、ねん?

くらい?」


 声が震えちゃう。

未だかつてないほどに震えちゃう!


「本当に?

たったそれだけ?」

「····に、ねん····」

「ん?」

「う····」

「んん?」


 義父様が静かに立ち上がって僕の側にやってくる。

圧が····圧がやってくる!


「う····う····うわーん!

ごめんなさいぃぃぃぃ!

2年は頑張るから許してええええ!

もう誘拐犯のは触らないからぁぁぁぁ!」


 これ以上はつらすぎる!

頑張れない!

あの魔具には再現できない天然物の魅力があるんだよぉ!


 思わず義父様のお腹めがけて突進して泣きつく。

僕、本当に泣いてるからね。

四捨五入して400才だけど、年がいなんて気にする余裕はないからね!


 こんな事ならあの時ラディアスなんか気にせずもふり倒せばよかったー!

ルド様のばかー!


 なんて事を心で大絶叫だ。


「わかったよ、私の可愛いアリー」

「ほ、ほんと?」


 お顔を上げると苦笑する義父様。

そんなお顔もさまになるとか、僕の義父様素敵すぎない?


「ああ、本当だ。

私の可愛いアリーの泣きどころは可愛いね」


 両手で優しく僕の頬を包んで親指で涙を拭ってくれる。


「だ、だって、ケモ、ケモ耳と、尻尾····ぐすっ」


 お行儀悪いけど、お鼻も啜っちゃう。


「ほら、チンして」


 義父様は僕をお子ちゃま抱っこして専用ソファに腰かけると懐から出したハンカチをお鼻に当ててくれる。

お行儀悪いけど、疲労感もある上にこの時期の口呼吸は虚弱体質の深層の令嬢にはまずい。

大人しく深層の令嬢らしからぬお鼻をチンする。


 義父様はすぐに魔法で洗浄して乾かしたから、乙女的ダメージは少ないね。


「やはり少し熱も出てきたかな。

今日はずっとご飯も食べてないらしいね」

「食べる、タイミング、が、ずれちゃったし、お腹空いて、なかった、から····」

「ほら、もう泣かなくていいんだよ。

アリーの好きなお粥を作らせるから、今日はそれを食べてここで休みなさい。

私も今日はまとめておく書類仕事があるからね。

仮眠する時は一緒に眠ろうか」

「いい、の?」

「もちろん」

「父様、大好き」


 そうして僕の好きな梅干し粥を食べてその日は終わった。

1度だけ夜中に目を覚ますと義父様のお顔があって嬉しかったな。


 結局僕はそれから1ヶ月ほど高熱微熱を繰り返しながら義父様の執務室で1日の大半を過ごしてしまう。


 義兄様達はあのまま国内外のロイヤルとその他達を連れだって旅に出たんだって。

数週間帰って来ないなって思ってたら、僕のお望みのバリーフェと魔石をマジックバックにたくさん入れて帰ってきたからびっくり。


 バリーフェは1人最低3匹以上ずつを目標に捕って、計63匹になったんだって。

何人で行ったのかな?

せっかくだから火山地帯はしごしたって、火山地帯ははしごするものなの?

ていうかこの63匹どうしろと····。


 迷った末にとりあえずバリーフェは腐らせないようにほとんどはバルトス義兄様にお願いして真冬の雪山に埋めて保存してもらった。

グレインビル領のあちこちに天然冷凍庫があって良かったよ。


 ゴロゴロあった魔石の大半は真っ赤な大小の魔石だったんだけど、それは僕のいくつかもってるマジックバックに小分けにして義父様に預けた。


 もう少し体調の落ち着いた春先くらいに魔眼使って改めて個々を確認するつもり。


 そういえば魔石を受け取った時にレイヤード義兄様がマグマ産だから貴重だよって満面の素敵笑顔で言ってたんだ。

マグマ産てどういう意味なのかな?

思い出した時にいつも義兄様達がいないから、きっとそのうち忘れちゃうんだろうな。

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