154.カハイ

「じゃあそっちの黒いジュースは····」


 ココナッツジュースならぬヤッツジュースを飲んだ僕は黒い飲み物をギラリとロックオン。


「いや、嬢ちゃん、そっちは子供にゃ苦いぞ?!」


 カンガルー属のダンニョルさんが慌てて止める。


「売り物を売らないなんて、酷い!」

「いや、本当に子供と獣人ウケが悪すぎたんだよ!」

「アリー嬢、あのカハイは本当に苦いんだけど、それでも飲むかい?」

「もちろん!」


 ふんす、と鼻息も荒く頷く。


「あーもう!

後で泣いても知らねえからな!」


 とか言いながらも冷やした真っ黒い液体を出してくれる。

口元に持っていくとふわりと香る懐かしい香り。

思わず顔がほころぶ。


 いざ、一口!


「ん、苦い」


 これはなかなかの苦さだ。


 固唾を飲んで見守る白虎さんとカンガルーさんがほらな、と苦笑した。


 しかし僕はめげない!

そして更にもう一口。


「んふふ····」


 1つ前の生前の僕が愛飲しまくってた懐かしいお味についつい笑ってしまった僕。

そんな僕にちょっと引いてる2人。

····ひどい。


 でも僕はかなり上機嫌。

マジックバッグから一口焼きを出して頬張り、またまた一口。


「んふふふふ····」


 このコラボ、最高か!

再び笑う僕に今度は体ごと後退する2人。

いや、ひどくない?


 結局最後まで飲んでしまった。


「美味しかったです!」

「えっ····」

「マジかよ····」


 下手物げてものな何かを見るように僕を見るなんて!

もう!

ケモミミさん達ってばひどいんだから!


「そもそもだったら何で屋台に出したんです?」

「いやあ、うちの国では年寄りがよく飲んでてよ。

長年愛飲してると癖になるらしいわ。

本当だったらミルク入れて飲ませてぇんだけど、あいにく屋台で出すには傷み易いってんで許可下りなかったんだよ。

まあそんな売れるとも思わなかったからこっちは他国ではどうなんのか反応見る為にって意味合いが強え」

「なるほど。

これは浸漬式····えっと、淹れ方は?」

「ん?

豆を粉砕して煮出して飲むんだ」

「なるほど。

このお豆は南の商会のブースで手に入りますか?」

「おう、入るぜ!

つうか買う気かよ?!」

「もちろんです!

今買わずしていつ買うんですか!」


 今の僕は求めていた飲み物を見つけてテンション高めだ!

絶対に獲物は逃さないぞ!


「そ、そうか。

だったら南の商会でダンニョルに聞いたって言えばいい。

他にも南国の香辛料とかも置いてあるから興味があったら試飲と試食してみな。

つうかウィンスがついてっから平気か」

「そうだね。

俺も久々に挨拶しとこうかな」


 そう言いながらお代をダンニョルさんに払ってくれるウィンスさん。

ありがとう、白虎さん。

そのお耳と尻尾をもふりたい。


「じゃあ気をつけて行け····」

「兄貴!」


 ざざっと砂煙を上げてカンガルーさんの言葉を勢いよく遮って登場したのは見覚えのある茶虎さんだった。


「どうしたんだい、バゴラ?」

「大変なんだ!

すぐ戻ってくれ!」

「へ?!

ちょっと落ち着いて!

何があった?」


 ウィンスさんの腕を掴んで今すぐにでも連行しようとする弟のバゴラさんに兄のウィンスさんが踏ん張って抵抗する。


「何かどっかの貴族のお偉いさんらしいガキ共がブースで難癖つけてきて、会長出せとか、国交問題にしたいのかとか喚いてんだ。

ブースにいた子供らもそいつらが蹴ったりして何人か怪我しちまった!」

「は?!

何だそれ!

アリー嬢····」

「行って下さい。

あ、待って。

えっと、えっと····兄様ぁぁぁぁ!!!!」


 とりあえずどっかにいるだろうと思って叫んでみる。


「何だい、俺の可愛い天使」

「うわ!

誰だよ?!」


 突然の義兄様の出現に後ろにジャンプするダンニョルさん。

カンガルーさんだからか跳躍力すごいな。


「兄上、ずるいですよ!」

「ふっ、早い者勝ちだ」

「「····相変わらずのシスコン····」」


 義兄様達が転移してきたかと思った瞬間、バルトス義兄様がさっと僕を抱き上げた。

アボット兄弟の反応は完全無視だ。


「兄様達、やっぱりついて来てたんだね。

今日は1人で行動するって言っておいたのに」


 ぷくっと頬っぺた膨らましてお怒りアピールだ。


「ごめんね、アリー」

「2年ぶりだったから天使が心配だったんだ····」


 しょんぼり項垂れる麗しの義兄様達····最高に目の保養です!

····じゃなかった。


「という事で、2人共ウィンスさん達と西の商会のブース行って騒がしい貴族の子息達を黙らせて来て」

「なっ、天使から目を離せと?!」

「えー、一応王宮魔術師なんだから兄上だけで行ってよ」

「駄目です。

国交問題とか言うなら他国の高位貴族でしょうし、街中に配備されてる見回りの騎士達の手に余るかもしれないでしょう。

お手伝いの子供達は来年もお手伝いをしに来る子も多いんだから、恐怖心は兄様達の麗しい王子様スマイルで癒しておいて欲しいの」


 なおも不服そうな義兄様達。

もう、可愛いんだから。


「その代わり、さっさと終わるようなら一緒に回ろう?

そろそろ疲れたの。

抱っこして一緒に回ってほしいな。

私はこのまま南の商会のブースに行くから、そこで合流しよう?

ね、お願い?」

「本当か?!

実に3年ぶりの天使とお祭りデート。

滾る!」

「僕なんか4年ぶりなんですからね、兄上。

絶対だよ、アリー」

「もちろん挑むところ!」


 そんな僕達の会話を虎さん2人とカンガルーさんは遠巻きにして見ていた。


「さすがグレインビルの悪魔使いだよね」

「え?!

あの噂の?!」

「あ、ダンの国にももう噂いってんだ?」

「え、俺嬢ちゃんにけっこう色々言ったけど、無事でいられるか?」

「ダンニョル、幸運を祈るよ」


 ちょっと待って!

何かカンガルーさんに勘違いされてないかな?!

何でさっきから目を合わせてくれなくなったの?!


「ほら、アボット兄弟、行くよ」

「じゃあ後で兄様が抱っこするから待っててくれ、俺の天使」


 レイヤード義兄様が虎さん達を連れてそれぞれ転移していなくなった。

転移間際の抱っこするのは僕だからって言葉はひとまず聞かなかった事にしよう。


「じゃ、僕はこれで」

「あ、ああ、気をつけてな····坊っちゃん」


 最後だけは男の子扱いしてくれたらしい。

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