150.食べさせ合いっこ~レイヤードside
「お待たせ、レイヤード兄様」
可愛らしい声と共にスープ、そして夏に約束してたふわとろ玉子のオムライスがそっと並べられた。
「えへへ。
今日はね、玉子にチーズも混ぜたんだ。
兄様まだまだ成長期だから、たんぱく質取らないとね」
そう言ってアリーはにこにこと微笑む。
そんなアリーの頭にはそこそこ大きめの真っ白な耳。
室内着となった真っ白な氷熊のポンチョの隙間からはふさふさの尻尾が生えている。
何これ!
可愛いが炸裂してるんだけど!
頭の上からこめかみのあたりまである真っ白で大きい三角耳が同系統色の白銀髪によって逆に引き立てられ、触り心地の良さをアピールするかのように毛がふわふわだ。
部屋で過ごす事も多いアリーはもちろん色白。
全ての基調色が白系統ばかりだから顔がぼやけるかと思いきや、大きくて白い三角耳がこめかみのあたりまで存在しているが為に髪の銀色が濃く見えて紫暗の垂れ目、ほんのり色付く薄桃色の頬、それより濃い桃色の唇の色が映えて優しげな顔立ちが更に優しく儚げで、とんでもない庇護欲をとんでもなく暴発させまくってる。
前にアリーに言われて魔具に記憶させた、僕達の世界には多分いないフェネックっていう小型動物の耳と尻尾だ。
ポンチョからはみ出てる白い尻尾もふわふわしていて、触り心地はこっちも良さげだね。
アリーは僕や兄上に生やしたかったみたいだけど、出来上がった物を確認した時から絶対アリーに使おうと思って機会を狙ってた。
アリーは自分が使われるのには何故か抵抗感があるみたいで、なかなか使わせてくれない。
それもそのはずで、今耳はピコピコ、尻尾はユラユラと動いてるから、きっと心底恥ずかしいのをひた隠してるんだと思う。
『だって····僕もう、いい年した老人だよ?』
中身は確かに推定で400才に近いみたいだけど、そんな子供の外見で真っ赤になりながら初な反応してると説得力がないよね。
その時のいじらしいアリーを思い出してじっと見つめていると、どうしてか頬の赤味が増した。
「あの、兄様、食べないの?
それともこのお耳と尻尾、似合わない?
元々兄様達用に作ってもらったやつだし、変える?」
少し早口になりながら顔を赤くする妹のさらなる進化をとげる爆発的な庇護欲に、他の下衆な男には見せないと改めて誓う。
「ふふ、ごめんね。
その耳と尻尾があまりにも似合い過ぎてて他の男が見たらちょっと殺っとこうかなって思っちゃっただけだよ」
「····ん?
家族以外の男の人に見せる予定ないよ?
あ、セバスチャンとか料理長とかは見たけど、不可抗力だよね」
「そこらへんは要相談かな。
それよりほら、ここに乗って?」
「え、でも食べにくくならない?」
とか言いつつも約束だったからか素直に膝に乗ってくる。
やっぱり春先から比べると少し軽くなってる。
あの城で目覚めた直後よりは戻ってきてるけど、食欲はまだまだ完全には戻らない。
甘味もしばらく受けつけなくなってたけど、あの不良物件元令嬢が研究してる豆の試食のお陰で改善はされてきた。
あの不良物件もここらへんで少しは役に立ってくれないと、いい加減消したくなる。
育ち盛りはアリーもなのに、相変わらず僕達家族を優先させるんだから。
アリーのオムライスを手元に引き寄せる。
自分用のは小さめに作ったみたいだね。
「大丈夫。
ほら、お口開けて?」
「え、えと、自分で····」
「ほら、アリーも一緒に食べてくれないと僕も食べられないよ?
いい子だから、あーん」
頭の三角耳を撫でながら言い聞かせると、戸惑いながら口を開ける。
····やばい、これ····何かが滾る。
「僕、もういいお年なのに····」
恥ずかしさからか顔全体が赤く染まって、伏し目がちの紫暗の目が潤む。
普段は僕達への愛情を恥ずかしげもなく全面に押し出すくせに、子供にするような愛情を行動で示されるのは恥ずかしくなっちゃうんだよ。
うちの妹は可愛すぎる。
更にもう一口食べさせると羞恥の限界がきたのか両手で顔を隠しちゃった。
その状態で大きなふわふわ三角耳がピコピコ動く方がある意味視界には暴力的だよ?
尻尾の揺れもゆっくりだけど大きくなってるし。
「そんなに恥ずかしいなら、食べさせ合いっこしよう?
ほら、僕のお世話して?
アリー?」
僕の言葉におずおずと顔を上げる。
何なの、その顔!
可愛いが過ぎるよ!
「お、お世話?」
「嫌?
フェネックなアリーに食べさせて欲しいな?」
アリーは基本的に僕達家族のお世話は好きなんだよね。
ほら、潤んだ目がキラキラしてきた。
「する!
兄様、あーん」
「····ん····美味しい。
チーズのこくとまろやかさがトマトの酸味によく合うね」
頭をそっと撫でると気持ち良さげに目を細める。
「はい、アリーも。
あーん」
「ん」
少し恥ずかしさが薄らいだみたいだね。
顔の赤味が引いて、今度は尻尾がパタパタ揺れてる。
「兄様、あーん」
「アリー、あーん」
僕達は交互に食べさせ合う。
こうやって少しずつ食べる量を増やしていこうね、僕の大切な
雪が時々ちらつくようになったグレインビルの本格的な冬はもうそこだから。
何年ぶりかにあれだけ大きく体調を崩して体重も食欲も落ちるなんて、とんでもない虚弱体質のアリーがこの冬をちゃんと越せるのか邸の使用人どころか領民ですらも心配してる。
いつもなら冬前までは愛馬のポニーちゃんと領内を散歩したり、孤児の数が減って1つで対応できるようになった学校兼孤児院に訪問したりしてるのに、全然行けてないからね。
秋に1度だけタコとイカを愛でる会を領の子供を邸の庭に集めてやったけど、次の日からしばらく熱を出してしまったし、領をあげて現在進行形で心配中だ。
材料を献上したアボット先輩にはお礼に訓練をつけておいた。
まだまだぁ!と気絶するまで立ち向かってくる根性は誉めてあげてもいい。
まだ冒険者としてはBクラスだし、手加減はしておいたよ。
「これで最後だよ、兄様。
あーん」
いつの間にか全部食べちゃったな。
最後の一口を食べさせてもらう。
アリーは量が少ないから先に終わってしまった。
膝に乗せて食べさせてもらうとスープは溢れるかもしれないから、自分でさっさと飲む。
「美味しかったよ、アリー」
「良かった。
じゃあ次はあっちで食後のお茶しながらお耳と尻尾を撫で撫でする?」
恥ずかしさをほんのり滲ませながら膝の上で上目遣いに聞いてくる三角耳のアリーとか、どんだけ可愛いが暴力的なの?!
「····もちろん、そうするよ」
伝染した恥ずかしくもくすぐったい胸の内を誤魔化すように少し勢いをつけて立ち上がる。
もちろん鍛えてるし、11才にしては小さくて軽い妹だから抱えて立ち上がったってぐらつくはずもない。
父上によって1番空調を整えられた執務室でゆっくりと耳と尻尾を堪能した。
出かけていた父上が戻る頃には、僕の膝枕で昼寝を始めたアリーにつられていつの間にか僕も眠ってしまっていた。
獣人の耳と尻尾が大好きなアリーの気持ちがちょっとわかった1日だった。
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