152.2年ぶりの商業祭

「ケルトさん、お久しぶりです!

一口焼きちょうだい!」

「お、う、嬢ち····じゃねえ、坊っちゃん!

今年は無事祭りに来れたみてえだな!

カイヤも体力がついてきたって喜んでたよ!

そういや頼まれてたアレ、用意してるってよ」

「ふふふー、今年こそはの格好も様になってるみたいですね!」


 坊っちゃんと言われて喜んだ僕はくるりと1回転して本日のどこにでもいる平民男子コーデを披露した。

一昨年のアボット兄弟からの指摘を受け、ニーアにお願いして顔をそれとなく薄汚れた感じにしてもらっている。

心からのアドバイスは素直に受け取るのが僕だ!


「お、おう!

今までの中じゃ1番それっぽいぜ!」

「えへへ、じゃあ完璧ですね!

ありがとうございます!」

「へ?!

いや、あ、ああ、今までの中じゃあ完璧、だな····ははは」


 あれ?

何であらぬ方向見てるの?

 

「ちゃんと僕1人でお祭りに来れるくらいには体力も回復したんです!

これからカイヤさんに会いにブースへお邪魔するつもりだから、今日はアレを受け取れるんですね!

やったぁ!」


 とはいえやっぱり苦手とする変装が完璧と言われれば嬉しいよね!


 僕はひとしきり喜んでから、ふと思い出してマジックバッグをごそごそと漁る。

忘れるところだったよ。


「はい、ケルトさん、差し入れ!

ベイと餡で作ったデザートです。

疲れた時にどうぞ!」

「へ、いいのかい?!」

「もちろん!

食べる時は少し温めた方が美味しいと思います。

従姉様の件でも色々お世話になってますから、ぜひ受け取って下さい!」

「あはは!

あの嬢ちゃんはカイヤにしごかれて半泣きになっても負けん気としぶとさで食らいついてっからな!

いい根性してるってカイヤも言ってたよ。

へへ、じゃあ昼休憩の時にでもいただくよ。

ほら、におまけだ!」

「うわぁ、ありがとう!

じゃあまたね、ケルトさん!」

「おぅ、気をつけてな」


 一昨年と違って屋台には焼き鳥の他にタコ焼き、イカ焼き、一口焼きが並んでいる。

人も増員されて鉄壁の構えで儲けにきてるね。


 ケルトさんから一口焼きとおまけの串焼き詰め合わせをマジックバッグにしまう。


 今年は南の商会に新しい商品が充実してるって聞いたけど、先にカイヤさんのいる東の商会のブースから行こう。

あんまり歩き回ると疲れてまた体調崩しちゃうかもしれないもの。

この1年は本当に大変だったんだから。


 少し背が伸びて、体重も一昨年の春くらいまで戻した僕は人混みに流される事もなく、例年通りきょろきょろしながら目的地に着いた。


「カイヤさんはいらっしゃいますか」


 お手伝いらしき子供にお願いする。

すぐに奥からカイヤさんが出てきた。

あれ、もう1人。

白虎さんもだ!


「いらっしゃい、アリーちゃん!

可愛らしい坊やに変装しちゃってもうー!

今年は参加できたみたいで良かったよ!」

「やあ、アリー嬢。

一昨年と違って研究したみたいだね。

体調は大丈夫かい?」

「はい!

夏からは体調も落ち着いてて、体力もだいぶ戻りました!

今年こそどこにでもいる町中男子コーデです!」


 僕はケルトさんの時のようにくるりと回って見せる。

さすがに今日は先に来る事を伝えておいたから商人達の目は騙せなかったみたい。

でも今年は白虎さんにも褒められたし、完璧みたいだね!


「「····」」


 あれ、何で貼りついた笑顔になってるのかな?


「こほん。

そうそう、頼まれてたアレ。

持ってくるから奥でアボット会長と休んでてちょうだい」

「そうだね、行こうか」


 自然な感じで白虎さんことウィンス=アボット会長が奥の個室へエスコートしてくれた。

何だか自然に流されたような····。

ま、いっか。

多分個室は僕が来るから衝立で囲って簡易で作ってくれたんだろうな。


「どうしてウィンスさんがこちらに?

西の商会のブースはいいの?」


 腰かけながら素直に聞いてみる。


「アリー嬢がこの時間にここに来るのはカイヤ会長から聞いてたからさ。

今年は南の屋台も回るんでしょう?

アリー嬢ならそれからうちのブースに顔を出してくれそうだけど、体力が尽きても無理して来そうだからね」

「え、あ、気を遣わせちゃい····えっと、ありがとうございます?」


 思わず謝ろうとして、お礼に切り替える。

きっと謝るとそっちの方が気を遣わせちゃうよね。


「ふふ、俺もちょうど手が空いたし、どうせならお得意様で色々助言してくれるアリー嬢には先にご挨拶しとこうかなって思っただけ。

お礼言われると気持ちいいね。

こちらこそいつもありがとう」

「へへへ、どういたしまして」


 にこにこ笑顔の白虎さん、尊い。

お耳がたまんない。

あのブラシ使ってくれてるのかな。

お耳も尻尾も光沢感あって艶々してて健康そう。


「アリーちゃん、お待たせ」


 カイヤさんがお盆に色々乗せてやって来た。

まずは急須。

多分お湯が入ってる。

それから緑色のお粉が入った筒、茶碗、茶筅、茶杓だ。

茶筅は癖直しにかぽっと被せてあるね。


「とりあえず試作品として作ってみたのを持って来たんだけど、どうだい?」


 僕は全て手に取って確認する。


「いいですね。

じゃあちょっと作ってみましょうか」


 ウィンスさん、好奇心にわくわくした目と耳のコラボがたまりません。


 まずは緑のお粉を茶杓で2杯ほどすくって茶碗に入れ、急須のお湯を注ぐ。

茶筅で下に沈殿した粉をすくいつつ、シャカシャカと切るように混ぜて泡立てる。


 茶筅を立てらして置いたらまずは一口····。


「んー、これです!

泡立てた分クリーミーですし、ミーの独特の苦味が抜けてますね!」


 カイヤさんがほっと一息つく。


「アリー嬢、俺もいただいていい?!」

「もちろんです」


 そう言ってカイヤさんの分も含めて2杯分作る。

確かミーは獣人さんには受けが悪いんだけど····。


「うん、アリーちゃんが泡立てると私がやるより旨いね!」

「これ、香りはミーなのにあの苦味がないね!

これならミーの苦手な獣人でも飲めそうだ!」

「良かったです。

そうだ、これもどうぞ」


 ひとまずほっとして、マジックバッグからケルトさんにも渡したデザートを取り出した。


 ふふふ、本日の目的の1つを今解禁!

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