187.白虎さんのブラッシング
「んっふっふ~、んっふっふ~」
「そんなに喜んでもらえるなんて、虎冥利に尽きるよ、アリー嬢」
僕はまたまた現在進行形ですこぶる上機嫌だ!
自然現象の鼻歌ものりに乗ってる。
新たに用意したブラシでこれまた髪の毛を軽くブラッシングしてから、ぴょこんと頭で主張する白に黒の虎柄をしたお耳様にブラシを走らせる。
白虎のウィンスさんを含む別室メンバーはカンガルーさんのブラッシングが終わってしばらくしたら戻ってきたんだ。
すぐに選手交代してもらうに決まってる。
「改良したのかな?
更に気持ち良くなったね」
「そう言って貰えて嬉しいです。
バゴラさんとペルジアさんのもお土産にしますね」
「いつもありがとう、アリー嬢。
それにお陰様で良い取り引き話もいただけたんだ」
「こちらこそ、お祭りの一件ではグレインビル家の事についても抗議していただいたとか。
ありがとうございます」
「当然だよ」
例によってブラシは一旦ニーアにトスだ。
ニーアはそのまま後ろに下がると最後のお茶を給仕しにかかる。
「それでは····」
「好きにしてね」
言葉のチョイスが気になるけど、もちろんお言葉に甘えちゃう!
ウィンスさんのお耳様も初めは軽く揉んで様子を見つつ、もふっていく。
もふもふもふもふ。
ふわあ!
ウィンスさんのケモ耳様はちょっぴり肉厚で柔らかい毛なんだ!
3兄弟の中でも一番柔らかいよ。
今までは義兄様達のお約束が何故かタイミング良く働いて軽くしか触った事なかったんだけど、今日はお許しが出てるからね!
ウィンスさんも少しお疲れなのかな?
ちょっぴりお耳に硬さがあるね。
指の腹でちゃんと揉み解すよ!
「あ····それ····すごく、いい····」
「痛かったり不快感があったら教えてくださいね」
へっへっへ、こってますねえ、お客さん。
なんて例に違わず今回も心でマッサージ屋さんをイメージしながらこりこりした部分を解す。
にしても気持ち良くなってくれてるのか少し力の抜けた声に言葉のチョイスがちょっぴり····気になる。
「何だろうね····」
「健全な会話のはずなんだが····」
対面に座るロイヤル兄弟のひそひそ話。
「わかるぜ。
アリー嬢のゴッドハンドはやべえ」
「確かにアリーちゃんなら獣人の耳と尻尾のマッサージもマスタークラスだろうねえ」
僕達の横に位置するソファに座る東と南の商会長さん達に同意するようにロイヤル達の後ろに立ってる銀灰狼さんと黒豹さんがうんうんと頷く。
やべえくらい皆気持ち良くなってくれたんだね。
嬉しいな。
そうこうしてる間にニーアはホットミルクを置いていく。
皆ミルクは普通に飲める人達ばかりなのは確認済みだよ。
「昔からアリーに撫でられると人も動物も皆あんな顔をするんだよね」
「気持ち良さそうだな····」
(僕も撫でてほ····ヒィッ)
会長達の対面にいる従兄様に同意するように隣国王子が呟く。
兄弟の隣に座る王子の頭に居座り続ける闇の精霊さんは撫でて欲しそうにこっちを見たんだけど、何で悲鳴あげたの?
できる僕の専属侍女は騒がしさを全く意に介さずお砂糖の入った器をテーブルに数ヶ所、焦げ茶のお粉の入った小さな器を個々に置く。
「皆様、ホットミルクにそちらの焦げ茶のお粉をお好みで入れて溶かしてお飲み下さい。
甘味が欲しい方はそちらのお砂糖をどうぞ」
「アリー、そろそろ時間だからね。
今日はウィンスでおしまいだよ」
「俺の天使はそろそろここに来てもいいんじゃないか」
僕の説明が終わるのを待って義兄様達が口を開く。
そろそろ日も傾いてきてるし、きっと僕の体を心配してくれてる背後のレイヤード義兄様と、自分の隣のスペースをぽんぽんとするバルトス義兄様。
僕を心配してくれてるんだから、もちろん頷くよね。
その間にもお客様達は思い思いに黒と白のお粉を入れてティースプーンでかき混ぜて飲んでいく。
「やはりカハイだな、兄上!」
「香りでわかったけど、シロップよりこちらの方が甘味を好きに調整できていいね」
「カハイにも色々な飲み方があるのだな」
ロイヤル達は感心した様子で自分好みのカフェオレに仕上げていく。
それを横目に僕は仕上げにブラシで白いお髪を整えた。
ウィンスさんも好奇心に駆られたようにお粉の香りを嗅いだりしつつ、自分好みのカフェオレを作っていく。
ニーアは最後にバルトス義兄様の前に白湯を置き、僕にレイヤード義兄様の白湯を手渡す。
義兄様達はブラック派なんだ。
ちなみに僕はレイヤード義兄様のテーブル代わり。
本当は義兄様達のはニーアに作ってもらってから給仕しても良かったんだけど、そこはプレゼンの場だからね。
利用するようで申し訳ないけど、狙い通り商会長さん達はガッツリ義兄様達の手元に集中してたよ。
「これ、カハイの粉だよな?
