153.コアサ団子

「これ、こないだ渡したコアサだね。

香ばしくて甘い良い香りだ」

「これはコアサをまぶして揚げたのかい?

丸っとしてて美味しそうだ」

「はい、ウィンスさんから先日頂いたんですが、カイヤさんもいただいてましたか?」


 ウィンスさんは言いながら、カイヤさんは僕の言葉に頷いてから丸いそれを口に運ぶ。


「旨い!

それに香ばしいコアサと甘い餡の風味が絶妙だ。

コアサってこんな風に使えるんだね。

これ、この泡立てたミーにも合うね」


 ウィンスさんはにこにこと抹茶とのコラボを楽しんでる。


「美味しい!

モチモチしてて口当たりがいいし、コアサの食感と合わさって今までにない味だ。

それに屋台でも出せそうだね」


 良かった、気に入ってくれたみたい。

ちなみにコアサは胡麻。

そう、これは胡麻団子だ!


「アリーちゃん、この餡を包む餅の皮はどうやって作ったんだい?

ただの餅じゃないよね?」

「原材料は少し前にいただいた餅ベイですが、製造過程を工夫しました」


 どうでもいいけど餅ベイはもちもちのベイが語源らしいよ。


「それは····色々と良い匂いがする話だねえ。

アリーちゃんが1度体調を整えた来月あたりにお邪魔しちゃっていいかい?

ね?

アボット会長?」

「是非とも!

アリー嬢、いいかな?」

「もちろんですよ」


 僕はすぐに頷いたけど、申し訳ない気持ちになる。


「その····すぐに対応できなくて····」

「あらら、何言おうとしてんだい!」


 カイヤさんが慌てて僕の言葉を遮る。


「こっちは色々とツテ作ってもらえたり、世の中に宣伝したい自国の食材の可能性を広げて貰ってんだよ!

ありがとうね、アリーちゃん」

「そうだよ。

俺だって何の信用もない状態で他国に来て、こんなにリーや自国の食材を宣伝する場ができて、国の外交に一役買えるようになるなんて思わなかったんだからね。

ありがとう、アリー嬢」


 くっ、いい人達だなあ。

誰かに大事にされるって嬉しいね。


「「今後ともご贔屓に」」


 商魂は逞しい根っからの商人気質の人達だけど。

でもそこは僕も負けないよ!


「はい!

こちらこそ、ご贔屓に」


 ふふふふ、へへへへ、ほほほほ、と3人で笑い合う。

これが後に孤児院で黒い笑いの会談と噂される事を僕達はまだ知らない。


「それじゃ、そろそろ南の屋台に回るので行きますね」


 ひとしりき笑ってから立ち上がる。

これ以上はどちらの商会とも込み入ったお話になるから、それぞれ個別に人の耳が届かない所で話さないとね。


「じゃあ途中まで俺がお供するよ。

西のブースに戻るのにちょうど通るからね。

美味しいコアサ団子のお礼にいくらか奢らせて。

それにコアサの原産地は元々南の国々から流れてきて西の国々に広まったとされててね、色は白と黒があるんだ。

アボット商会を立ち上げる前、南の商会の連中とも顔見知りになってたんだ」

「そうなんですね。

それは心強いお供です!

じゃあ屋台の美味しい物食べさせて下さい!」

「うふふ、アリーちゃん、食べ過ぎて動けなくなったらいつでも言ってちょうだいね。

今年はお客さんが増えるのを見越して人員増やしてるから、うちのケルトを迎えに寄越すよ」


 もしかしたらウィンスさんは僕の体を心配してカイヤさんの所で待っててくれてたんじゃないかな。

カイヤさんも僕の体調の悪化を考えて手を打ってくれてたんじゃないのかな。


「はい、その時はお言葉に甘えます!」


 なんて心をほっこりさせながら白虎さんとカイヤさんのブースを後にする。


 そしてしばらく歩くと目的の南の屋台に到着した。


「今回初出展の甘くて美味しい飲み物だよ!

甘いだけじゃない、苦~い飲み物もあるから挑戦したいお客さんがいたら挑戦しておくれ~!」


 よく焼けた肌に馬のお耳をもう少し大きくしたような縦長のお耳、毛の短い太めの長い尻尾をした逞しい体の砂色の髪と目のお兄さんが客引きしてる。

何の獣人さんだろ?


「彼はカンガルー属だよ。

飲んでみるかい?」

「ぜひ!」


 ウィンスさんが僕の表情から最適解を出した後、誘ってくれる。

もちろん頷くよね。


「やあ、ダンニョル。

もうかってるかい?」

「いらっしゃ····何だ、ウィンスじゃねえか!

偵察か?!」


 おお!

さすがカンガルー属!

ファイティングポーズが様になってる!


「相変わらず好戦的だね。

違うよ。

今日はこの子と少し屋台を回ってるんだ」

「ん?

隠れててわかんなかったぜ!

可愛い嬢ちゃん、南の飲み物は初めてか?」

「····え、嬢ちゃん····」


 あれ、今日の僕はどこにでもいる町中コーデ····。


「ダンニョル····」


 あれ、どうしてかウィンスさんが片手を顔に当ててはぁ、っとため息ついてる?!


「ん?

どうした、嬢ちゃん?」


 くっ、逞しいお兄さんのカンガルー耳のきょとん顔でこのコーデを前にした嬢ちゃん発言はつらい!


「えっと、僕····女の子に見えます?」

「ん?

いいとこの嬢ちゃんにしか見えねえぞ?」

「ダンニョル····」


 再びウィンスさんがため息····。


 何だとー?!


「そんな····今年こそ完璧などこにでもいる町中男子コーデだったはずなのに····しかもいいとこの?!

なぜ?!」


 薄汚れた顔にくたびれたシャツとズボンしてるのに?!


「いや、確かに薄汚れた顔にくたびれた服は着てっけど、姿勢が良いし、言葉も綺麗なんだよ。

それでよく見たら顔も骨格も男子とは違うからよ。

何だ、そんな落ち込む事だったのか?!

なあ、悪かったよ!」


 そ、そうか····姿勢と言葉と骨格····砕けた感じにしてたけど、姿勢からしてまだまだだったとは····。

変装は奥が深いね!


 でも焦って謝るカンガルーさんは目の保養。

触りたいけど、今回のお祭りも義兄様達から禁止されている。

知ってても知らなくてもお触り禁止というバージョンアップだ。

何なら昨日の夜から今朝まで義兄様達は泊まりこんで2人体制で数時間置きにダメだと言い続けた。

世の中世知辛いよね。


 あ、レイヤード義兄様は今年の春に無事卒業して冒険者やってたり、何か色々してて帰ってくる頻度は学生の頃とあんまり変わらないんだ。


「ほら、アリー嬢。

南国の木の実のジュースだよ!

ダンニョル、早く切って出して!」

「おっと、待ってな」


 しょぼんとした僕に慌てたのかウィンスさんがダンニョルさんを急かす。

すると屋台のカウンターに置いてあった僕なら両手でないと持てない緑色のやや楕円形のボールを片手でひょいと持つ。


 あれ、それって····。


 ダンニョルさんは手にした鉈包丁で上側をスパッと切ってストローを刺して差し出してくれた。


「ほら、ヤッツジュースだ」


 両手で受け取って一口。

独特で、僕の知ってるあの甘さと独特の風味が鼻腔を抜ける。


「美味しい!」

「だろう!」


 ダンニョルさんは得意顔。

僕は大興奮!


 ココナッツジュースだー!

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