何で溶けるんだ?」
「カハイって溶ける種類もあるのかい?」
「アリー、何か手を加えたの?」
「俺はこちらの方がカハイの苦味が更にまろやかになって好きだね」
ダンニョルさん、カイヤさんは溶けるカハイに不思議顔だ。
従兄様は僕の事わかってるね。
溶けるカハイは僕的には苦味と独特の風味が物足りなくなるけど、獣人さんにはちょうどいいのかな。
溶けるカハイ、そう、それはスプレードライ方式で作ったインスタントコーヒーだよ。
フリーズドライ方式で作ってもいいんだけど、これには技術的な問題の他にも別の問題が出てきそうだから今は触れない。
「僕はやっぱり濾したのをそのままで飲むのがいいね」
「俺もだ」
「私も父様もそうなのでグレインビル家は抽出派ですね」
もちろん僕もだよ。
嬉しくなっちゃう。
「なるほど。
確かに独特の風味は濾した方がいいものね」
とはウィンスさん。
「アリー嬢、この溶けるカハイはどうやったんだ?
カハイの粉を溶かしてるのか?」
「違いますよ。
でもこれには技術や必要な物があるんです。
なのでここでは秘密です」
「成る程な!
アリー嬢もやり手ってわけか!」
「今はこういう事もできる、と思っておいて下さい。
ダンニョルさんはそういうのも含めて採算が取れるよう、まずは南国の物流を確保していって下さいね」
そう、ダンニョルさんの言う通り、僕は全てをタダになんかしないのだ。
それに少量だからこそ義兄様達にお願いして作れるけど、国外流通レベルになるとさすがに設備投資も必要だから今の南国の各商会の力では色々と難しい。
それでも教えたのは僕がコーヒー大好き人間だから!
後はこれをヒントに誰か別の人が考案してくれないかなあと期待して。
だってこの製法使うと飲み物だけじゃなくてスープなんかもインスタント化出来ちゃう。
あんまり派手にやると国家レベルで話がきそうだから今は黙っておいた方がいいよね。
兵糧とか考えるのは僕でなくていいもの。
ギディ様の視線はもちろん無視だよ、無視。
「次は尻尾ですね!」
なんて言いつつ、ソファに移動するとカップの中身をゆっくり飲んでるウィンスさんも斜めに座り直してくれたよ。
あれ、もしかして虎さんは猫舌だったのかな?
なんて思ってると義兄様達もそれぞれなでなでとぎゅっとしてくれる。
「尻尾に触りますね」
「いつでもどうぞ」
僕の言葉に人好きのする優しげなお顔が振り向いて微笑む。
お言葉に甘えてまずはブラッシングだ。
やっぱりお尻尾様の毛も柔らかいんだね。
にこにこしつつ、ブラッシングも丁寧にしつつ、皆の歓談に何となく耳を傾ける。
ダンニョルさんは海外進出をスムーズに漕ぎ出せそうで良かったね。
他の人達もそれぞれ収穫はあったみたいだし、僕も思わぬ信仰を深めるいい機会になったよ。
ブラシを横に置いてさあ、次は信仰のクライマックス!
お尻尾様だよ!
もふもふもふもふ。
「へへへへへへへへ」
やばい、もうお顔が緩みっぱなしだ。
「俺の天使はどんな時も可愛いな」
「僕のアリーはどんな時もぶれないところが魅力的ですから」
ふふふ、僕のこのケモ耳ケモ尻尾様信仰は一生涯ぶれないだろうね。
理解がある家族で良かった。
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